謎の声
(「・・い。おい。目を覚ませロイ。」)
どこからか声がする。不思議な感じだ。
(「やっと気づいたか。父親に似て鈍感だなぁ。」)
なんか体がふわふわして、まるで夢のような、、夢?そうかこれは夢だ。
(誰?)
(「ボクのことは良い。ロイに伝えなければならないことがあってね。君の父親から伝言を預かってるんだ。」)
(伝言?)
(「今アルベルトはある問題を解決するために魔大陸アルベノンに向かっててね、だからしばらく帰ってこれないそうなんだ。」)
(え?てことは……)
(「そう、君のお父さんは死んではいないよ。」)
(…っ!!)
ここにきて感情が胸の奥から込み上げてきた。でも夢の中だからだろうか、涙は流れない。流れているのかもしれないが、感覚がない。
(「これはボクからのアドバイスだよ。明日、海辺の崖に行ってごらん?きっと君の力になるはずさ。」)
(…うん!)
僕が生まれる少し前に、巨大な嵐がこの村を襲い、海辺の丘が絶壁の崖になったと父さんから聞いたことがある。危ないからと近づけてもらえなかったが、きっとそこだろう。
(「じゃあまたね、ロイ。君が頑張っていればまた会えるから。」)
そのまま遥か遠い意識の中に消えていってしまった。もっと聞きたいことはたくさんある。なぜ父さんはアルベノンに向かったのか、それを自分で告げずにこんな形で伝えたのか。
でも父さんは生きてるんだ…だったらもう……
う〜〜んっよく寝た。だいぶぐっすり眠っていたらしい。
昨晩の声は一体なんだったのだろう。どんな声だったっけ……だめだ思い出せない。でも言っていたことはわかる。
「海辺の崖」
あの声は父さんから伝言を頼まれたって言ってた。だから父さんとある程度仲のいい人?なのだろう。信用…できる。多分。
家にいても仕方がない。今日は学校もないから、行ってみよう。
「あら、どこ行くの?」
不思議そうに母がたずねてきた。目の下にはクマができている。きっとほとんど眠れていないのだろう。
父さんは生き……いや、言えないな。
母さんは憔悴しきっている。夢のあやふやな言葉で母さんを困らせるわけにもいかない。
「散歩してくる。」
やっとの思いで出た嘘だった。いや、嘘でもないかもしれない。海辺の崖に何もなければただの散歩だからだ。
「……そう。行ってらっしゃい。気をつけるのよ。」
そういうと母さんは自室に戻って行った。
その後ろ姿に、何も言葉をかけることができない。歯がゆい。いたたまれない。こんな無力な自分を噛み締めながら、僕は海岸へ向かった。