修行
「おらおらどうしたぁ!そんなんじゃすぐ魔物に喰われちまうぞ!」
僕は今、息もできないくらい苦しみながら砂浜を走らされている。ボロい本に煽られながら。
「もう……無理……死ぬぅ………」
僕は仰向けに倒れ、懸命に息をした。本当に死にそうだ。心臓が信じられないほど大きく早く胸を叩いているのがわかる。
「そろそろかな」
パラモスがボソッと呟くと、プカプカ浮かびながら僕の方に近づいてきた。
「これから魔力操作の訓練を行う。俺が魔力を流すから、それを感じ取れ。魔力を感じるにはこれが一番手っ取り早いからな。」
そう言って僕の手の中に収まると、何か温かいものが僕の中に入ってきているのがわかる。血液よりも温かいが、不快な感じは一切しない。むしろ心地いいぐらいだ。心臓がドクドクと動いているのに対し、魔力?は驚くほど速く、滑らかに身体中を流れている。
「これは……」
「掴んだか?これが魔力だ。その流れを止めるなよ?」
そう言ってパラモスは僕の手から離れた。さっきまで川のように自然と流れていたのに、急に流れが遅くなった。指の先まで行き渡っていたのが、今は手の甲あたりで流れが折り返している。どうやらサポートなしだとすぐに止まってしまうらしい。
僕は流れが止まらないよう集中した。ただでさえ息が上がり頭が回らないのにこんなのはあんまりだ。左手の指先まで回るよう意識すると、逆の手が疎かになる。全て満遍なく回そうとすると流れが遅くなる。この負のループを繰り返して、徐々に魔力は抜けていってしまった。
「無くなっちゃった……」
「まあ初めてにしては長く持った方かな。だがそのままだと魔法の効果が弱まるし持続力もなくなる。徹底的に鍛えていくぞ!」
そういうとパラモスはまたしても僕の手から魔力を流し、循環させた。
「ねぇパラモス、これって走った後にやる意味ある?苦しくて集中できないんだけど……」
「意味あるに決まってるだろ!通常時よりも心拍数が上がっている方が魔力の流れが良くなるんだ。魔法士は戦闘でも後ろにいるから気づきづらいんだがな。それに基礎体力作りにもなって一石二鳥ってわけだ!」
「……そっか。」
決して辛いからやり方を変えて欲しいとか思っていた訳ではない。……うん、本当に。
この繰り返しを何度やっただろうか。もう周りは薄暗くなり始めている。けれど始めにやった時とさほど変わらなかった。
「僕って才能ないのかな……」
どうしても疑ってしまう。パラモスもここまで付き合ってくれたのに成果を感じられなかった。
「バカやろう!初めからうまくいくやつなんてあるか!いいか?大事なのは続けること!一日でもサボってみろ、冒険から遠退くぞ!」
「……うん、ごめん。」
パラモスは頼もしい。口調は強いが、僕が弱くなってる時に真剣にぶつかってくれる。
「てことだ。明日も続けるぞ!」
「でも、明日は学校あるよ?」
「あ…、じゃあ放課後だな。」
「放課後は黒蛇亭の手伝いがあるから」
「くっ…」
結局パラモスを部屋に持って帰り、寝る前に訓練をすることにした。