第一話 ① メルトアーマーサークル 名呉市臨時防衛部活動日誌
登場人物
・永瀬登/メルトアーマーセキュア
・野上ノア /メルトアーマーノア
・結城裕司
・結城結衣
・他
白状しよう、俺はヒーローが嫌いだった。
諦めなければ夢は叶うとかヒーローはいつも君たちのそばにいるとか。
綺麗事ばかり言うヒーローが嫌いだった。
本当にヒーローを求めた時、テレビの中から俺を助けてくれなかったヒーローが嫌いだった。
だが・・・そんな俺も今じゃ・・・
「装着」
この3週間、この言葉を毎日のように呟く。
口にするのもすっかり慣れてしまった。
軽快な音楽が流れるスマートフォンを右腕のホルダー、〈スタンバイスロット〉に差し込んだ。
そして流れるBGMと共に俺の体にアーマーが装着されていくのを肌で感じることができた。
この感覚は何度繰り返しても慣れない。
アーマーと言っても鎧のように重たいわけではない。
むしろ装着後の方が軽やかで、どこまでもジャンプ出来そうな気分になる。
自分の体がそのままバージョンアップされるような感覚だ。
アーマーは次々と自分の体に形成されていく。
そして、最後、顔を守るためのヘッドアーマーが形成され、目が発光した。
「Installation completed
メルトアーマー、ランスモデル、起動」
スマートフォンから機械音声が鳴り響いた。
メルトアーマーセキュア ランスモデル
これが今の俺、メルトアーマーの名前だ。
今、目の前にいるトカゲのような怪人・・・正式名称〈リザードレギュラス〉は装着を終えた俺に気が付いたのか、狙っていた男からターゲットを変え、ゆっくりと近づいてきた。
俺はランスモデルにより生成された槍を両手でしっかりと握りしめた。
まさか怪人と睨み合うことになるなんて想像もしていなかった。
3週間前のあの日、この街と世界は変わってしまったのだ。
メルトアーマーサークル
名呉市臨時防衛部活動日誌。
3週間前
軽快な音楽が流れるスマートフォンをタップした。
6時40分、いつもと変わらない、朝を伝える音楽だ。
汗をびっしょりとかいたシャツを脱ぎ学校指定のブレザーを身にまとう。
俺は一階に降りた。
名呉市の外れにある、昔ながらの玩具屋、〈キリン玩具〉
俺は叔父さんが経営するこの玩具屋の2階に住んでいる。
階段を降り、玩具屋の奥に進むと見えてくる小さな和室。
叔父さんの部屋だ。
和室の真ん中のちゃぶ台には、少し焦げたしゃけ、スクランブルエッグ、のり、みそ汁、ご飯が置かれていた。
名呉市では9年前に名呉市全体で大規模な再開発が進められてきた。
が、キリン玩具周辺は再開発のエリアには入ってなかった。
もしエリアに入ってたら今頃この建物は無いな・・・と思う事は多い。
「お!おはよう登!~さあ、食うか」
パジャマ姿の叔父さんはどっかりと座りこんだ。
目の前で海苔にたっぷり醤油を付けている人こそ、俺の叔父さんの颯おじさんだ。
ぼさぼさの髪に油の乗った腹・・・
身寄りの無い俺を引き取ってくれた父さんの弟...少しだらしない所が目立つが間違いなく俺に取っての恩人だ。
・・・だらしない所が目立つが間違いなく俺に取っての恩人だ。
叔父さんを見ながらそう考えた。
「で、どうだい、最近の学校は、慣れたかい?」
お米を海苔でくるみながら叔父さんが聞いてきた。
「別に・・・中学と変わらないかな・・・」
「そっか~まあ裕司君も結衣ちゃんも同じ高校だし、あんま変わらんよな~・・・」
この後の何を話すかおおよそ検討はつく。
「そうだ!部活とか入ったら?なんか色々いいらしいよ、ま叔父さんは帰宅部だったんだけどね」
高校に入学してから5回ぐらいした会話だ。
「叔父さん、ごめん、そろそろ行こうかな」
「おう!もうこんな時間か」
俺は残りの味噌汁をかきこんだ。
色褪せた玩具が並ぶ売り場。
何十年も前の箱入りソフビが玄関を彩る。
そんな店内をおじさんと抜け玄関のドアを開けた。
「ウィス登〜」
「おはよっ〜」
裕司と結衣の変わらない声が玄関前に響いた。
結城裕司と結城結衣。
俺の小学校前からの幼馴染だ。
今は二人共俺と同じ高校に通う一年生。
誤解されやすいが、裕司と結衣は双子ではない。
4月生まれの兄裕司と3月生まれの妹結衣。
世間的にも珍しい、同じ学年の兄妹だ。
「お!裕司君!久しぶり~先週のニチアサは見たかい?」
叔父さんは裕司にウキウキで近づいていった。
「おじさ~ん、もちろんですよ~いや~やっぱ暴走フォームっすよ~!」
「あ~わかるねえ、いつもヒロイックな誠君の悪役演技がねえ、たまらない」
「おじさん」
「兄貴」
結衣と声が被った。
「あ~登校時間ギリギリか、じゃあいってらっしゃい」
「行ってきます」
駅までの歩いて10分の距離をいつも3人で歩いていた。
「いや~テストも終わったし、自由を手に入れた囚人の気分ですわ~」
裕司が思いっきり伸びをする
「確かに」
「は〜同意しちゃったよこの人、登君〜あんま兄貴調子に載せないほうがいいって。どうせテスト赤点だらけなんだし」
結衣が呆れた、冷めた声で語りかける。
「良いや!今回はちょっと勉強頑張ったぜ俺、俺と赤点バトルするか?赤点多かった方が負けよ!」
「負けた方は自販機奢り」
「乗った」
赤点取る前提じゃん
俺は心でそう思ったがグッと抑えた。
5月。
