1-6 刺し違えたモルオルトとタントリスの血の報復
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「全員並べ!」
ベーメン・メーレン保護領レジャーキ村。
「貴様らはカール・ヘルマン・フランク総督付次官閣下を暗殺した者を匿った売国奴である!ラインハルト・ハイドリヒ副総督閣下の命令により貴様らを銃殺の末吊るし首にする!…撃て!」
バン!
1942年6月10日、レジャーキ村に銃声が響き渡った。
「大尉殿、子供たちはどうします?」
「命令書によれば、子供たちは全員収容所へ送れとの事だ。選別は向こうがやってくれる。」
「はっ、ハイルヒトラー。」
同年5月27日、ベーメン・メーレン保護領カール・ヘルマン・フランク総督付次官は、ハイドリヒのメルセデスベンツのオープンカーでプラハ城へ出勤中にパルチザンによる襲撃を受け負傷。その4日後、負傷による感染症で死亡したのだった。もしハイドリヒが出張でノルドフランクライヒ占領区域に居なかったら、死んでいたのはハイドリヒだったかもしれなかったという今回の事件を受けハイドリヒは大規模な報復作戦を実行、関連性を疑われた複数の村で報復が起きたのだった。
『皆は帝國を見くびって私の"誠実"な譲歩を弱さだと誤解しているのかね。もしもそんな印象を私が持ったとすれば、どれほど私が我慢強くとも躊躇う事無くこれまで以上の力で抑えつけるつもりだ。』
ベーメン・メーレン保護領副総督、ラインハルト・トリスタン・オイゲン・ハイドリヒ。
「あのヘスと交換する事を提示したのか?奴らも分っているだろうに、一体何を考えている。」
執務室である報告を受けたヒトラーは、そう聞き返した。
7月1日、大英帝國は中立国のスイス経由である交渉を提案した。
それは、ロンドン塔に幽閉されているドイツ国副総統ルドルフ・ヴァルター・リヒャルト・ヘスとドイツが誘拐したエドワード8世を交換するというものだ。ヘスは1941年、対英和平の為に単独でイギリスまで飛行しイギリス政府に拘束されている。ドイツの信頼を揺るがす"ナンバーツーの敵前逃亡"と言う事態に、もしヘスが帰ってきたら処刑か精神病院行きと決まっており、もう既にヘスの居場所がなく交渉材料にはならないのだが…。
「条件はヘスどころかもっと吊り上げる必要があるが…吊り上げ過ぎれば今回の作戦が無駄になってしまう…。さて、どうすべきか…。」
「…総統閣下、うちのハイドリヒなら何か構想があるやもしれません。」
ヒムラーがそう答えた。
「ハイドリヒ…ラインハルト・ハイドリヒか…確か本作戦の発案者だったな…。」
数日後。
「ハイルヒトラー。我らが総統閣下」
「うむ。」
ハイドリヒはヒトラー直々に呼び出しを受けた。
会談中のヒトラーは何時もの威厳を保っているが、
ハイドリヒの鋭い眼光に、僅かだが狼狽えている様にも見えた。
「君がハイドリヒか。」
「はっ。」
「ヒムラーからもよく聞いているよ。」
「有難き幸せであります。」
「さて…単刀直入に聞こうか…。ヒムラーは君が今回の誘致作戦について…何か構想があると聞いたのだがね。何か…助言が欲しいのだ。」
「では…」
ハイドリヒの構想はこうだ。
・目的は和平でも副総統閣下でも無い。目的はチャーチルの支持率を落とす事。
・徹底抗戦を掲げるチャーチルを交渉の場に引き出す事で支持率を落とす。
・仮に交渉が決裂しても、エドワード8世は国民から愛されている。そんな愛された王族を見捨てたチャーチルの支持はガタ落ちだろう。
・交渉はできるだけ長引かせる。その間にイギリス内部で反体制派を扇動し、存在する場合は支援を行う。
・もし抗戦派や停戦派などによる内戦が起きた場合は…良い橋頭堡になるだろう。
ハイドリヒが淡々と、迷わずに構想を語っている時、
「―しまった。」
ヒトラーは手に持っていたペンを落としてしまった。
「拾いますよ。」
「…。」
「どうされましたか総統。」
ハイドリヒが顔を見上げると、ヒトラーは自分の手を凝視していた。
「…最近、怖い訳でも無いのに手の震えが止まらんのだ。」
「…手の震え、ですか?」
「ああ…。」
ヒトラーの手は震えていた…。
あの老いぼれが、何かしくじったら直ぐに殺してやる。
現在Youtubeでも小説を流しています。https://www.youtube.com/watch?v=LD731Shi8JU&t=10s
ハイドリヒの構想。
【・目的は和平でも副総統閣下でも無い。目的はチャーチルの支持率を落とす事。
・徹底抗戦を掲げるチャーチルを交渉の場に引き出す事で支持率を落とす。
・仮に交渉が決裂しても、エドワード8世は国民から愛されている。そんな愛された王族を見捨てたチャーチルの支持はガタ落ちだろう。
・交渉はできるだけ長引かせる。その間にイギリス内部で反体制派を扇動し、存在する場合は支援を行う。
・もし抗戦派や停戦派などによる内戦が起きた場合は…良い橋頭堡になるだろう。】
だが、ハイドリヒは気づいていない…上記の殆どが、ドイツにも当てはまる事を。
『和平交渉とは…上層部は一体何を考えているのだ。まさか奴はドイツを、「裏切り国家」に仕立て上げようとしておるのか?』
???
ハイドリヒに対して。