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ロイの冒険記  作者: DAT
2/16

父が帰らない

 今日もいつも通りの日常が過ぎている。ロイは村の学校へ、母は村でも人気の飲食店『黒蛇亭』を、父は冒険者の仕事をしに隣街レイエムに向かった。


 ゴーン・・・ゴーン・・・

 夕暮れ時、そよ風が辺りの木々を揺らしながら、村に終礼の鐘が鳴り響いている。


「ただいまー!」


「ロイじゃねーか、おかえり!学校楽しかったか?」


「うん!でもこれから父さんと訓練するんだ!冒険者になるために!」


「そうかそうか、いっぱいしごいてもらえい」


黒蛇亭の常連客である、ゴートが声をかけてきた。ガタイが大きく、元冒険者をしていたが、昔魔物から毒を受け、左腕が麻痺して以降引退し、今は村の警護の仕事をしている。


「おじさんは仕事終わったの?」


「んー、終わった、かもしんないなー?はっはっはっ」


完全に酔っ払っている。ゴートおじさんはよく仕事中に黒蛇亭に来てはお酒をがぶ飲みするのだ。まあ要するにサボりである。


「あらおかえりなさい。荷物置いたら手伝ってね、いまお客さん多いから。」


母さんが厨房から顔を出しながらロイに声をかける。黒蛇亭は二十名ほどが入れるぐらいの大きさだが、一人で切り盛りしているため、満席だと大変そうだ。


「わかった!すぐ行く!」


そう言い厨房から二階にある自室へ勉強道具を置きに階段を駆け上がった。


 店の周りが暗くなり、静かになってきた。店の閉店作業が終わり、黒蛇亭で余った食材で作ってくれた料理を母さんが食卓に運ぶ。


「父さん、帰ってこないね」


「そうね、普段ならもう帰っててもいい時間だけども……」


母さんはそこまで心配はしていない雰囲気だ。というのも、冒険者をしている以上、仕事が数日に及ぶこともあり、日をまたぐことはよくあったからだ。


(一緒に特訓するって、約束したのに……)


僕は少し悲しかった。しかし父さんの仕事も理解しているため、このときは深く考えていなかった。




「行ってきまーす!」

僕は次の日も学校へ向かった。結局昨晩父は帰ってこなかった。しかし今日こそは帰ってくるだろうと思い、放課後を楽しみにしながら学校へ向かった。




ゴーン……ゴーン……

終礼の鐘がなる頃、外はかなりの大雨が降っており、時々ゴロゴロと雷の音が聞こえる。

僕はぬかるんだ足元に注意しながら、黒蛇亭まで走った。


黒蛇亭の近くまで来た。二階には明かりがついているが一階にはついていない。普段と様子が違う。


(雨だから店を閉めたのかな?)

と考えながら家の中に入った。この時どこか空気が重く感じたのは、きっと気の所為ではないと思う。


「ただいまー」

「……おかえりなさい」


2階には母さんの姿しかない。それもかなり憔悴しきった顔をしていた。


「どうしたの?体調悪い?」

「いや大丈夫よ。けどお父さんがね・・・」


母さんの手元には一通の封筒があった。街の冒険者ギルドかららしい。

その中にはオレンジ色の紙が一枚と、指輪が入っていた。白い宝石が組み込まれた指輪。これは父さんがつけていたものだ。こういうときの嫌な予感は外れない。


「これは……?」

「お父さん、行方不明だって……」


母さんは震える声で言い切ったあと声を上げて泣いていた。その時僕は理解が追いつかず、ただそこに立ち尽くしていた。


(行方……不明……?)


母さんの言ったことが理解できなかった。いや、理解したくなかっただけかもしれない。この前までご機嫌に冒険譚を話していた父さんが……。


後に知ったことだが、冒険者ギルドからの封筒に三種類の紙が入っている事がある。黄色が重症、オレンジ色が行方不明、そして赤色が死亡である。


僕は黙って部屋に戻り、ベットに入って天井をぼーっと眺めていた。今どんな表情をしているのか、僕自身もわからない。何も分からない。何も……。

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