赤い蝶ネクタイ
赤い蝶ネクタイ
今日は。
秋祭りの、お神輿が通るから。
朝早くに、出発した。
まだ、人も、出始める前。
車は、すいすい、進める。
信号機のない、横断歩道に、
さしかかる。
右を、二度見した。
赤い蝶ネクタイをした、
からすが。
内股気味に立ち。
横断歩道の端に、
きちんと、居る。
赤い蝶ネクタイが、
あんまりにも、可愛いから。
声を、かけてみる。
おでかけですか。
頷く。
乗って行かれますか?
頷く。
開けた窓まで、ひらりと、ひと飛び。
窓枠を、横に移動して。
足を開いて、片足ずつ、
ハンドルに、のり。
助手席じゃなく。
コンソールボックスに向かって、跳ねた。
うまく、のって。
あたりを、見回す。
では。
出発いたしますよ。
頷く。
からすは、珍しそうに。
フロントガラスの、
向こうの景色を、見る。
首を傾げたり。
尾羽を、上下に振ったり。
からすの。
つやつやとした黒い羽や。
きらきらした丸い目や。
爪が、コンソールボックスの端に、
当たる音が。
楽しくて。
あっという間に。
お届け物を配り終えた。
コンビニの駐車場に、入ると。
向かいの電線に。
からすが、一羽、留まっている。
隣に居る、からすが。
こちらを見る。
おむかえですか。
頷く。
助手席の窓を開けると。
とん、と、枠に留まり。
横を向いて。
ちょっと、頭を下げた。
身軽に飛び出して。
翼を、大きく、ひろげた。
電線のからすも、飛び立ち。
2羽は並んで。
土手の向こうに、飛んで行った。