第二話 前編 ② 名呉市の現状をここに示す
俺たちの故郷、名呉市は未確認生命体レギュラスの拡散を防ぐという名目の元、街全体が閉鎖された。
あれからおおよそ一ヶ月、外の世界でも名呉市に貼られたバリア・・・擬似ソロンフィールドシステムを破る為日夜研究が進んでいるらしい・・・が、今だに原理すらわかっていないらしい。
こんな大規模な計画を建てたのは世界的なIT企業、サモ社。
と言っても、現在サモ社は崩壊寸前らしい。
なんでも、こんなイカれた計画が進んでいた事を社員はもちろん、幹部クラスですら知らなかったらし
い。
唯一、CEOのソハネが何かを知っているとしているが、現在ソハネは行方不明、自宅は間抜けの空だったらしい。
サモ社はもちろん、外の世界からの助けは絶望的・・・というのが俺たちの現状だ。
名呉市内はというと・・・これでもだいぶ落ち着いたが最初の2週間は地獄・・・としか言いようがなかった。
閉じ込められた人々が最初に求めた物・・・それは食料だった。
再開発されたこんな街だ、食料が不足する事は誰が見ても明らかだった。
だが意外にも食料問題はすぐに解決した。
・・・腹が減らない。
1日目の時点でそんな報告がされるようになった。
俺自身、閉鎖後、食事を取りたいという欲求が頭の中に沸くことが無くなった。
閉鎖後でも食べた物の味は理解出来る。
だが・・・空腹にならないだけでここまで食欲が無くなるとは思わなかった。
また、簡易的なレーションならサモ社の自販機やスーパーで販売していた。
・・・こうなる事を想定してスーパーの無人化を進めていたのか・・・と考えてしまうが。
「メルトアーマーを着ている時に空腹感が沸かなくなるのはそんなに不思議な事じゃない・・・私もそうだ」
ノアはそう教えてくれた。
他にも、この一ヶ月で様々な事を教えてもらった。
彼女の父親は元々サモ社で働いていた・・・らしい。
ただ、名呉市で起こる封鎖を早い段階で知り、一部の技術を盗んで逃走。
サモ社に見つからないよう世界中を転々としながら、来るべき封鎖に備え、病弱な自分の代わりに一人娘のノアに戦いを頼んだ・・・らしい。
誰にも言わずに準備を進めたのは、公表した所でサモ社に捻り潰されるのがオチ・・・と考えたから、らしい。
正直に言うと、ノアのその話を俺は半信半疑で聞いていた。
だが・・・実際にノアのお陰で守れた命は多い。
何より、この街の為に全力で戦うノアの姿は嘘ではない・・・と信じたかった。
レギュラスは残り98927体。
これがこの街の現状だ。