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「――俺がヒメのことを守るから」
なぜそんなことを口にしたのか、青年は自分でも分からずにいた。
――けれど、彼には後悔など一つもなかった。
それに、〝剣〟が共鳴していたのもこの少女だ。振るったのは剣の方だというのに、鞘に納めていてもずっとなりやまず落ち着かないでいる。彼女にはそれほどの「もの」が何かあるのだ。
どのみち、青年の覚悟はとっくに決まっていた。ひとまず、かは少女の返答を待つことにしたのだった。
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――彼の手を握った瞬間、私の中で「何か」が少しだけ覚醒した。
〈――姫、彼がそうですよ〉
「衝撃」が走ったかと思いきや、頭の中にそんな〈声〉がきこえたのだ。
その瞬間、これが父の言っていた〈声〉だということに気付く。そして……――。
「……俺、ヒメの旅に一緒についていってもいいか? ――俺がヒメのことを守るから」
――彼からの思いがけないからの申し出に、私は思考が止まってしまっていた。
いや、願ったり叶ったりではあるんだけど……! この先彼を連れ回すからにはむしろ私の方からお願いしないといけない。
「ダメ……か?」
私が返事をしないので、少し悲しそうな表情を浮かべて、リヒトがそう尋ねる。
「そうじゃないの! いや、あの……すごくありがたいし、嬉しいんだけどね!!」
慌てているせいで、とんでもないことを口走っていることに気が付いて、私は急に恥ずかしくなり、顔を赤らめる。リヒトから目をそらしながら、私は胸元から首飾りを取り出す。
――光っている。〈声〉がきこえたから、きっと欠片の方も反応があるはずと思ったが、やっぱりそうだった。
「それは……?」
「これはね、私が守ることになるこの国の『宝』のひとつなの。 これはほんの一欠片だけど、城にある水晶にはもっと大きな『力』があるの。 私が旅に出た理由はね、その『力』を使うことができるようになるためと、姫である私と水晶を守護してくれる『五人の騎士』という存在を探すためなの」
そこで一呼吸置いて、私はリヒトの様子をうかがう。――驚いてはいるが、真剣に私の話を聞いてくれている。その表情を見て、私は覚悟を決めて、その続きを口にした。
「あのね、信じてもらえないかもしれないけど、水晶の〈声〉が今聞こえて、あなたがその『五人の騎士』の一人だって言ってるの! えっと、それだけじゃなくて……。 変な話なんだけど、私、あなたが『守ってくれる』って言ってくれたの、本当に嬉しくて……。 ――初めて会ったばかりなのに私と一緒に来てほしいって、すごく思ってるの。 だから、私から改めて言わせて。 ――リヒト、私の旅に同行してもらえませんか?」
――そう、「衝撃」を受けたのはリヒトが「五人の騎士」だと直感したからだけではない。初めて会ったばかりなのに、「姫」としてではなく、私個人として彼と向き合いたいと思えたからだった。そんな気持ちになったのは初めてで、私は素直に彼と一緒にいたいとそう感じたのだ。
「あぁ、もちろんだ。 最初からそのつもりだし、さっきも言っただろう? ――俺がヒメを守るって。 それに……だ」
リヒトはすぐに返事をしてくれた。かと思いきや、突然両手を合わせ、何やら詠唱のようなものを口にし出した。
すると、どこからか「剣」が現れ、リヒトはその柄をしっかり握ると、私の方へと差し出した。
その「剣」を見た瞬間、私はすぐに気付く。――これ、さっきリヒトが振るっていたのとは違う剣だ。それに、この〝剣〟……水晶と同じくらい貴重な「もの」だ。
「この〝剣〟は俺の家に代々伝わる『もの』で、特別な『力』を持ってるから大切に守れって言われてきた〝剣〟なんだ。 ヒメみたいに〈声〉は聞こえないけど、今日ずっと『何か』に共鳴してうるさかったんだ。 きっと、この〝剣〟はヒメとその水晶に共鳴してたんだろうな。 ――だから、俺、お前の言うこと信じるよ」
そう話すと、リヒトは〝剣〟を掲げたまま、その場にひざまずくと、私の目を見て改めて宣言した。
「――俺、この〝剣〟に誓うよ。 何があっても、ヒメのことは俺がまもりぬくって」
――こうして、私は運命の出会いを果たし、「五人の騎士」の一人であるリヒトを見出したのだった。