171,島永くんと猫トークで盛り上がることといかんいかんと思うこと
彼のお母さんは、手術後順調に回復し、来店がてら、三人で東京に遊びに来たのだという。たくさんお土産も持ってきてくれた。
真子さんがあれこれ説明し、彼のお母さんは、感激したように店内を見回していた。僕の母とも挨拶を交わし、店内が一気ににぎやかになった。
みんな彼の料理やスイーツをおいしいおいしいと言って食べ、彼も言葉は少ないながら、とてもうれしそうだった。
今日は三人でホテルに一泊するそうで、帰りがけに、真子さんが僕に小声でささやいた。
「今度また、健壱くんと二人で来るね」
「ぜひ。お待ちしています」
陸斗くんには僕からニュアージュの再開を知らせたところ、島永くんと一緒に、いつもそうしていたように休憩時間に遊びに来てくれることになった。
「おじゃまします」
島永くんをともなって、ちょっと照れくさそうにドアを開けた陸斗くんは、店内を見回しながら言った。
「あれ、お母さんは?」
僕の母のことだ。
「今日は、猫の予防接種を受けに動物病院病院に行ったんだよ」
「へえ、そうなんですか。ええと、こちらは島永紀仁くんです」
「はじめまして、島永です」
ぺこりとお辞儀をした島永くんは、写真で見たよりもさらにイケメンで、すらりと背が高く、本当にモデルみたいだ。もちろん、仁さんのほうがもっと素敵だけれど。
「笹垣です」
「日下部です」
「二人とも、よく来てくれたね。さあ座って」
彼が二人をテーブルに案内する。陸斗くんが、椅子にかけながら島永くんに言った。
「お二人には、すごくお世話になってるんだ。お似合いのカップルだろ?」
島永くんが言った。
「お二人のことは、いつも香月から聞いています。日下部さんはケガをされたそうですけど」
「うん、もうすっかりよくなって、それでお店も再開したんだけどね」
「それはよかったですね」
そう言いながら見せた笑顔が爽やかだ。
「ありがとう」
答えてから、僕は食事の用意をしている彼を手伝いにカウンターに入った。今日は二人が来るので、メインはいつもの賄いよりグレードアップした冷製パスタで、僕も楽しみにしているのだ。
「うわ、うんまっ。これで賄いなんですか?」
「そう、メニューにはないんだ」
「へえ、俺たちだけが食べられるなんて超ラッキー」
島永くんは物おじしない性格らしく、もりもり食べながらよくしゃべる。
「日下部さんのご実家で猫を飼ってるんですね。俺んちもスコティッシュフォールドがいるんです」
「へえ、そうなんだ。うちはただのミックスだけど、キジトラでかわいいんだよ」
「キジトラいいですよね。白が入ってるキジトラですか?」
「そう。顎からお腹にかけて白いの」
「あっ、いいですね。全部キジトラより白が入ってるほうが好きだな」
「だよね。僕もそう」
「名前、なんていうんですか?」
「桃太郎」
「じゃあ男の子なんですね」
「うん、君んちのスコちゃんは?」
「うちも男の子で名前はムッシュです」
「へー、かわいい名前」
つい猫トークで盛り上がってしまったけれど、ふと陸斗くんの視線を感じて、僕は我に返った。いかんいかん。
お互いに他意はなくても、人の恋人と二人だけの話題で盛り上がるのはよくないと思う。それ以降は、なるべく島永くんとは目を合わせないようにして、自分からは話しかけないように気をつけた。
その後は、特にギクシャクすることもなく、みんなで楽しく会話を続け、デザートにアイスクリームを食べた。
休憩時間の終わりが近づき、「そろそろ」と言って二人は立ち上がった。帰りがけ、島永くんは僕を見てにっこり笑った。
「お会いできてよかったです。猫ちゃんによろしく」
食事の後片付けと開店の準備をしながら、彼がおもむろに言った。
「これはあくまで客観的な意見として言うけど」
「え?」




