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ロイの冒険記  作者: DAT
13/16

それぞれの道

 あれから五年後、僕は十二歳になった。

 あの日以降も毎日、魔力操作の訓練は続けている。落ちている石などを魔力のみで浮かし、自身の周りをクルクル飛ばすのだ。複数個同時にやっており、今では海辺から海に向かってその石を操作し、魚を取っている。村人たちが喜んでくれるのがたまらなく嬉しい。


 さらに魔力探知も習得した。ある程度魔力操作ができるようになった時、自身の魔力を薄くゆっくり流すようなイメージをすると魔力が少なく見えるらしい。キアナに確認してもらった。

 もちろん、魔力感知もできるようになった。ゴートのお願いして、またあの森に入り、実践を通して習得した。

あの日のフェンリルは、何もなかったところから急に巨大な魔力の塊が出現したため気付かなかったという。その後街の冒険者たちが調査をしたが、何も痕跡が見つからなかったという。


 そして、まだ不完全ではあるが白魔力の使い方もある程度良くなってきた。最近では白魔弾(ショット)を木々にぶつからないようジグザグに飛ばし、自分のところに戻ってくるトレーニングをしている。


「おい!遅れちまうぞ!早くしろ!」

「おーい……はやくぅー……!」


 思い出にふけっていたら家の前からバースとキアナの声が聞こえる。そうだ、今日は卒業式だ。

 この世界の子どもは十二歳になると学校から卒業して働き始める。ここからさらに学院に進む者もいるが、それは少数のエリートだ。まあこの村からも一人いるのだが。


「俺は王都に行って冒険者になる!」

「私は街の魔導学院に進学する!」

「……ロイはどうするんだ?」


正直まだ迷っている部分はある。もちろん冒険に行きたい。そのために鍛えてきた。でも、母さんを一人にするのも良くないのではないか、最近そう思うようになっている。

父さんがいなくなり、僕も大怪我をして帰ってきた日以降、僕が回復するのと同時に母さんはまた黒蛇亭を開店し、元気に店を回している。でも、時々やるせないような、寂しそうな顔をするのを僕は何度も見てきた。


「変なところで大人になりやがって。」

パラモスに相談した時はこんな返事しかもらえなかった。ここで、母さんの近くにいてやれって言われた方がむしろ楽なのに……


「……まだしばらくは村にいるかな。頃合いを見て冒険に出るよ。」


僕は二人にこう言ってはぐらかした。二人は不服そうな顔をしていたが、気付かないふりをした。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 校舎の前には村の人たちが大勢集まってガヤガヤしていた。


 この村では卒業式と同時に収穫祭も行っている。海辺で取れた新鮮な魚や、海風の栄養をたっぷり含んだトマトがこの村の特産品で、それらをふんだんに使った料理が振る舞われる。バースもキルアも料理に飛びついていった。

 僕もこの行事を楽しんだが、どこか心が満たされないような、心に穴が空いているような心境だった。



 行事もほとんど終わり、皆が片付け作業をしている最中、僕は近くの倒木に座って空を眺めていた。どうも一人の時間になると考えたくないことも考えてしまう。


 バースは乱暴なところもあるけど、仲間思いで情熱的だ。最近は近くの森に出現したブラックウルフの群れを単独で倒していた。多分冒険者として名を馳せられるだろう。

そして今では、僕では太刀打ちできないほど、剣の腕が上がっている。体内の魔力の使い方が上手いのだろう。一つ一つの動作が素早く力強いのだ。

 キアナの光属性魔法はとにかくすごい。以前村人が魔物に襲われ腕がちぎれたときは、その場ですぐにくっつけて完治させてみせた。また光槍ホーリーランス光壁ホーリーバリアもかなりの強度で仕上がっている。学院に行っても問題ないだろう。


 僕は……白魔弾が精一杯だ。そこそこの威力は出て、ブラックウルフ単体なら倒せるが、バースのように群を倒すのは難しい。なぜだろう。力が入らないんだ。


「どう?楽しかった?」


僕の隣に母さんが座ってきた。母さんはこの収穫祭が大好きで、僕が生まれる前、父さんと一緒にこの村に移住を決めたのもこの祭りが理由の一つだ。


「うん、もちろん。楽しかったよ。」

「そう。」


すると母さんはポケットからものを取り出して僕に渡してきた。……指輪だ。父さんが残した指輪。何を意味しているのか、分かっていいのだろうか。


「ロイが考えていることはだいたい分かるわ。こんな心配をされる弱々しい姿を見せちゃって、私ってダメな母親ね。」


グッと胸から何か込み上げてきた。母さんにそんなことを言ってほしくない。誰よりも弱っているのは……


「そんなことない!!母さんは、僕をここまで育ててくれた!ご飯をくれた!叱ってくれた!父さんがいなくなって、本当は辛いのに…自分のことで精一杯なはずなのに……おかえりなさいって言ってくれた………こんなにも…………愛してくれた。」


涙が止まらない。ここに生まれてからの記憶がフラッシュバックして、次から次へと涙が溢れてくる。もう母さんの顔が見えない。

俯きながら泣いている僕を、母さんは抱きしめてくれた。


「ロイ、これからあなたは、たくさんの選択をしていくと思う。今回もそう。正しい答えなんて誰にも分からないし、分かろうとしなくていい。間違えていいの。…ただ後悔だけはしないで。あなたの選んだ選択に誇りを持って、前へ進みなさい。その選択で、救われる人は必ずいるから。」


……決めた。後悔しない選択。僕がしたいと思う選択。

溢れ出す涙を拭い取って、顔をあげた。


「僕は冒険者になるっ!!冒険者になって、この世界を旅して、たくさん経験して、たくさん失敗して………たくさん土産話を持ってくる。」


母さんは笑顔でただ静かに頷いてくれた。その笑顔は、哀愁と歓喜が混ざったような、そんな表情だった。

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