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✿ 4


 ――気が付けば、身体が先に動いていた。

 

 〝剣〟が導くまま、青年が進んだ先には一人の少女がいた。

 金色の美しい髪の少女は何かに憂いてうずくまり、その水色の瞳を揺らしていた。

 だが、いつの間にか、少女の目の前に【()】が立ち塞がっていた。

 気配を感じたのか、青年が声を掛けるよりも先に少女が顔を上げる。掴みかかろうと伸ばされた手を避け、【()】から距離を取った。だが、少女は(おび)えているのか、どうすることもできず、その場に立ち尽くしていた。

 再び【()】が少女を(とら)えようと手を伸ばす。

 ――その瞬間、気が付くと、青年はその前に割って入っていた。

 とっさに、【()】ではあるが「ソレ」が人間であることを思い出し、()を振るう。

 それでもきちんと効いていて、【()】がひるんだように少し後退する。

 青年はその様子を目にして、たたみ掛けるように言い放った。

「――彼女に手を出すな」

 すると、【()】はすぐにその場を去って行った。

 剣をおさめながら、青年は振り向く。

 ――少女が驚いた目で、じっと青年を見上げている。

 その姿を見た瞬間、青年は直感した。

 ……あぁ、きっとこの少女(ひと)だ。


    ✿


 ――私を助けてくれたのは一人の青年だった。


 彼は剣の一振りだけで、(オトコ)を退けてくれた。おまけに、たったの一言――何か深い意味を含んでいるように感じる言葉を口にしていた。

 振り向いた彼の姿に、私は思わずドキリとする。黒髪に、海のように深い青色の瞳。――その瞳を見ているだけで吸い込まれそうになる。

「あの……助けてくれてありがとう」

 お礼を口にしながら、私はなぜか彼から目を離せないでいた。……きっと、この人がそう(・・)だ。

「別に。 ……で? なんでこんなところで独りでいるんだ? お前(・・)、良いとこのお嬢さんか何かなんだろう?」

 聞かれて、私は一瞬黙り込む。

 彼は初対面で一度助けてもらっただけの男の人。おまけに「お前(・・)」呼ばわりする失礼なヤツ。普通なら、そのまま何も話さなかっただろう。

「私……。 私ね、この国の姫なの。 修行の旅に出たところで、これからどうしようか考えてたところなの」

 ――なのに、気が付くと、私は口を開いて自分の正体すら明かしてしまっていた。

 彼は目を見開くと、気まずそうに頭をかいた後、素直に「あぁ……それは申し訳ない」と謝った。

「だけど……ごめん。 堅苦しいのとか、俺、その……慣れてないんだ。 『このまま』でもいいか?」

「うん、いいよ。 私も『いつも通り』にさせてもらうから」

 ……不思議。彼の前だと、「姫」としてではなく、自然体でいたいと思ってしまう。きっとそれは彼も同じかもしれないと考え、私は彼の申し出にうなずいてみせた。

「えっと……名前は?」

「オルフィーメリア。 長いから、皆、オルフィーもしくはオルヒ、メリアって色々呼んでるよ。 だから好きに呼んでいいよ」

「オルフィーメリア。 オルフィー、メリア……うーん……」

 彼は呼び名を口にして何か悩んでいる。長い名前も呼び慣れないんだろうか。

「フィーメ……フィメ……――『ヒメ』……! なぁ、ちょうどお姫様みたいだし、『ヒメ』って呼んでいいか?」

 なんと彼からは意外な呼び名がついてしまった! まさかのオルフィーメリアの「フィーメ」から取って、さらにそれをオルヒのように縮めて「ヒメ」。おまけに私が姫であることを含んでいるらしい……? こじつけもいいところだけど、まぁそれも悪くないかもしれない。

「うん、いいよ」

「じゃあ、『ヒメ』、そう呼ばせてもらうぜ。 俺はリヒトだ」

「リヒト、よろしくね」

 名前を名乗り、彼――リヒトは手を差し出し、悪手を求めた。

 私はすぐにその手を握る。その瞬間、私に「衝撃」が走り呆然としていると、リヒトが思いがけない申し出を口にするのを耳にしたのだった。

「なぁ、ヒメ。 初めて会ってこんなこと言うのも変な話だとは思うけどさ。 俺、ヒメの旅に一緒についていってもいいか? ――俺がヒメのことを守るから」

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