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167,何も身につけていない朝となかなか来ない母と頭の中が真っ白になること

 夜、ベッドにあお向けになって天井を見つめていると、後から来た彼が、横になりながら言った。

 

「ずいぶん真剣な顔をして、考え事?」


「そうじゃないけど……」

 

「明日のこと、緊張してるの?」


「うん」


「大丈夫だよ。僕もお母さんもいるし、心配しなくても、すべてうまく行くから」


「うん」


「今夜は眠れなそう?」


「うん」


 そこで彼が、ふふっと笑った。横を見ると、顔を近づけてきながら言う。

 

「じゃあ、眠れるようにしてあげようか」


「え?」


「運動して疲れれば、きっとよく眠れるよ」


「……運動?」


「しよう」


 つまり、アレか? アレなのかっ!?


「えっ、でも、明日に差し支え」


 言いかけたところで、唇をふさがれた。

 

 

 濃厚なキスの後で、彼が言った。

 

「明日に差し支えないように、程よく疲れるくらいにしよう」


「えっ、あっ」


 程よくって、そんなふうに調節できるものなのか……?



 何か答えるより前に、なし崩し的に行為は始まった。終わった後、僕は彼が言った通り、すぐにそのまま眠ってしまい、気がつくと朝だった。

 

 とはいえ、朝の明るさの中で目覚めたときに、何も身に着けていないというのは、とても心細くて恥ずかしいものだけれど。

 

 

 

 翌朝は、炊飯器ケーキとフルーツサラダとコーヒーの朝食の後、用意をしてマンションを出た。早くも太陽が照りつけ、今日も暑くなりそうだ。

 

「そのTシャツ、かわいいね。よく似合っている」


「ありがとう」


 それは、母が誕生日に贈ってくれたうちの一枚だ。胸の猫のイラストがかわいすぎる気もするけれど(そのせいで、僕もますます子供っぽく見えてしまいそうだけれど)、エプロンを着ければ、猫は隠れてしまうし、母に着ているところを見せたいと思って着てきたのだ。

 

 察しのいい彼がほほえんだ。

 

「きっとお母さんも喜ぶよ」


「えへへ」




 ところが、開店の準備を始めても、母はなかなかやって来ない。きちんとした性格の母は、何か急用でもできたのならば連絡をくれそうなものだけれど、もしや連絡できないような事態が起きているのではと心配になる。

 

 ただでさえ久々の開店でドキドキしている僕は気が気ではない。お客さんがたくさん来たら、母なしでうまく対応できるだろうか……。

 

 ヤキモキしている僕に、彼がのんびりした声で言った。

 

「晴臣くん、そろそろ時間だから、OPENのプレートを出してくれる?」


「あっ、うん」


 まだお母さんが来ていないのに……。不安な気持ちを胸にドアを開けると。

 

 

 

「……え?」


 一瞬、頭の中が真っ白になった。ドアの内側からは見えない位置に、母だけでなく、父、叔父さん、梨加さんが満面の笑みを浮かべて立っていたのだ。

 

「な……え? どうして?」


 呆然としていると、みんなで目くばせし合ってから、叔父さんが口を開いた。

 

「晴臣くん、おめでとう」


「え?」


 訳がわからない。誕生日、はもうとっくに祝ってもらったし。

 

 ポカンとしていると、母が言った。

 

「今日は晴臣の快気祝いなのよ」


「え?」


 足音に、後ろを振り返ると、近づいて来た彼が笑顔で言った。

 

「サプライズだよ。驚いた?」


「あ……」


「君に内緒で、みんなで考えたんだ。みなさん、どうぞお入りになってください」


 みんなぞろぞろと店内に入って行く。その姿を見ながら立ち尽くしていると、彼がそばに来た。

 

「さあ、晴臣くんも入ろう」


 彼が僕の肩に手を置いてうながすけれど、僕は立ち尽くしたまま言った。

 

「でも、今日から開店するんじゃないの?」


「お店は明日からやるよ。今日はみんなで、君が元気になったお祝いをするんだよ」


「そんな、聞いてないよ」


 彼がふふっと笑う。

 

「何しろ内緒にしていたからね。サプライズは成功したかな」


「そんな、ずるいよ……」


 この場合、ずるいという言葉はおかしいし、なんならかなり失礼な言い草だ。でも僕は、あまりに驚きすぎて泣いてしまった。

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