快適で気持ちの良い涼しい風・・・それもテストが終わって数日。
この時期の登下校は一年で一番好きな登下校だ。
「ええ~現金使えねえじゃ~ん」
駅のホームに入ると一人の女性が自販機の前で嘆いていた。
赤いニットにベージュのトレンチコート。
髪はポニーテールの銀髪・・・まあこの街で髪を染める事は別に珍しい事ではないが・・・
むしろ、染めない俺が少数派だ。
全体にオレンジのメッシュを入れた裕司と毛先に水色のメッシュを入れた結衣を見ながら、そう考えた。
年齢は自分より年上・・・高校3年生か大学生・・・ぐらいに見える。
今時現金しか持たないなんて珍しいな・・・
そう思いながらも俺は気が付いたらその女性の近くに立っていた。
「あの、よかったら俺のスマホで払いましょうか?その現金貰うんで」
女性は一瞬ぽかんとし、その後すぐに理解したのか笑顔になった。
「ホントか!?助かる!」
俺のスマホを自販機にかざすとすぐに自販機のボタンが発光した。
女性は迷うことなくペプシを選んだ
「はい!これ」
俺にジュース代より少し高い200円を渡した。
「じゃ、ありがとな~」
そういうと女性はホームの外に掛けていった。
俺はその女性を跡目に裕司の元に戻った。
「・・・」
「・・・どうした裕司」
「・・・誰よあの女」
「知らねえよ」
最寄りの駅から名呉市まで普通電車で15分。
ブラブラと満員電車に揺られる時間だ。
「結衣、電車も同じの乗れば良いのに」
結衣はいつも俺たちが乗る電車の一本後に乗っていく。
クラスメイトとの待ち合わせ...と本人は言っていた。
「なあ、高校に入ってから結衣との距離感を感じるんだ~」
チャラけた声で裕司が話す
「向こうは弓道部のエース、無理もないだろ。」
「弓か・・・DX玩具でしか触った事ないな・・・」
「誰がどう考えても理由はそれだろ・・・!」
「嫌でも!俺だって部活してるしさ~」
「パソコン部と弓道部を同じ枠に入れていいのかそれ」
「って帰宅部に言われてもなぁ」
「うるせ」
名呉駅。
電車で15分、名呉市最大の駅だ。
そして、実質高校に着いたと言っても過言ではない。
名呉市中央にそびえる二棟の巨大な駅ビル。
名呉市のランドマーク、名呉ダブルタワー。
そのタワーの一角、レフトタワー24階~27階こそ、俺が通う高校、名呉第二高校だ。
本来は名呉市が宿泊施設辺りに誘致を行う為の場所だったらしい・・・
が結局上手くいかず、様々な事情を経て現在の学校という形の落ち着いたらしい・・・
と風の噂で聞いた事がある。
エレベーターは24階で開いた。
下駄箱は学校というよりはホテルのようだ。
シックなグレー色の床、人の何倍もある窓からは東名呉エリアを一望出来た。
玄関は駅の入り口のように自動ドアを通る必要がある。
そこにスマホをかざすことで登校完了だ。
玄関から2階上がった場所が俺と裕司が通う1年D組の教室だ。
オシャレな玄関に対して、教室はシンプルだった。
もちろん、机などには装飾などはあるものの、それ以外は他の高校と同レベルだ。
唯一他高校に勝っているのはその眺めだろう。
ビルの26階、名呉市を見渡す事が出来る教室。
俺はこの風景が好きだった。
授業開始の20分前に到着した。
教室にはすでに多くの学生が到着していた。
と言っても、教室で積極的に話すのは裕司ぐらいだ。
こうして今日もまた授業が始まった。
これほど立派な校舎なんだからさぞ授業のレベルも高いと思うかもしれない。
ただ・・・正直授業のレベルは他と変わらない・・・
むしろ酷いかもしれない・・・
この高校の教師、新人が定年前後のお年寄りしかいないからな・・・
そんな事をボーっと考えながら、席に座っていた。
「助けて!!」
俺は必死に叫んでいた。
体は瓦礫に潰され動かない。
わずかに見える隙間から慌てる人達に必死に助けを求めた。
焦げ臭い匂いと煙。
すぐ近くが燃えているのは幼い俺でも理解出来た。
不安と恐怖で泣きそうになりながら叫んだ。
「大丈夫か!?」
顔は見えなかった。
今ではどんな声かも覚えてない。
だが、隙間から一本の腕が伸びてきたのは鮮明に覚えている。
「手を掴め!!」
必死に手をつかもうとした。
だが手は届かなかった。
瓦礫の向こうから叫び声が聞こえ、その後すぐ隙間が白く光った。
俺を助け出そうとした腕は無くなっていた。
・・・腕はどこにいった・・・?
・・・死んだ・・・?
・・・僕が引き留めたから・・・?
・・・僕が殺した・・・?
声にならない声を上げる事しか出来なかった。
「そう、お前は声すら上げられない。泣いても誰にも届かない」
静かな黒い空間。目の前には子供の頃の俺がいた。
「・・・けど・・・手に入れたくないかい?最強の僕を」
少年の俺が今の俺を指さす
「最強の僕・・・そんなのどうやって手に入れるんだよ」
「君が持ってるそれだよ」
「俺が持っているもの・・・?」
俺は右手にスマホを握りしめていた。
「いやまさか」
「そう思うでしょ、けど、時が来ればすぐにわかるさ」
そういうと少年の俺はスマートフォンを見せつけるよう手に持った。
そのまま少年は右腕のホルダーにスマートフォンをセットした。
青く、まばゆい光に包まれた・・・
第一話は④まであります!
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