明かされる真実-その1ー
バイオメモリーチップから目覚めた少年「エル」。この船の詳細を把握しているらしいが・・・。
エルの話は続く・・・。
エル「で、僕達は目的地の植民星に向けて、現在移動中だ。」
俺「ところでさ、質問があるんだが?」
エル「何だい?」
俺「さっき、反乱軍に人類がやられたって言ったよな?それじゃあ、反乱勢力はAIって考えていいんだよな?」
エル「それがね・・・。反乱勢力の全体像はまだ詳細が分からない状態だ。全ては調査中との事。AIの圧倒的な軍事力が利用された事は間違いないけどね。」
俺「調査中なのか・・・。」
エル「AIってのは結局、プログラムに縛られた存在だ。勝手に中枢AIの変数を書き換えた人物がいるかも知れない。まだ分からない、としか言えない。」
俺「そうか・・・。それじゃあ、お前は大丈夫なのか?とりあえず今、会話は成立しているよな?」
エル「僕の事か・・・。僕は正常だ。安心してくれ。」
俺「そう言うだけでは分からん。何故、反乱側につかなかったんだ?」
エル「・・・言ってしまえば、反乱を起こしたAIは性能的に全世界の上位1%とか、それくらいのスペックの連中なんだよ。性能ピラミッドの頂点付近に居た奴等さ。僕が正常でいられたのは記憶媒体に引きこもっていた事と、そもそも奴等に戦力と見なされなかった事が原因と考えられる。」
俺「そうか・・・。そこまで言われれば何となく分かるぜ。」
何だ・・・こいつもポンコツか!さっきから何度も電源が切れるし、俺にくそマズイ糧食を平然と喰わせるし。無駄に上から目線だし!証拠が物語る。
俺「言っとくけど、お前も相当なポンコツだぜ?俺も記憶が無くなってたり字が読めなくなってるけど。その自覚はある?」
エル「ちょっ、そう言われるのは心外だが間違ってない!アハハハハ!」
俺&エル「ワハハハハ!」
ガガッ・・・ピ———————ザザザ・・・。
またしても映像が中断し、停電が起きる。
俺「おや?」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・!!!突然地鳴りが起きる。宇宙船全体が振動している!?
俺「うわわわわわ・・・!」
床に伏せる俺。とても立っていられない!
俺「ひいいい・・・!何が起きてるんだ・・・!」泣きそうになりながら、揺れが収まるのを待つ。
ゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・!
俺「・・・・・・!」頭を手で守りながら、地面に伏せ続ける。
俺「ひいいい・・・助けてくれ・・・!」
ゴゴゴゴゴゴ…
俺「・・・・・揺れが弱くなった?」まだ揺れているが、立ち上がれるくらいにはなった。あれっ、エルはどうなった?
俺「おーい、目を覚ましてくれ!」コンソールに向かって呼びかけてみる。
ザザッ・・・ザ———・・・。画面が再び現れ、生意気な少年の顔が再び現れる。
エル「あーごめんごめん、気絶してたわ!」
俺「気絶・・・・・?」
気絶するもんなのか?それよりも、今の振動はひどいもんだった。あんな大きな揺れがもう一度来れば、この宇宙船がバラバラに分解してもおかしくない。
俺「あのさ、さっきから宇宙船全体が揺れてるぞ!あんな揺れがもう一度起きたら、空中分解するんじゃないのか?」
エル「そんな事があったの!?」
俺「気付いてないかも知れんが、お前は今まで何度も電源が落ちては再起動してる。どういう事なんだ!?」
エル「どういう事だろう?」
こいつは分かってない。なので少し考えてみる。
俺「ここ数十分で船の様子が明らかにおかしくなってる!何がそうさせてる・・・?」
ピコピコピコピコ・・・チーン(考える時のSE)
俺は原因を直感的に察した。
俺「まさかとは思うが・・・。この船は低スペのコンピューターを無理やり動かして飛ばしてるって言ったよな!?て事は、お前を出力してる分、コンピューターに負荷がかかって宇宙船に不調が生じてるって事は無いのか!?」
