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「あの場所」を初めて訪れてから十数年後。
私はすっかり成長していた。
私ーーオルフィーメリアは大国シェリーモルドの姫として、その間色々なことを学んできた。作法、政治、情勢、交渉術……。シェリーモルドには私の他に世継ぎがいなかったから、とにかくありとあらゆるものを叩き込まれた。
ちなみに、名前が長いため、周りからは「オルフィー」や「メリア」なんて呼ばれていた。もしくは「オルフィー」を更に縮めて、「オルヒ」なんて呼ばれることもあった。
王族として勉強の数々をこなさなければいけなかったが、それをイヤだとは思ったことは一度もなかった。――「あの場所」で「宝」を見てからというものの、自分は国を守り、人々を幸福に導いていくものだと自覚したからだった。
ただ……一つ思うことがあるとするなら、あまり戦う術だけは教えてもらえなかったことだけは少々不満だった。教わったのは癒やしの魔法と自分を守るための魔法を少しだけ。シェリーモルドの王族には、十五歳になれば修行の旅に出るしきたりがあるというのに、それだけでは不安が募るばかりだった。
一度だけ、どうして必要最低限の魔法しか教えてくれないのか、国の王である父に聞いてみたことがある。すると父は……――。
「いつか分かるよ」
――なぁんて微笑んではぐらかせて、はっきりと答えてくれなかった。……絶対外に出たら危ないことあって、ちょっとだけの魔法じゃこっちは不安なのに。
そうふてくされていたら、なぜか父は「あの場所」に私を連れて来て、こう言い聞かせたのである。
「目を閉じて、〈声〉を聞いてごらん。 そうすれば、少しは楽になる」
……。……いや、なんで!? 父の意味するところがさっぱり分からず、思わずそう思ってしまう。
とはいえ……。父の目は真剣そのものだったので、腑に落ちなかったが、言われた通りにしてみる。
――すると、あの頃には理解できなかったことが理解できたのである。
この「宝」には……本当にとてつもない「力」がある。その「力」があまりに大きすぎて、「宝」には人ならざる〝もの〟の守護がついている。
そうだと理解できると、改めて、自分はこの「宝」を正しく使い――いや、守っていかなければならないのだと強く感じた。
すると、不思議なことに「宝」がきらりと輝いた気がした。父のいう〈声〉とやらは聞こえなかったが、「宝」への理解は少しだけ深まった気がした。
それを知ってか知らずか、父は満足そうにじっと私を見つめると、そっと「宝」に手を伸ばした。
その瞬間、「宝」はまばゆい光を放った。
思わず目をそむけてしまったが、光が消え、再び父の手を見ると、その手には「宝」の欠片がひとつ輝いていた。
いつの間に? 不思議に思っていると、父はその欠片を私に差し出した。
「ほら。 この欠片がお前を導いてくれるよ」
えっ、「何」に? そう思っていると、父がまたあのはぐらかすような微笑みを浮かべた。
恨めしく、父をにらんでいると、父が微笑んだまま言うのだった。
「いつか分かるよ」
まーたそれか。私は小さく肩をすくめるのだった。
そして……――。
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――そして、その数年後。
いよいよ、「出発」の時が来たのである。