無知なる覚醒
ドックン!
「ぁああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
ここから先の記憶は無い。最後に感じたのは、体が宙に浮かぶような、そんな感覚だった。
「……ぅうん……。」
額の冷たい何かに違和感を覚えて、僕は目を覚ました。ここは……僕の部屋だ。
額には濡れたタオルが置かれていた。横を見ると、母さんが俯きながら寝ていた。看病されていた……?熱でも出してたっけ?
「スカイラさん。替えの水汲んできまし………!!」
マテラ先生が部屋に入ってきた。体を起こしていた僕とバッチリ目が合った瞬間、持っていた水の樽をその場で落とした。
「ロイ君!!!」
こっちに駆け寄ってくる。そして母さんも目が覚め、僕と目が合う。
「ロイ!!!!」
いきなり抱きしめられた。母さんは泣いていた。どうなってるんだ?なんなんだこの雰囲気?
気がつくと、村の人たちが続々と僕の部屋の前に集まってくる。
「ロイ!気が付いたか!」
ゴートとバースが部屋に入ってきた。その後を追うようにキアナも入ってくる。
だが全員包帯を巻いている。その中でもキアナが一番ひどい。
それにゴートなんて左腕が………!!!
思い出した!ナガロスの森でフェンリルに襲われたんだ!!ゴートの左腕がホワイトウルフに食われて、絶望して、それで………あれ?
「どうして……助かったの?」
あの状況下で、なぜ助かったのか。全員満身創痍で、あの殺気立ったフェンリルからどう生き延びたんだ?
「ロイは…覚えてないの?」
キアナが不思議そうに僕の顔を覗き込んでくる。
なんにも覚えてない。覚えているのは、みんなが地面に寝転がっている光景だけだ。だから首を縦に振った。
「私ね、あの瞬間、意識を取り戻して目を開けたの。そしたらね、ロイが白く輝いていた。宙に浮いてて……片方だけ羽が生えてたよ!」
………何を言ってるんだ?白く?羽?
キアナのよく分からない話に困惑していると、ゴートが
「…あいにく、あの瞬間の記憶があるのはキアナだけなんだ。俺たちを応急処置して村まで引きずって運んでくれたのもキアナなんだ。俺も状況が読み込みづらいが……」
まさか、あの森から男三人を引きずってきたのか?あの状況で?
「ホントだもん!…そう!ロイが持ってる本もピカピカ光ってた!」
そういうと、僕の枕元を指差した。そこにはパラモスが置かれていた。
だが、いつもの魔力を感じない。魔力を通じて呼びかけても、返答がない。よく見ると、真ん中に描かれていた金色の魔法陣が、黒くなっている。
おいおい、冗談じゃない。もしかして死んじゃったのか?……どうして!まだ出会って間もないのに、なんでそこまでするんだよ!
「その本がピカっと光ってね、ロイがすごい魔力でたくさん魔法を飛ばして、フェンリルたちを追い返したの!そのあとね、またピカっと光ったら、私を回復してくれて……そのまま地面に落ちちゃったの。」
キアナも少し興奮しているのか、タジタジな言葉で一生懸命説明してくれた。
そうか、パラモスはあの状況で、回復魔法が使えるキアナを回復させるのが一番と判断したんだな。最後の力を振り絞って……。
「そういえばフェンリルがね、去り際に、『パルテナの書』って呟いてたよ。何か知ってる?」
パルテナの書……、どこかで聞いたような……、だめだ分からない。頭もクラクラしてきた。
「キアナ、それぐらいにしておけ。ロイは三日間眠っていたんだ。それでこれだけの情報、頭パンパンだろうに。ほら!お前らも解散解散!村の警護はぬかるなよ!」
ゴートに助けられた。バースは何も言わずに、下を向いたまま部屋を出ていった。
しかし、三日間?僕はそんなに眠っていたのか?じゃあ母さんはその間ずっと……。
「……あの人に続いてあなたまで……。もう……どこにも行かないで……!」
鼻をすするような声で、僕に訴えかけてきた。
こんなにも心配してくれて、僕のことを思ってくれている。そんな母さんを、もう心配させないようにしようと心に誓った。