第二話 後編 ⑤ 私だけの、新たな決意
名城公園。
名呉駅からバイクで15分、都市部から近い名呉城前の広い公園だ。
前回来た時は全然人がいなかったが・・・
ちらほらと、メルトアーマーが練習用に戦っている姿が見える。
メルトアーマーの練習には最適な場所だという事、どうやらジワジワ広まってるしい。
俺はスマートフォンをタップしメルトアーマー、ソードモデルにモデルチェンジした。
メルトアーマーセキュア ソードモデル。
「稽古は前の同じで寸止め、そこら辺よろしく」
俺は剣を握りしめ、メルトアーマーノア ソードモデルが来るのを身構えた。
「はあああ!!」
相変わらずと言うべきか。
一切の隙も無く、ノアは俺に急接近した。
剣を構え、ノアの攻撃を受け止めた。
前なら一撃受けただけでふらついたが・・・
グリムの一振りを経験した今なら・・・!!
「おらあああああ!!」
俺はノアの剣を払いのけ、風を斬るように剣を振るった。
「おっ!!!やるね!!」
鉄と鉄が擦れる音が公園中に響き渡る。
時折、俺たちの剣からは火花が飛び散った。
周りにいたメルトアーマーも、何事かと俺たちに注目していた。
鍔迫り合いをしながら、ノアは声を荒げ畳み掛ける。
「前みたいに無茶な攻撃は無いな!悪くねぇ」
「ああ、このまま一本貰うぞ!」
「貰えるもんなら好きなだけどうぞ!!!」
俺は地面を思い切り蹴り上げた。
そしてノアの後ろに着地した。
貰った!!
そう思ったが・・・
ノアは体をまるで新体操のように曲げ、俺の攻撃を軽々と避けた。
「ほい!!」
そして即座に体制を整え、俺の頭に剣を突きつけた。
「いやぁ、惜しかったなぁ今のは、意識してなきゃやられてた」
「くっ・・・強いな・・・相変わらず」
「まあね〜」
ノアはそのまま剣を地面に突き刺し、顔アーマーの装着を解除した。
ポニーテールの長い髪が行き場を得たかのように飛び散る。
「・・・まあこの前よりはマシになったが・・・まだまだって所かな」
「・・・もう一本、お願いしてもいいか?」
「・・・もしかしてだが・・・慌ててる?」
「えっ・・・流石にバレるか」
「うん、バレバレ」
「少し前に約束したろ?一月以内に一本取れたら弟子にするって奴、グリムのせいでうやむやになってたけど、今日取れれば万事解決かなって」
ノアは少し驚いた顔を見せた。
「あ~~あれか・・・あれさ」
「ああ」
「やっぱ無しで」
「えっ」
「ああ悪い意味じゃねえ、その、私たちの関係って、弟子だの師弟だのっていうよりその・・・」
変な沈黙。
ノアは少し頭をかきながら続けた。
「・・・友達ってお前言ったよな」
「ああ、言った」
「んじゃあとりあえずそれで」
「ってなんだそりゃ」
「うるせぇ、お前が言い出したら事だからなこれ・・・まあ、師匠と弟子ってキャラでもねえだろ私たち」
「まあ・・・それは確かに・・・」
「というわけで!まあ色々あったけど・・・今後もよろしく、ダチとして」
ノアはゆっくりと俺に手を差し伸べた。
「・・・ああ、こちらこそよろしくだ、ノア」
「あ〜一つ修正、私、今日からはメルトアーマーノア、じゃないから」
「えっ」
俺はすぐにメルトポータルを確認した。
メルトアーマーノワール(1日前 メルトアーマーノア)
と表示されていた。
「ノ、ノワール?」
「そ、意味は黒、あそこまで名前変って言われたらやっぱ気になるし、あの後考えたってわけよ、どうよ!カッコいいっしょ」
確かにカッコいい・・・がちょっとなんというか・・・中学生っぽい・・・
と思ったが、ノアは満足そうだ。
グッと堪え、続けた。
「わかった。ならよろしく。ノワール」
「ああ、頼むぜ、セキュア」
力強く、ゆっくりとた握手。
油断すると潰されてしまいそうな握手に俺も思わず力が入る。
「・・・ま、そういう訳だが・・・一本取れるかは別にして、ダチを守りたいなら、せめてもう少し強くなって貰わないとな」
ノアは突き刺していた剣を再び拾い上げた。
「まだ行けるか?」
「ああ、まだまだ」
俺は再び剣を生成した。
白状しよう、俺は自分が嫌いだ。
生きる理由もなく、死ぬ理由もない。そんな自分が大嫌いだ。
