第二話 前編 ⑤ 死神様は突然に
登場人物
・榎木永琉/メルトアーマーエニシ
・赤羽剛/メルトアーマーレッガー
・他
名呉市 23時35分
僕はシャッターの閉まった夜の地下街を足早に歩いた。
胸には緊張と興奮が入り交じった感情が漂っていた。
今夜の秘密の集会に遅れては行けない・・・そう思いながら僕は急いだ。
僕の心臓は不安で高速で鼓動しているように感じられた。
そのとき、突然、後から現れた赤羽君の声が聞こえた。
「こんばんわ!エル!」
僕は驚きのあまり、小道の片隅で足をとめた。
「良いねぇ、時間より10分も早いや」
赤羽君はニコリとそう言った。
「赤羽〜そろそろ解放してあげたら〜?」
赤羽君の後ろにいた4人、その中の僕と同じ中学生ぐらいに見える女性がからかうようにそう言った。
「あっいや違うんです、どっちかと言うと僕が付いて来たくて...」
少し震えながらも、最後まで言い切れた。
「そういうわけよ!桃香」
赤羽君は思い切り肩を叩いた。
「いや前から思ってたけどどういう関係だし〜」
後ろの筋肉質の男が半笑いで聞いてきた。
「コイツ〜餓鬼の時のご近所さん、で封鎖後に会ってよ〜それでつるんでるって訳、家族は外らしいしね~」
「え~ちょっと可哀想~」
「いや、いいんです。元々関わりは薄かったですし」
「へ~じゃあ俺たちと変わんないな」
赤羽君の友達の屈強な男がそう言った。
「赤羽、碌な奴じゃないから、程々にしときなよ」
「ガーン、傷つくわ〜」
赤羽君はケラケラ笑いながらスマートフォンを取り出した。
「きょ、今日のレギュラスってランク4なんでしょ、大丈夫なの?」
「おいおいエル〜俺の強さ忘れちゃった?前回初めて来た時見ただろ?」
「いや、そういう訳じゃないけど...」
「コイツ倒した報酬があれば、30人で分け合ってもウハウハよ、とっとと倒して一杯やろうぜ」
赤羽君はケラケラ笑いながら進んでいった。
...今思うと、僕は赤羽君を止めるべきだったのかもしれない。
けど、あの時は、赤羽君なら今後どんなレギュラスが現れてもケラケラ笑いながら勝てると信じていた。
23時50分。
ミッドライトスクエアビル横、西野公園に着いた。
公園といっても都市部の真ん中に設置されている
周辺に居酒屋が多い事もあり、封鎖前は酔っ払っいの溜まり場になるという話を聞いた事がある。
ただ、封鎖後の現在では、レギュラス討伐目的以外で公園を訪れる人しかいないようだ。
メルトポータルに表示されたレギュラ出現時間まで後15分。
既に周りには20人程度の人が集まっていた。
年齢層も様々だ。
僕よりも若い、小学生ぐらいに見える男女。
社会人からお年寄りまで幅広い。
ここにいるそれぞれに戦う理由があるのだろう。
戦う理由の無い僕とは違う。
そんな考えが過ぎる。
「おい〜顔険しいって、大丈夫かよ」
「ああ、ごめん」
「今日も前回通り、後ろから狙ってくれればokだから」
「うん」
「レベル4、つまりノアも来ないし、報酬は全部貰えるって訳よ」
ノア...メルトアーマーノア、封鎖地区内で今一番強いメルトアーマーだ。
一度だけ、素顔を見た事がある。
中身は見た目は女性...凛とした印象を受けた。
サモ社のスタッフ、血のない戦闘マシーン...赤羽君と行動を共にしていると色んな噂を耳に聞く。
僕としては、正直この戦いに参加して欲しかった。
ただ、ノアはいつもレベル5以上のレギュラスを優先する。
だから、自分達で戦うしかなかった。
「正直うざいよねぇあの子、自分の事正義の味方だって思ってそう」
「桃香嫌いそうだよな〜アイツ」
「この前も酷かったじゃん、私達を見てきてさぁ、優等生ぶってるよね絶対」
赤羽君は地面に座りながら同調する。
「まぁ、そんな優等生ちゃんも今日はレベル5に行ってるからいないって訳よ!俺たちの祭りだ!!
赤羽君がそう楽しそうに叫んだ。
その時、スマートフォンが振動した。
「...1分前か」
「よっしゃ、装着するぜ」
赤羽君は誰よりも早くスマートフォンをタップし、メルトアーマレッガー、ウイップモデルに装着した。
ただし、顔のアーマーは外したまま、素顔だ。
それが、赤羽君のこだわり...。
「赤羽~遂に鞭買ったのか~」
「そうよ~カッコいいだろ」
「あんたの顔ならやましい店にいそ~」
「なんだとごら~」
赤羽君は友達と楽しそうに談笑していた・
公園内の人々は次々にアーマーを装着していった。
「装着」
全員から少し遅れて、僕もアーマーを装着した。
メルトアーマーエニシ、スナイパーモデル
それが僕のアーマーだ。
24時。
公園の真ん中に卵状の球体が現れた。
「おっ、今まで見た事ない演出だな」
赤羽君がケラケラ笑いなからそう呟く。
そして、卵に徐々にヒビが生えた。
僕は、一瞬、スマートフォンに目を落とした。
!?