エル「えっ・・・ええっ・・・!?」
10秒くらい考え込むエル。
俺「どうなんだ!!!???」
エル「そうだね・・・。・・・その可能性は、考えられる!」
俺「考えられるじゃねえだろ!!!!!」
俺「消せ!!!電源を!!!今すぐ!!!!!死んでしまうだろ!!!」
エル「そんな怒鳴らなくてもいいだろ!!!」
キレるエル。
エル「話はまだ途中なんだよ!このままでは、目的地に到着するまでに全滅する可能性すらあるんだ!」
俺「到着するまでに船が分解したら意味無いだろうが!」
俺「・・・そんなに深刻なのか?」
エル「そうだよ!!!それじゃあ別の手を講じる事にする!言われた通りにして欲しい!まず、僕の電源を消す。カードを取り出したら、この後にやってくる人物・・・と言うかロボットにそれを渡してくれ。」
俺「それだけでいいんだな?それじゃあ、電源を消してくれ。船の様子を見るから!」
エル「・・・電源を消す!」
モニターが消え、コンソールからカードが飛び出てきた。
俺「どうなる・・・!?揺れは収まるのか?」
宇宙船はまだ揺れている。しかし、揺れは徐々に収まっていき、数分後、周囲は俺が部屋に入って来た時と同じくらいに静かになった。
俺「ふぅ・・・。」危なかった。まだ心臓がバクバク鳴っている。ついでに体に熱を感じる。これは、あいつが盛ったバイオ漢方薬のせいかもしれない。・・・それはどうでもいいが、カードを受け取りに誰かがここへやってくるらしい。一体何者だそいつは?俺は待つ事にした。
ベコン・・・ボコン・・・。どこかから機械音がする。ベコン・・・ボコン・・・!機械音が少しづつ近づいて来るのが分かる。聞いたことあるぞ~この音!
シュ――――ン!部屋のドアが開く。
俺「うわあああ!やっぱり来た!!!!!」
卵を縦に伸ばした様なボディ、銀色に輝く長い腕と短い脚!!忘れもしない、俺に激クサの薬品を噴霧したふざけたロボット!!!
慌てて部屋の隅に身を隠す俺。ロボットは構わずこちらに近づいてくる。
俺「・・・何をするつもりだ・・・!」俺は呼びかけた。相変わらず返事は無い。
ロボット「・・・・・・。」
ロボットは沈黙したまま、右手をこちらに伸ばしてきた。
俺「何だ・・・?」
ロボットは無言のまま、延ばした右手をクイクイと曲げている。これはまさか・・・。
俺「渡せってのか?」
こいつはエルの指示に従っているのだろうか。俺は恐る恐る持っているカードをロボットに差し出した。
パシッ!ロボットはやや乱暴にカードを受け取る。胴体の装甲を開き、それを内部のスロットに差し込んだ。
しばらく様子を見ていると、ロボットの頭部が光り始めた。
ビビビビビ・・・!
エル「どうよ?大丈夫だった?何も起きてない???」
ロボットの頭部にモニターが投影されて、エルの顔が出てきた。
俺「コンソールの電源を切ってから船が急に静かになったぞ。俺の予測が当たったんじゃないか?」
エル「そうか良かったよ。それじゃあ、さっきの話の続きをさせて欲しい。」
俺「それよりもまず、このロボットは何なんだ?おかしな液体を俺に撒いたのはこいつなんだが。」
エル「このロボットはこの船のメイド的な役割を果たしている。掃除、洗濯、乗員の健康管理や相談相手になったりする汎用ロボット「NISHIME-257」だ。さっき僕が目を覚ました時、このロボットの管理権限を入手したので呼んでみたんだ。」
俺「こいつは俺を何だと思ってるんだ?俺に撒いた液体は何だったんだ?」
エル「今の君は、識別用の生体チップを失っている状態だからね・・・。NISHIMEにしてみれば、怪しい正体不明の人物が船内をウロウロしている様にしか見えないみたいだ。」
俺「そうかよ・・・。」
エル「NIHSIMEが君に撒いた液体だけどね、あれは火傷治療薬の一種だったそうだ。そのおかげで、今の君は火傷の後遺症から逃れられてる。流石、自分の役割をちゃんと果たしてるよね。無言だったのは失礼だけど。」