だが・・・そんなことを考えていた俺もこの力を手に入れた。
正直、この力を使う事に躊躇いもある。
俺は今戦う理由すら見失っている。そんな男にこの力を使う資格はないのかもしれない・・・
それでも・・・こんな俺でも友を救えるのなら・・・
生きて戦う事が出来るなら・・・
カッコ悪くても、それが今の今の戦う理由だ。
俺は地面を蹴り飛ばし、再びノアと剣を交えた。
「こんな父親でごめんな・・・けど忘れないでくれ。僕はお前を愛してるよ・・・」
親父から言われた言葉。
初めて言われた言葉だ。
酔っている時というのが少し気になるが、それでも、正直嬉しかった。
・・・嬉しかった言葉はもう一つ。
「だから俺は!おこがましいかもしれないけど!そんなノアを守りたい」
・・・守られるのは、思っていたより嬉しい。
私もまだまだ弱い部分があるなと再認識させられる。
・・・登は強い。
戦闘スタイルのセンスも粗削りだが悪くない。
モデルチェンジ関しては私と・・・いや私より上手いかもしれない。
何より、一度敗北した相手に果敢に立ち向かう姿。
素質は十分だ。
だが・・・正直、まだまだ生き残れるレベルではない・・・それが現状だ。
今回の事件を機に無茶な戦いは改善したが・・・いつまた何時強力なレギュラスが出現するかわからない。
いや、レギュラスならまだ良い。
サモ社が私のような部外者をいつまでも放置するとは考えにくい。
最悪の場合、メルトアーマー同士の戦い・・・アーマーバトルに発展する可能性もある。
そうなると今の登では・・・
・・・守らなきゃな、私が
へ、私もアイツと変わらねえ。
お互いがお互いを守り合うのも少し奇妙ではあるが。
だがいいだろう。
またカスみたいな気分になるのはごめんだ。
私はこの街と、登を戦いから解放する為に戦う。
誰にも伝えない、私だけの、新たな決意を胸に秘めた。
メルトアーマーサークル 第二話 ノア寛解編 終
名呉市 ダブルタワー。 地下12階。
ギリシア式の建築を思わせる、白く広い部屋。
名呉エリア特別監査員であるこの僕、クロアの職場だ。
「・・・へえ、グリム倒せたんだ、やっぱソハネ社長の読みは凄いなあ」
正直全滅すると思っていたが。意外な結末だ。
まあ、ここでメルトアーマーノアに死なれると困る。
デビルモデルプロジェクトの事ももちろんあるが、やはり弱い存在は己の手で刈り取るに限る。
その中でも一際目立一凛の花、ノア。
あの程度の弱さで自分を強いと認識するその傲慢さ、ぜひ自分の手で刈り取らせて欲しい・・・
っと、余計な事を考えてしまった。
グリムで得たデータをすぐにまとめ、ソハネ社長に報告せねば。
2時間後
「以上が、グリムレギュラスに関する調査です。中々面白い性質を持つレギュラスなので、データを流用して新モデルや現在計画中のリプレイプロジェクトに加えてもよろしいかと。ソハネ社長、いかがでしょうか。」
美しい銀髪の髪を触りながら、僕は発表を終えた。
プロジェクターの起動音だけが鳴り響く。
「・・・うん!流石クロアだ、いつも素晴らしい・・・」
ソハネ社長はアイスクリームを食べながら、僕をお褒めくださった。
「喜んで頂いて光栄です」
「だが・・・今日聞きたいのはそちらではない・・・デビルモデルの事、そろそろ聞かせて頂こうか」
「もちろん、準備してありますよ。大まかなシステムは既に説明しているので省きます。装着者の候補ですが、候補は11人、で私が最も相応しいと思うのは彼です」
僕は、プロジェクターの画面を移し替えた。
「結城裕司、16歳、現在弊社とのメルトアーマー契約は結んでいません。彼こそが、この世界の変革者代表に相応しい。」
僕は数日前、裕司君に合っている。
あれは・・・グリムレギュラス討伐の日だったか・・・
メルトアーマーセキュアを見送る裕司君の後ろ姿が印象深い。
「美しい友情・・・ってわけでもないのかな」
「おわ!」
僕の美しい銀髪に驚いたのか。
彼は面白いぐらい後ずさりした。
「・・・今日は眼鏡・・・じゃないんだ。残念」
「お、おい、お前なんなんだよ」