さっきまでランク4と書かれていた表示は
unmeasurable(測定不能)
と表示されていた。
僕は目を上げた。
そこには、一体のレギュラスがただずんでいた。
全身は骨のような見た目だが、フードのような服を着ているように見える。
腕には巨大な鎌を装備していた。
グリムレギュラス
それがあのレギュラスの正式名称らしい。
グリム...
「厳しい」「険悪な」「恐ろしい」といった意味もある言葉だ。
英語圏では後ろにリーパー(刈り手)の意味をつけた
グリムリーパー
という単語がある。意味は…
「...死神...赤羽君!危ない」
「うおおお!」
僕の声を遮るように複数のメルトアーマーがグリムレギュラスに攻撃した。
だが・・・
「効いてない・・・!?」
ダガーモデルで攻撃した一人のメルトアーマー、メルトアーマーシロトがそう呟いた。
「赤羽、コイツ全然攻撃効か・・・あ・・・」
赤羽に話していたメルトアーマーシロトは動きを止めた。
メルトアーマーシロトの首にはグリムレギュラスの鎌が首に掛かっていた。
「マジかよ、ク」
グリムレギュラスは思いっきり鎌を引っ張った。
シロトの首は力無く落ちた。
メルトアーマー装着時、大量出血は起こらない。
メルトアーマーのチュートリアルにそう書かれていたが、実際の光景を初めて見る事になった。
シロトの顔は公園を転がり、すぐに液体状のメルトとなり地面に溶けていった。
そして、後を追うように体も溶けていった。
公園は一瞬で恐怖に支配された。
「良くも!!」
勇敢なメルトアーマーが次々とグリムに挑んだ。
だが・・・剣、銃はもちろん、弓、チェーン、ヌンチャク、レイピアなど、グリムに効く攻撃はなかった。
「おりゃああああ!!」
唯一、メルトアーマーシアの鎌を使用したギガファイナルが背中にうっすらと傷を付ける事が出来たが...
それだけだった。
シアもグリムの攻撃を防ぎ切る事が出来ず、倒れていった。
グリムは自分の鎌を溶かし、剣の姿に変えた。
「アイツ...武器を持ち替えれるのか」
グリムは巨大な体を活かし、自分を攻撃したメルトアーマーを一人一人切っていった。
切られたメルトアーマーは力無く、次々にメルトとして溶けていった。
グリムは徐々に僕に近づいていた。
僕は急いでスナイパーの狙いを定めた。
...定めただけだった。
トリガーを押せなかった。
もしかしたらグリムはまだ僕を狙っていないのかも知れない。
それなら、刺激を与えずにこのまま見逃した方が安全かもしれない。
そんな甘い考えが頭を遮った。
だが・・・グリムはもう既に目の前にいた。
そんな時も・・・僕は何も出来なかった。
覚悟した。
静かに、目を瞑った・・・
「させるか!!」
「ぐあ!」
目を開けるとそこには赤羽君が倒れていた。
「えっ・・・」
心の底から、声が湧き出た。
咄嗟に被ったであろう、赤羽君の頭のアーマーは半分が割れていた。
どうして
なんで赤羽君が
赤羽君ならあんな攻撃簡単に・・・
・・・僕を庇って・・・
気が付けば僕は必至で赤羽君を運んでいた。
アーマーの大半は壊れ、顔は剝き出しになっていた。
静かに息をする赤羽君を必至に引っ張っていた。
後ろでは、叫び声、絶叫、そして
「ミラーギガファイナル」
「ブーメランギガファイナル」
「ソードギガファイナル」
「ハンマーギガファイナル」
機械音声が鳴り響いた。
僕は振り返らず...進み続けた。
ギガファイナルをあれだけ受けたんだ...死んだに決まってる。
そう考えながら僕は歩き続けた。
さっきまであれだけ騒がしかった後ろが突然静かになった。
不気味な程の静寂。
思わず僕は後ろを振り返った。
後ろには...既にグリムレギュラスが僕の真後ろに立っていた。
目を輝かせ、巨大な体を見せつけながら、剣を振り翳した。
僕は...また何も出来なかった。
Installation completed
メルトアーマー、シールドモデル
僕の目の前に一人のメルトアーマーが現れた。
「大丈夫か!!」
彼はグリムレギュラスの攻撃を生成された丸い盾で防いでいた。
このメルトアーマーは聞いた事がある。
メルトアーマーノアと共に行動しているメルトアーマー。
メルトアーマーセキュア・・・!!