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――震える。心が、身体が、感覚が、震える。
「何か」に導かれるようにして、とある一人の青年が走っていた。
元々、丈夫で強い兄とは違って、彼はそれほど身体を動かしたりするのが得意ではなかった。けれど、そのおかげで「あの場」から逃れ、こうして外に出ることができた。この幸運を無駄にしないためにも、今はとにかく走り続けなければいけない。
――急げ、急げ。この先に、会いたい人達がいる。
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それから、街に着いた私たちは旅の支度を色々と済ませることにした。
ひとまず、私が連れていた馬とリヒトの馬二頭で馬車を作ることにした。
馬車はなかなかの優れもので、中には簡易の二段寝台二つが備えられていた。まだ見ぬ騎士達もこれで安心だ。
代金は……私が持って来た分とリヒトが稼いだらしいお金で何とか工面した。まだまだ先も長そうなので、ある程度の余裕も残しておいた。
「大丈夫? 重くない?」
馬車を引かせるのが初めてだったので、私は心配になって愛馬に声を掛ける。すると、鼻を擦り寄せて来たので、私は撫でてやる。どうやら、私の役に立てて嬉しいらしい。
「君もありがとうね」
そう言ってリヒトの馬に声を掛けると、頭を撫でさせてくれた。たっぷり撫でて、彼のことも労う。
他にも色々と準備をしていると、すっかり日が暮れてしまったので、その日だけは宿屋に泊まることにした。
そして、宿屋ではこれからどこへ行くのかも話し合った。特に行くあてもないので、ひとまずリヒトが弟さんを探していない場所に行くことを決め、私たちは眠りについた。
真夜中。
……何か物音がする。目を開けようとしたが、できなかった。――魔法か何かで縛られている。
「ほう……まだ育っていませんか。 都合が良い、あの方もその方がやりがいがあるというもの」
何者かが耳元でつぶやき、私を抱きかかえる。
……だめ、離して! 動こうとしても動けない。頼みの首飾りに手を伸ばすこともできない。私はカレのされるがままになる。
助けを求めることもできない。リヒトも縛られているんだろうか。動く様子がない。誰かっ……!!
「彼女に触るな!!」
ふと、どこからかそんな声が聞こえた。
一瞬身体が軽くなり、身動きが取れるようになり、私は逃げるよりも先に、声の主に懇願した。
「お願い……彼を解放して……!」
――きっと魔法を解いたのはその見知らぬ誰かだろうと思い、そう声を掛ける。
すぐさま彼はリヒトを解放したようだが、何者かが再び魔法を掛け私を囚えると、外套の中に抱き、その場を離れた。
私はどうすることもできないまま、リヒトが助けに来てくれることを願うしかできなかった。