実践
「よし!今日はナガロスの森に入って実践を行うぞ!」
ゴートは急にそんなことを言い始めた。昨日の今日で魔力を発動したばかりだというのに、いきなり実践はおかしいんじゃないか?
「……さすがに怖いです。」
キアナが不安そうな表情でゴートに発言した。やっぱそうだよな、普通怖い。
「いやいや!実戦でやるのは大事だろ!実戦イズザベスト!」
バースは得意げにそう語る。多分最近覚えた言葉なのだろうか。
「まあ両者の意見は分かる。無理にとは言わないが、行くなら全員で行きたいよなー…。ロイはどうだ?」
ゴートが僕に話を振ってきた。実質最終決定権をこっちになげたのだろう。キアナもバースもこっちをみている。
「(行った方がいいぞ)」
悩んでいる僕にパラモスがそう告げる。
「(実践をイメージして訓練をするのとしないのでは大きな差が出る。だから実践は経験しておくべきだぞ!)」
確かにそうだ。今後の冒険で戦闘は避けられない。実践は経験しておいた方がいいな。
「行きたいです!」
そういうとバースは思いっきりガッツポーズをし、キアナは悲しみと怨念を込めた眼差しで見つめてきた。こればっかしは本当にごめん。
全員武器を装備し、ナガロスの森の前までやってきた。魔力が篭っているためか、村よりも空気が澱んでいる。
そしてゴートの後ろをついていくように、森の中に入って行った。
「いいかお前たち。森の中は足場が悪い。そんな中魔物と交戦したら本来の力を発揮するのは難しくなるだろう。常に逃走ルートを考えながら進むんだぞ!」
ゴートは木々を掻き分けながら、必要な情報を話してくれた。食べれる薬草とダメな薬草の違いや特徴、木の上や地面からの攻撃にも備えることなどだ。
「そして何より大切なことを教える!このようなパーティで進んでいるとき、もしどうしようもない敵と対峙した時だ。その時は全員で四方八方に逃げること!酷なことを言うが、誰かを犠牲にしてでも、その情報を他の人に伝えるんだ。先人たちもそうやって、俺たちが今知り得ている情報を持ってきたんだぞ。」
この言葉には、さすがにビビる。キアナはもちろんだが、バースも身震いしているようだ。
そしてたくさん学びながら歩いていると、ゴートが突然ニヤリと笑った。
「ほう、これはちょうどいい。ゴブリンが小さな集落を作っているようだ。」
だが周りを見てもそのようなものは見当たらない。三人ともポカンとしていると、パラモスが教えてくれた。
「(魔力探知の応用で、魔力感知を使ってるんだよ。魔力を薄く周囲に飛散させ、魔力を感じているんだ。)」
ほんとに魔力ってたくさん使い方があるんだなと感心していると、ゴブリンの小さな集落までたどり着いた。すぐに近くの茂みに隠れる。ホントにあった、と感心していると、振り返ってゴートが真剣な眼差しで、
「これからあのゴブリンたちを狩ってもらう。」
場に緊張感がただよう。なにせ初めての実践だ。自分の攻撃が相手に通用しなかった時は……考えたくもない。
「なに、そう緊張するな。やばそうになったら俺が助けに入ってやる。」
背中に担いだ大盾に手を当てながらニヤリと笑う。少し安心できた。
そしてゴートの掛け声と共に三人で一気に茂みから飛び出し、思い思いの魔法をぶつけた。
バースはこの前魔力を感じたばかりだというのに、もう魔力を剣に纏わせている。
キアナも怯えながらだが、魔力を細長くして、弓矢のような攻撃をしていた。
僕も思いっきり魔力を手のひらに集め、ゴブリンに向かって放った。すると、白い魔力の玉がゴブリンにぶつかり、吹き飛んだ。
感動した。自分でも魔物を倒せたのだ。白い魔力の玉……白魔弾ってとこかな!
そう感傷に浸っていると、突然
「(ロイ!後ろだ!)」
パラモスの掛け声に反応して、奇襲を仕掛けてきたウルフの攻撃を間一髪避けることができた。危なかった。心臓がドクドクする。一歩間違えれば死んでいた。
よく見ると、大きさは普通のウルフだが、毛並みが白い。ホワイトウルフだ。ウルフの群れを束ねるリーダーであることが多く、僕が到底敵う相手ではない。
するとホワイトウルフは大きな口を開けて襲いかかってきた。一瞬で目の前まで詰め寄ってきて、もう白魔弾を打てる距離じゃない。
そして、防御のために咄嗟に出た右腕を、思いっきり噛みつかれた。
「ぅう……!!」
腕に激痛が走る。咄嗟に腰に携えていた短剣を取り出して首元目掛けて振り下ろした。しかしそれを察知したのか、ホワイトウルフはすぐに後ろに後退し、僕の攻撃を避けた。
ちらっとゴートの方を見ると、バースの周りにもホワイトウルフが群がっており、その手助けで手一杯の様子だ。
キアナも囲まれているが、光壁で守られており、なんとか耐えている様子だ。だが時間の問題だろう。
すると、目の前のウルフの目が赤く光ったと思ったら、先ほどと比べ物にならない威力で突進され、吹き飛ばされた。
「ロイ!」
バースとゴートが、必死な表情でこっちに駆け寄ってくる。
一箇所に集まろうとしているのか!その方が戦いやすい!僕はそう判断した。
その瞬間だった。何か白い塊がゴートにぶつかり、吹っ飛ばされた。
何が起きた……?
困惑していると、何か大きい影が僕を覆い被さる。
神々しい白い毛並みに強烈な威圧感。辺りの木々と同じ大きさの狼。他のホワイトウルフが可愛く見えてくるほどに、その獣は殺気を身に纏っていた。
「……フェンリルだ」