1-7 老いぼれのライヒ
「ハイル!ハイル!ハイル!」
兵士達は涙を浮かべ、
頭が持ち上がるような感覚を覚えながら歓喜の声を上げていた。
「…諸、君…ゲル、マニア、のライヒス、アドラー、を導く、若者たち…よ。」
1958年5月20日、今日は大ドイツ國が"ロスランドにおける絶滅戦争の終了"を宣言した日である。建設が進む帝都ゲルマニアの中心地にて、独ソ戦終戦記念式典が行われていた。今年で68歳になる大ドイツ國総統アドルフ・ヒトラーは、パーキンソン病を患いながらも本人の意志で演説を行ったのだ。
「悪しき、赤死病が、滅びて、から10年、経つ…だが、しかし…」
…不意に、首に強い痛みを感じた。
「ユダヤ人はっ!」
その時、視界が暗くなり、首に硬直したような苦しみがヒトラーを襲った
後に傍聴していた医師は「背筋が凍り付く様だった」と語っている。
それも、十人の医師団が待機する目の前で、
千人の兵士たちが傍聴する目の前で、
万人の群衆がテレビで見ている目の前で、
ヒトラーは後ろに大きく倒れ、頭を打ち付けたのだ!
それを見た誰もが、恐ろしい程の悪寒を背筋に覚え、
気づけば冷や汗を流していた。
1958年5月20日、独ソ戦終戦記念日。総統アドルフ・ヒトラーはくも膜下出血で倒れたのだった。
『数週間前、ヒトラーの精神状態は芳しくなかった。
いや、錯乱していたとも言うべきか。彼は大きなストレスを抱えていたのだ。それがくも膜下出血と言う事態に繋がってしまったのだろう…。』
ヘルマン・エッサー國民啓蒙・宣伝省第3次官、回想録より
ヒトラーの療養場所は、彼の別荘であるベルクホーフへと移されていた。何度この大ホールを通っただろうか。赤い大理石で作られた巨大な炉棚、かつては夢物語だと散々陰口を叩かれていた帝都ゲルマニアの模型、そして世界を手中に収めた理想の地球儀。全てがヒトラー総統の69年間の足跡をたどっているようだった。総統の寝室へと至る廊下は数々の名画で彩られており、彼の美的センスを映し出す。
それらを通った後…総統閣下の寝室へとたどり着いた。
「誰だ…誰も近寄るなと言った筈だろう!……また!私の飯に!毒を盛るのか!誰かが、私に!私に毒を盛っているんだ!ま、間違いない!お前は誰だ!」
ヘルマンはドアに手をかける。
「Du!私だ!ヘルマン―」
「入って、くるな!どっか行っちまえ!クソ野郎が!…もう、もう皆…消えちまえ!あぁ…震えが止まらない…空気か。そうだ…、そうだ、そうだ、そうだ!換気口に、ガスを流し込んでるに違いない!…クソ野郎!人殺しめが!私はドイツ國…、いや、世界を統べる、総統だぞ!ヒムラー!奴らを全員殺してしまえ!…いやそうか…お前も裏切者か?!裏切者は、死すべきだ!ヘスのように!ロンメルのように!フェーゲラインのように!」
「Du…。」
「SSは、いつも私の意思に判した事をする…!そうだ!レーム!ヒムラー!皆私を裏切った!皆、溢れんばかりの野心に、本能のまま動かされ、私を狙っている!私は、大ドイツ帝國の総統だ、世界で一番優れた国家の!総統だ!世界で一番優れた民族を束ねる大総統だ!私は総統だ…。世界を統べる、統べる…。
…震えが。」
『ライヒと総統は一心同体なのだ。』
ヘルマン・エッサー國民啓蒙・宣伝省第3次官。
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