168,困惑する彼と謝る叔父さんと恥ずかしくて言葉が出ない僕
まさかみんながお祝いしてくれるなんて思ってもいなかったし、今日から開店するんだと思って、ずっと緊張していたから。
「晴臣くん、ごめん。こういうのは好きじゃなかったかな」
「だって……」
涙をぬぐっていると、自転車に乗った人がちらりとこちらを見ながら通り過ぎて行った。それをきっかけに、僕たちは店内に入る。
僕の顔を見て、母が心配そうにつぶやいた。
「晴臣?」
彼が困惑気味に言う。
「びっくりしたみたいで……」
すると、叔父さんが言った。
「サプライズにしようって言い出したのは僕なんだ。ごめんよ」
叔父さんの申し訳なさそうな顔を見てよけいに涙があふれる。父が言う。
「みんなお前のことを心配していたんだぞ」
そう言えば、今日は土曜日だけれど、父たちの休みに合わせたのかと今になって気づく。母も言う。
「晴臣が元気になって、またニュアージュを再開できること、みんな本当によかったと思って喜んでいるのよ」
わかっている。わかっているし、ありがたいと思うけれど、言われれば言われるほど涙があふれる。
もちろん、うれしい気持ちもあるのだけれど、それをうまく伝えられないことと、みんなを困らせていることが申し訳なくて、よけいに涙が止まらなくなった。
21歳にもなって恥ずかしい。猫のTシャツと相まって、これじゃまるで子供じゃないか。
それは、みんなで料理やスイーツを持ち寄ったささやかな会だった。みんなが、なんとか場を盛り上げようとしてくれているのがわかる。
父までが、「これはうまいなあ」とか、やたらと料理をほめている。
みんなの前で、もっとちゃんと(?)喜びを表すことができたらいいのにと思いつつ、泣いてしまった恥ずかしさもあって言葉が出ない。せめてもの罪滅ぼしに(と言うのも変だけれど)、僕は料理とスイーツをせっせと食べた。
梨加さんが作ったというスイートポテトパイとチーズスティックパイがとてもおいしかった。それと、両親がカナヤマで買ってきたプチケーキも。
父と叔父さんは缶ビールを飲んでいるけれど、僕はフルーツ味の炭酸飲料だ。味覚も含めて、やっぱり僕って子供かも……。
食事が終わりに近づいた頃、斜め前に座っている叔父さんが言った。
「晴臣くん、ホントにごめんよ。君に喜んでほしいと思ったんだけど、考えてみたら、君はこういうのは得意じゃなかったよね。
つい調子に乗っちゃって、僕がやる気満々だったものだから、きっと誰も反対できなかったんだよ。仁くんやお義姉さんは悪くないから」
「そんな」
僕はあわてて否定する。
「僕こそ、バカみたいに泣いてすいませんでした。ちょっとびっくりしただけで、本当はうれしかったんです。
ただ、いい年をして泣いたのが恥ずかしくて……。僕が泣き虫なのはみんな知っているだろうけど、梨加さんの前でまで……」
すると、叔父さんの隣に座っている梨加さんが笑顔で言った。
「気にしないでください。泣くのは、別に悪いことじゃないと思いますよ」
「あっ……ありがとうございます。あの、梨加さんが作ったパイ、すっごくおいしいですね」
「わあ、ありがとう。うれしいわ……」
そう言いながら叔父さんと顔を見合わせる姿がかわいらしくて、叔父さんは素敵な人を見つけたなあと思った。
みんなと別れて帰り道をたどっていると、彼がうつむいたまま言った。
「君を騙すようなことをして、ごめん」
外は早くも夕暮れどきで、涼しい風が吹いている。
「そんなこと思ってないよ」
それは本当だ。事情は全部わかったし、むしろ彼にもみんなにも気を遣わせてしまって申し訳なかったと思っている。
ただただ、泣いてしまった僕がいけないのだ。
「でも、君が昨日からずっと緊張しているのを見ていて、とても心苦しかった。今日だって、一生懸命に開店の準備をしていたのに」




