174,サンドイッチとカフェオレとショッキングな話
彼は、もしも話している途中で辛くなったら、そう言って中断してもかまわないと言った。どうやら彼は、陸斗くんの話が島永くんに関することだと思っているらしい。
そうかもしれないし、彼が僕を気遣ってくれているのもわかる。でも、たとえどんな内容でも、ちゃんと受け止めるべきなのではないかと思う。
僕はただ、僕と二人で話したいと言った陸斗くんの気持ちに報いたいのだ。
公園に入って行くと、先に来ていた陸斗くんが、ベンチから立ち上がってぺこりと頭を下げた。僕はちょっと手を振ってから、近くまで行く。
緊張の面持ちの陸斗くんに、二つの包みのうちの一つを差し出した。
「これ、仁さんが作ったサンドイッチなんだけど、よかったらどうぞ」
「あっ、ありがとうございます」
「僕、お昼がまだだから、食べながらでいい?」
「もちろんです。あっ、飲み物買って来ますけど、何がいいですか?」
そう言って、陸斗くんが入り口脇の自販機を指す。
「悪いね。カフェオレってあったかな」
「はい、あります」
「じゃあそれを」
言い終わらないうちに、陸斗くんは走って行った。
お腹がペコペコの僕は、とりあえず食事に専念する。ハムとレタスのサンドイッチも、玉子のも、ほんのり甘いクリームチーズとハチミツのも、全部おいしい。
仁さんってやっぱり天才だな。そう思いながらペットボトルのカフェオレを飲んでいると、横で陸斗くんが言った。
「あの……」
「うん?」
見ると、陸斗くんは手に持ったサンドイッチを食べずにじっと見つめている。
「実はですね、僕、島永くんとお別れしました」
「えっ……」
ケンカではなく、お別れ? 話の内容に関する予想の中の一つには一応入っていたものの、実際にそう言われると、やはりショックだ。
「この前、二人でニュアージュに行った後、ちょっとモメまして」
「ケンカしたの?」
「ケンカというか、あの後島永くん、ずっと日下部さんの話ばかりするもんですから、僕がちょっとスネたわけです」
「そっ、それは……」
「いえ、別に日下部さんを責めてるわけじゃありません。でも、一応僕たち付き合っているわけですし、僕の前でほかの人のことをベタぼめするのは無神経なんじゃないかと」
「ベ、ベタぼめ……」
「そりゃあ日下部さんはかわいいですけど、そんなに何度も言わなくても……」
「い、いや、かわいくなんか」
陸斗くんは、サンドイッチを見つめたまま淡々と話す。
「そうしたら彼、僕のことをめんどくさいって」
「え……それはひどいよ」
陸斗くんがちらりと僕を見た。
「ですよね。なんでも言い合えるのが恋人同士だと思っていたのに」
「そうだよ」
鼻息も荒く言うと、陸斗くんは体ごとこちらに向いた。
「日下部さんと笹垣さんは、なんでも言い合えるんですか?」
「あっ……まあ、そうかな」
「はあ、いいですねえ」
「たまには、ちょっと(彼が)言い過ぎて、(彼が)落ち込んだりすることもあるけど。それに、僕は過去の恋愛のことなんかは、あんまり聞きたくないかな」
「やっぱりそうですか」
やっぱり、とは?
「僕、お付き合いしたのが初めてだったから、そういうの、よくわかっていなくて。島永くんが、それなら俺も言ってやるって……」
しばし黙った後、陸斗くんは再び話し始めた。
「彼、ちゃんと付き合ったのは僕が初めてだって言っていたから、言葉通りに受け取っていたんですけど、そうじゃなかったみたいで」
「えっ?」
「彼が言ったのは、ステディな関係になったのは僕が初めてっていう意味で、それまではネットで相手を探して、いろんな人と遊んでいたみたいで。そんなにめんどくさいことを言われるなら、前のほうがよかったって」
「そんな……」
「僕、ショックでつい、そんなの不潔だって言っちゃったんです。そうしたら、じゃあ別れようって」
「あ……」




