1-1 日独冷戦
【いかなる国家、集団、人種、人物等を差別、卑下する意図はありません。この小説は第二次世界大戦と冷戦を舞台にした歴史IF戦記です。】
バン!
家全体に銃声が響いた。
「クククク…
ッハッハッハッハッハッハッハ!」
割れた鏡の前で笑っているのは、
大ドイツ國親衛隊大将で國家保安本部長官の、
ラインハルト・トリスタン・オイゲン・ハイドリヒだった。
「どうしたの?!」
妻であるリナ・ハイドリヒが銃声を聞きラインハルトのいる洗面所に入ってきた。
「遂に殺ったぞ!我に成り代わろうとした醜い劣等人種を殺したんだ!」
「あなた…!」
だが…彼が撃ったのは自分の写った鏡だった。
「私はユダヤ人ではない…絶対に…
余はやらねばならんのだ…
この世から劣等人種共を絶滅させてやる…!」
1950年代、第二次世界大戦に勝利した大ドイツ國と大日本帝國は、
互いに衛星国を従え日独冷戦を展開していた。
世界の西を掌握した大ドイツ國は、"大アーリア生存圏機構"を設立。
加盟国全土で"第一次再編成作戦"を実行し、西側世界は支配人種の
"ドイチュ・アーリア人"と"ゲルマン・アーリア人"、そして奴隷種の
"ウンターメッシュ"に分けられ、それ以外は"最終的解決"がなされた。
第二次世界大戦の勝利で、大ドイツ國は世界に名だたる超大国となったのだ。
そしてその大アーリア生存圏機構に対抗するのは、大日本帝國を盟主と
する"大東亞共榮圈"である。その影響力は、北はシベリア、西はトルキスタン、
南は南極、東はカリフォルニアまで及んでいる。アジア人によるアジア統治は
ドイツの"アーリア人の世界統一"と言う概念と対するものであり、
大ドイツ國と大日本帝國は日々対立を極めていた…。
・
「シュペーア、…今まで…よく…やって…くれた。」
フォルクスハレの展望室より建設中の帝都ゲルマニアを眺めている人物こそ、
大ドイツ國総統アドルフ・ヒトラーその人である。
「そんな、ゲルマニア計画の発案者は総統閣下です。
私は、…補佐に過ぎません。」
そう答えたのは、帝國首都建設総監ベルトルト・コンラート・ヘルマン・
アルベルト・シュペーアだ。
「これが…私の…夢、だった…。古代…ローマの…都市の…様に…、
チェス盤…の様…に…道が…張り…巡らされ…。」
口元に垂れた涎を秘書のトラウデル・ユンゲが拭き取る。
ヒトラー総統の病状は悪化の一途をたどっていた。
今この時も、壁を挟んだ別室では20名を超える医師団が待機している。
病名は、"パーキンソン病"だ。
「…恐ろしいものだ。…いや、私は…昔から…恐れていた。…死を。」
ヒトラーはあの光景を思い出した…。
1907年。ユダヤ人医師の治療の下、母クララは癌と闘っていた。
直接最期に関る事は出来なかった。さぞかし寂しかったろう。
母が苦しむ姿を見て、私もいずれそうなるのだろうと恐れた。
私も静かに苦しんでいた。寂しさで!恐怖で!
1903年には別居していた父アロイスも亡くなっていた。
父の死因は肺出血だった。2人とも早死だった。
早死にしたのは両親だけではなかった。
4人の兄弟達もだ。ヒトラー家は6人兄弟だが、
無事成人したのは2人だけだ。
「…手が…この…手の…震えが…止まって…くれるなら…私は…。」
ヒトラーの手は震えていた。パーキンソン病の症状だ。
だが彼にとっては恐怖の震えでもある。
「Mein Führer…。」
ヒトラーはシュペーアの手を震える手で掴みこう言った。
「私が死ぬ前に…ゲルマニアを…
私の夢を完成させてくれ……。」
「…!……ハイルヒトラー!」
ヒトラーとの面会を終えたシュペーアは、部下にこう嘆いた。
「総統亡き後、この国はどうなるのか…。
彼の死ほど恐ろしいものは無い。」
映画「ヒトラー 〜最期の12日間〜」のヒトラーが側近との会議中に激昂するシーンで、ヒトラーが手を震わせていたのはパーキンソン病が原因らしいですね。
あと冒頭のハイドリヒが自分の映る鏡に発砲した所は実際にあった出来事です。