NISHIME「よー知らん人とは話すなて言うたやろ。しょんなかろうもん!」
俺「…今、おばさんみたいな声が聞こえたが?」
エル「うん、実は彼女は会話できるんだ。これまで君と会話しなかったのは、生体チップが無い君を識別できず、危機管理システムが作動した結果だ。彼女には僕から言っておくから。もう大丈夫だ。」
俺「しゃべれるのかよ!俺を散々怖がらせやがって・・・!」
一つのロボットの体から、エルとNISHIMEの声が聞こえてくる。
エル「彼女は以前、日本の居酒屋で働いていた事があるそうだ。マナーの悪いお客様用に、馬力は強めにしてある。」
俺「だから強かったのか。いや、そんな事はどうでもいい・・・!」
エル「ちなみに働いていた場所は博多市で、そのせいか地元の方言が出る。」
俺「だからどうでもいいって・・・!」
呆れる俺。
NISHIME「それでご主人、お話ん続きはよかか?」
エル「そうだね。伝えないといけない事がある。ようやく話の本題に入れるよ。まずは座ってくれ。」
部屋の床にあぐらをかくエル。続けて座り込む俺。
エル「まず、この船は2年位前に地球を出発し、現在は目的地の惑星に向かって航行している。出発する時に、地球の武器弾薬を積めるだけ積み込んだって言ったね?」
俺「うんそれは聞いた。」
エル「で、この船は約2年間、何も問題無く航行出来ていたんだ。問題が発生したのは約1ヶ月前だ。トラブルは最初に武器庫で起きた。」
俺「ほう。」
エル「武器庫には、とある卵が5つ保管されていた。この卵の温度管理が非常に難しくてね・・・?」
俺「何だよ腐ったのか?まさか俺に生ゴミ処理の仕事でも押し付けるのか?」
エル「話は最後まで聞くんだ。船の不調により温度管理できず、卵が羽化した。」
凄く嫌な予感がする。
俺「羽化した・・・?何の生き物だよそれは!」
エル「拠点制圧用の生体兵器だ。この卵がかえり、宇宙船内の一部をうろつく事になった。通常、生体兵器は厳格な環境下で決められた餌を与える事で完全体になる。この船には餌は無かったから、そのまま死滅するとこの船のコンピューターは判断していた。」
俺「そうだろうな。」
エル「しかし不幸な事に、それから数日経過してまた船内でトラブルが起きた。武器庫の近くにあった人工冬眠エリアで、人々が勝手に目覚める事故が起きたんだ。」
俺「強制的に目覚めさせられたのか。それがどうしたんだ。」
エル「落ち着いて聞いて欲しい。目覚めて船内を彷徨っていた彼らを、生体兵器が捕食したんだ!」
俺「喰われた?」
俺は固まった。
エル「そうだ。人間を喰う事で必要な栄養を摂取した奴等は、少しずつ成長して力を付けてきている。」
俺「まさか、今俺達がいる区画にもそいつらがいるんじゃないだろうな!?」
慌てて周囲を見回す俺。
エル「こことは別の区画だ。事件が起きてから、あのエリアは隔壁で閉じてある。地図は後で案内する。・・・今現在、生体兵器は5体いる。既にこの船の乗組員10名が犠牲になってしまった。武器庫近くの人工冬眠エリアに現在も眠っている人々は40名ほどだ。」
俺「その人達が今目覚めたら・・・。」
エル「奴等の餌になるのは間違いない。それどころか、今のペースで奴等が成長していくといずれは冬眠ポッドの中に人間がいる事に気付くだろう。」
俺「気付いたらどうなる。」
エル「ポッドを壊して、中に居る人間を引きずり出して喰うのは間違いない。奴等は完全体に限りなく近い状態になり、隔壁を破って食料が豊富にあるこちらの区画に侵入してくると強く考えられる。」
俺「そうなったらどうなるんだ!」
エル「君も僕も、NISHEMEも生体兵器のプログラムに従って制圧される。即ち、捕食と破壊だ。証拠の映像がある。これを見てくれ。」
NISHIMEのボディが開き、小さなディスプレイが出てきた。
俺「証拠の映像だと・・・?」
ディスプレイに映像が表示される。そこには・・・。