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「それで、リヒトはどうして旅をしているの?」
街に向かう道中、私はリヒトに尋ねる。
「弟を……探しているんだ」
どこか辛そうな表情を浮かべて、リヒトが小さな声で言う。
「弟さんを?」
「……あぁ、俺には双子の弟がいるんだ。 さっき見せた〝剣〟あるだろ? まだ小さい時、あれを狙ってきた連中に襲われて……生き別れになってしまったんだ」
リヒトから聞いた過去に衝撃を受け、私は思わず息を呑む。話すのが辛いのか、リヒトはそれ以上詳しいことを口にしなかった。
何も言えず、ただ彼の顔を見つめていると、私を安心させようとしてくれたのか、リヒトはにっと微笑してみせた。
「でも、何となくだけど……弟が生きてるってのはわかるんだ。 ――だから、こうして旅をして探してる」
「見つかるといいね」――リヒトにそんな言葉を掛けようとした瞬間、何かが引っ掛かる。そう思いながら、口から出たのは……――。
「――きっと見つかるよ」
そんな言葉だった。……え!?
「……え?」
リヒトからも驚きの声が上がる。……いや、そりゃそうだよ、私と出会う前から、長い間旅しているはずだもん。
無意識に、そして不意を突いた言葉に、私は慌てて口を手で覆う。それを見たリヒトが何かを合点したのか、それ以上は何も聞き返さなかった。
私は自分の口をふさいだまま、少し考える。……きっと見つかる? どうしてそんな確信めいているんだろうか。
……いや、まさか? だけど、一瞬は考えた。もしかしたら、双子なのだからリヒトと同じく「そう」なのではないか――と。でも、そんな都合良くいくワケがない。そう考え直したのに。だけど……――。
口から手を離し、私は首飾りを取り出す。――当然のように「反応」はない。
(……ねぇ、ひょっとして「そう」なの?)
そう問い掛けてみると、心なしか、水晶がきらりと一瞬光ったような気がした。
けれど、それ以上の反応は何もなかった。
もう少し、私に「力」があれば……――そう考えずにはいられなかったが、一つだけ「思うところ」があった。
……もし。――もし、リヒトの弟さんが本当に「そう」だとすれば、早く見つけ出してリヒトに会わせてあげたい。「五人の騎士」だからとかそんな理由ではなく、私を助けてくれたリヒトとずっと探している弟さんを会わせてあげたい。――単純に、リヒトの力になりたいとそう思えて仕方がなかった。
……だけど、「覚醒」したばかりらしい私にはまだそんな力はない。
「ごめんね、変なこと言って。 とりあえず、街へ行こう?」
誤魔化すように笑って、私はそう言いながら、市場の方へと足を向けた。
リヒトは困惑した様子で「あ……あぁ」とうなずいて、私の後を追うのだった。
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――けれど、その直後に、私たちに新しい「出会い」が待ち受けていたのだ。