1-2 プラハ城にて
前回と違って1941年のプラハです。
1941年12月15日。ベーメン・メーレン保護領、聖ヴォイテフ大聖堂前広場。
「ではこれより公開処刑を始める!此処に居る者たちは、
國民社会主義ドイツ労働者党を裏切り、
パルチザン行為で国家への反逆を働いた者共である!」
ベーメン・メーレン保護領プラハの保安警察署長ホルスト・ベーメルが
保護領内でパルチザン行為を行った者の罪状を読み上げていた。
向かいの建物のベランダからそれを眺めるのは、
ベーメン・メーレン保護領副総督の
ラインハルト・トリスタン・オイゲン・ハイドリヒと、
ベーメン・メーレン保護領総督付次官のカール・ヘルマン・フランク。
「ハイドリヒ総督、これはルールに反しています。法的手続きだけは―」
「正式な手続きは先日致しましたが?」
フランクの話はハイドリヒに遮られた。
「…今回は、でしょう?ヒムラー閣下がベルリンに戻ったらまた、
暫くはアプウェーアが嗅ぎまわると考えられますが。」
「カナリス長官の事ですか。はて、ヒムラー殿が信頼する自分の部下をどうしてそのまま失脚させると?心配のし過ぎですよ。」
蓄音機から楽劇"ニーベルングの指環"『ダス・ラインゴールド』が聞こえてくる。
ハイドリヒは再び広場に目をやった。
「ではこれより絞首刑を行う!」
悪名高いナチスの絞首刑が始まる。ナチスの絞首刑は縄に針金を使い、
反逆者に死ぬまで長い苦しみを味合わせ続けるのだ。
「それでは…死刑執行!」
ドン…。
・
プラハ城内の通路。
「ハイルヒトラー、ヒムラー殿。」
「ハイルヒトラー。パルチザン共が縄に吊るされる姿は痛快だなハイドリヒ。」
親衛隊全國指導者のハインリヒ・ルイポルト・ヒムラーは、ハイドリヒが副総督を
務めるベーメン・メーレン保護領に来ていた。
「閣下、わざわざ保護領まで来ていただけるとは一体どの様な御用で?」
「…SDに用だ。」
ハイドリヒは足を止めた。
「……失礼、安全な場所へお連れします。」
「頼む。」
またハイドリヒは同じ方向に歩きはじめた。
此処で言う安全とは、勿論の事だが盗聴の危険が無い所を指す。
「この部屋なら安全です、1時間前に検査したばかりですので。」
「ありがとう。」
ハイドリヒとヒムラーのみ入室する。
「…では、お話の続きを」
「ああ…君から報告を受けたエドワード8世の件だが、
それについて総統閣下ご自身から命令が下された。」
「総統閣下ご自身から?」
「そうだ。そしてこの件に詳しい君が作戦指揮官に選ばれた。
人選も君に委任されている。これが指令書だ」
ヒムラーは内ポケットから丁寧に折りたたまれた紙を出した。
そこに書かれていた内容は…。
英領バハマ総督でイギリス王族のエドワード8世を確保せよ。
「膠着状態にあるイギリス海峡を抜ける起死回生の策だ。」
1941年、第二次世界大戦初期の冬の事だった。
絞首刑の縄に針金を使うというのは作者がかなり前に見た映画の影響です。
何の映画だったかな…。