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『心当たりがあるってどういうこと!?』
エイトの発言に、私・リヒト・ハルトの三人で彼に詰め寄る。
その勢いに、エイトが思わず後ずさりしながら、「えぇと……」と口ごもる。
「いや……確信はそんなにないんだ。 けど、何か感じるものがあったってだけで……」
それでも、何も手掛かりがないよりはずっと良い。少しでも可能性があるなら、それに賭けてみたい。
「教えて、エイト。 ――その人はどこに?」
私が真剣な眼差しでそう尋ねると、エイトはまだ唸りながらも記憶をたどり始めた。
「えっとね、どこと言われると場所ははっきりしないんだけど……。 旅の途中、食べるものに困って森の中で狩りをしていてね、そこで彼と出会ったんだ」
具体的な場所が分からないと聞いて、思わずがっかりしてしまったが、まだ続きを話すエイトに耳を傾けることにした。
「彼はとても弓が得意な人だったよ。 俺、そんなに長期戦向いてないのにさ、手間取っちゃって、獲物が粘ってしつこくて危ないところを助けてもらったんだ」
なんでも、エイトは大きな獲物を見つけ、その獲物の体力を短剣で少しずつ削り、隙を探っていたらしい。そして、ようやく決着がつこうとしていたところに、その獲物が最後の力を振り絞り、エイトに覆いかぶさろうとした。目の前まで迫った獲物に、短剣で防ごうとしたところに、「その人」が現れ、弓で獲物を仕留め、彼を救ったそうだ。
「――その時だよ。 何か、ピンと来るものがあったのは。 でも、ヒメさんの時みたいには『直感』の正体がまだわからなくてさ、その時は深く気にしてなかったんだ」
話を聞く限りでは、「その人」が「五人の騎士」である可能性が高いように思えた。少なくとも、エイトが私を見つけてくれた時の「直感」は当たっていたのだ。そんな彼を信じるなら、きっとそうに違いない。
……けれど、問題なのは場所が分からないということだった。「その人」の居場所がどこか分からないなら、手掛かりが何もないのとほとんど変わりがない。
「おまけに彼は癒しの魔法が得意でさ、俺のけがも癒してくれたんだ。 それで……――。 ――あっ!!」
そこまで話したエイトが突然、何かを思い出したかのように大声を出し、立ち上がる。かと思いきや、鞄に飛びついて、そのあちこちを探り始めた。
「――思い出した! 確か、あの辺りは森が続いて危ないからって俺に小さな笛をくれたんだよ。 何かあればまた呼んでくれたらいいって!」
……そんな都合の良いことがあるなんて! 心底驚いたが、ひょっとしたら、「その人」もエイトを見た時に「何か」感じるものがあったのかもしれなかった。そんなことを考えていると、エイトが鞄から笛を見つけ出し、私の方へと思い切り振り返ると、迷いなく笛を私に差し出した。
「え」
「ヒメさん、吹いてみなよ! ここはあの森から大分遠いと思うけど、もし『そう』だったら、ヒメさんが吹いたらきっと応えてくれると思うんだ。 ――だから、ここは試しに、ほら!!」
いや、そんなことが本当にあるのだろうか。エイトの真剣な表情に、半信半疑ながらも笛を受け取った。そして、窓の方へと足を向けると、その扉を開いた。
もし……本当にそうだとしたら――。どうか、届いてほしい。私はそんな思いを込め、大きく息を吸うと笛を思い切り鳴らしたのだった。
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――ピィーっとか細い音がかすかに聞こえる。
外套を身に着け、弓を持ち、狩りに出ていた青年は顔を上げた。
……笛の音だ。――その笛は森に迷い込み、困っていた青年に渡したものだと理解したが、どうやら「吹き手」が彼ではない「誰か」らしい。
随分と遠くから聞こえるが……。けれど、その音が確かに聞こえたのだから、旅立たないわけにはいかないだろう。
衝動に突き動かされるように、狩人の青年は音のした方へと足を向けた。
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笛を吹いてから、かなり時間が経った。
「……やっぱり無茶だったかな?」
沈黙が気まずくなったのか、エイトが頭をかきながら、困ったような表情を浮かべている。
彼のそんな横顔を眺めながら、私は「直感」した。
――いや、その人はきっと来てくれる。
そう思うとほぼ同時に、部屋の扉が叩かれた。
全員が一斉に扉を振り向き、息を呑んだ。私は深呼吸をすると、「どうぞ」と外に向かって声を掛けた。
すると、濃い橙色の短い髪を一つにまとめ、茶色の瞳の青年が扉を開け、中へと入って来た。
彼は部屋の中にエイトがいるのを見つけると、優しい微笑みを浮かべてつぶやいた。
「良かった。 森を無事に抜けられたんだね」
「う、うん。 あの時は本当に助かった、ありがとうな」
答えたエイトにうなずいてみせると、彼は私の方へと向き直って、目の前でしゃがみこんだ。
「……あなたですね? 僕を呼んだのは」
彼の目をじっと見返して、確信した。……間違いない、彼もだ。私は首飾りに手を掛けた。
「はい。 私はオルフィーメリア、この国の姫です」
「……姫様。 僕はタクト。 ここから遠く離れた森で狩人をしながら、生きていました」
自己紹介すると、彼――タクトは私の顔をじっと見つめ始めた。どうやら何か考えているみたいだった。しばらくすると、こみ上げてきた思いを抑えるかのように、胸元に手を置いて、また話し始めた。
「ずっと前から……僕には何か『宿命』があるんじゃないかと思っていました。 今でこそ森で暮らしていますが、昔は僕も小さな村で育ちました。 弓は同じ狩人の父さんに習い、癒やしの魔法は薬師でもある長老に教わりました。 長老には不思議な力があって、いつも言っていました。 ――この村には大いなる『運命』の下に生まれた者達がいるって」
私はタクトにうなずいてみせ、首飾りを握った。〈声〉が〈――そうです、彼も「五人の騎士」の一人です〉と応えるのをきくと、彼に水晶を見せた。
「――タクト。 まだ出会ってほんの少しで信じてもらえないかもしれないけど……。 私、この国に伝わる『宝』であるこの水晶の『力』を使えるように、そして、姫と水晶を守護してくれる存在である『五人の騎士』を探して旅をしているの。 タクト、『宿命』を感じていたのはあなたがその一人だからなの。 水晶の〈声〉もそう言ってるわ。 ――だから、お願い。 タクト、私の旅に同行してもらえませんか?」
タクトは優しい微笑みを浮かべたまま、深くうなずいてみせた。
「はい、もちろんです。 お役に立てるかは分かりませんが、あなたの力になれるように頑張ります」
「……待った」
ふと、そこにどこか苦い表情を浮かべながら、リヒトが割って入った。
「何、どうしたの?」
「あ……いや、タクトのさっきの話……」
私がぽかんとして、首を傾げていると、ハルトとエイトが顔を見合わせて、考え込み始めた。そして、リヒトと同じように「あること」に気付いて、二人して『……あ』と声を漏らした。
「あのさ……長老の話、もう一回……」
「……え? いつも、長老はこの村には大いなる『運命』の下に生まれた者達がいるって……」
リヒトに言われ、タクトがもう一度先ほどの話をしてくれた。
……うんうん。生まれた者達……――ってえぇっ!?




