✿ 3
――たいせつなひとを見つけたら、何があってもまもりなさい。
ふと、頭に父の言葉が蘇る。
それと同時に、〝剣〟が「何か」に共鳴する。
青年は顔を上げ、その方向を見つめた。
……〝剣〟がざわついて落ち着かない。少し考え、青年はそちらに向かう。
たどり着いた先に見つかるのが「捜し物」だといいが。そんなことを考えながら、青年は導かれるようにして、〝剣〟が共鳴する方向へと進むのだった。
✿
「オルヒ様ぁ……」「どうか無事で……」
玉座から一歩出ると、慕ってくれていた臣下や召使い達が(何人かは涙を流しながら)別れを惜しんでくれていた。
ついには私の後をついて回るので、私は不安な気持ちを一旦落ち着かせ、笑顔で振り向いた。
「皆、大丈夫だって! 私、たくさん学んでちゃんと帰ってくるから! だから、ね? いつでも私が戻っても大丈夫なように、父様母様を支えてお城を守っててくれない?」
いつもの調子で明るく言うと、皆は一斉に「かしこまりました」とうなずいてみせた。
「見送りもいいから! 皆、仕事に戻って!」
続けてそう言うと、ようやく皆が仕事に戻る。
周りに誰もいなくなったのを確認してから、私は城の外へと向かう。
……とはいえ。これからどうしたものか。だって、そんな簡単に「五人の騎士」とやらに会えるのだろうか。運良く誰か一人に出会えればいいが、もしも会えなかったら? その時ちゃんと自分のことを守れるのだろうか?
「姫様! 王様から『馬を連れて行くように』と言付かっております!」
ふと一人の臣下から声を掛けられ、慌てて思考を止め、私は微笑みながら「ありがとう」と返し、外に出て厩舎へ向かう。
もちろん、乗馬もお手の物だ。おまけに、私には愛馬もいて、心を通わせるほど愛馬とは仲が良いため、少しさみしさも和らいだ。
愛馬に乗り、城の門まで来ると、私は足を止める。そして、正面、右、左と目を向けると、ため息をついた。
……どっちへ行けばいいのやら。行き先のあてが全くない。私には水晶の〈声〉はまだきこえない。つまり「導き」とやらもないわけだ。
悩みながら、私は知らず知らずのうちに首飾りに触れていた。そして、もう一度辺りを見回す。正面、右、左……。
すると、不思議なことに、少しだけ「ピン」と来た方向が見つかった。私はその方向を見つめ、考える。……はっきり言って、何か感じる程度で「導き」かは分からない。けれど、今はその「直感」に従ってみるしかない。
どうせあてはないんだ。それなら行ってみても損はないだろう。私は一か八か、その方向へと進むことを決めたのだった。
✿
……でも、行けども行けども何もない。
やっぱりただの直感だったんだろうか。
たどり着いた先は国を見渡せる丘。私は地面に座り込み、考える。
どうしよう。……どうしよう、どうしよう、どうしよう。
まだ出発したばかりだと言うのに、先が全く見えず、一気に不安が募る。
……何が救世主だ。こんなんじゃ、私なんて何もできないちっぽけな存在じゃないか。
ため息が出る。押し寄せる不安に負け、私は顔を伏せようとした。
――その時だった。
ふと、私の肩に手が伸びるのが目に映った。
驚いて顔を上げると、そこには【影】がいた。
だけど、一瞬【そう】見えただけで、実際には一人の男が私に掴みかかろうとしていただけだった。
慌てて立ち上がり、私は男から距離を取る。今見たことが理解できず、私は反撃を躊躇う。……男は人間ではないのだろうか。
その隙に、男がまた私に掴みかかろうとしていた。
思わず顔をそむけようとしたその時、誰かが間に割って入り、鮮やかに剣を振るのが目に入った。
「――彼女に手を出すな」