「僕は名呉エリア特別監査員、クロアって言うんだ、、どうしても実物を見ておきたくてね」
彼の肩に腕を置く。
怯えているのか、小刻みに震えている。
「お~そんな怯えなくてもいいんだ・・・僕はね、君を導く存在なんだから」
「・・・お前なんなんだよ」
「僕はね、君の心を開放する物さ、もう数か月待っててくれよ、君の心の中の狂気、存分に開放させてあげるから」
結局彼は最後まで震えていた。
「・・・プロフィールを確認してもただの一般人・・・どころか、今だにメルトアーマーを装着してない小心者に見えるが。」
ソハネ社長は相変わらずお手厳しい。
「ええ、彼は何の取り柄もないいってしまえばただのオタク・・・けど、彼の中にある感情は素晴らしい。僕が手解きして彼を目覚めさせてあげますよ。ソハネ社長が技を極めたアーマーなら、彼は純粋な力を極めたアーマーになれる!!」
「そうか、君がそこまで推すのなら、私は何も言うまい」
「ありがとうございます」
「・・・デビルモデルプロジェクト始動の際は私も赴こう。ノアは邪魔・・・だろうからね」
「承知しました。では準備を進めます」
テストルーム7
複数あるテストルームの一つ。
ここではデザインしたメルトアーマーの戦略をテストする事が出来る。
目の前には、最近作った量産型メルトアーマー、ボットシステムが3体、僕の装着を待っていた。
「・・・楽しみだなぁ、アーマーバトル」
今日の報告が上手くいった事。
結城裕司がデビルモデルに選ばれた事。
今日は何もかも上手く行く。
「・・・僕も、そろそろこれ。完成させないとね」
腕に巻きついていた赤色のスタンバイスロット、【クリエイティブスタンバイスロット】に社用スマホを差し込む。
僕好みの、派手な音楽が部屋に鳴り響く。
「はぁ・・・装着」
creative!!
I know everything.
I will burn you to death with that knowledge.
エンジンモデル。起動。
装着音声と共に僕は一瞬でメルトアーマーを纏った。
メルトアーマークロア エンジンモデル
完成したばかりの試作アーマー・・・
「さて、僕はね、アプデが好きなんだよ。名呉市も、僕がアップデートしよう」
これまでの戦いを無に帰す戦い、始めようか。
登、起きてる?登?
僕だよ、グロウだよ。
久しぶりだね、最近調子よさそうじゃん?
けど僕が来たって事は、新たな悲劇は近いって事。
このままの君だと、近い将来、友達3人、皆失うよ。
そんなの嫌だって。
なら、君がすべき事は一つ。
起動するんだ。己自身を。
名呉市で発生したレギュラス事案に関する報告 237
22時26分。
結城裕司、メルトアーマーテスト2型 デビルモデルを装着。
直後、メルトアーマーノワールと戦闘を開始。
戦闘の結果、メルトアーマーノワール、メルトアーマーセキュア、共に装着権を剝奪。
メルトアーマーへの装着が禁止状態に。
メルトアーマーサークル 第三話に続く。
ここまで読んで頂きありがとうございます!
これにて、第二話は完結です!
今後に関してですが、
現状第三話は話の構成だけしか出来ていないので、今から作り始める状態です。
その為、ある程度完成するまでの間、しばらく更新をお休みする予定です。
(第二話は投稿を始めた時点で前編の終盤まで完成していましたが、それでも後半になるにつれ間に合わなくなったので、今度はもう少し完成させてから投稿したいなと思ってます)
また、現状では4000~8000文字ぐらいで1エピソードにしていますが、次回以降はもう少し文字数を減らして投稿していこうかなと考えています。
また、第三話の前に、名呉市での何気ない生活を描いた短い話も投稿予定なので、そちらもお待ち頂ければ幸いです。
これまで投稿した第一話、第二話は誤字、脱字、設定のミスなどを見つけ次第修正するようにしています。
もし発見された方がいらしたら、教えて頂ければ幸いです。
感想などは随分募集しています。
今後の参考にしたいと考えていますので、感想や評価もぜひお願いします。
最後に改めまして、ここまで読んで頂きありがとうございます!