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自覚している人殺し



「はっ、はっ、は……」


「はぁ、は……ぅっ……!」


 先ほどまで、自分たちを殺そうとしていた男、兼原 陸也が……いや、兼原 陸也だったものを見て、昇もレイナも、顔を青くした。込み上げてくる吐き気を、必死に抑える。

 それは、もはや人の原型を留めていなかった。先ほど陸也が仕掛けた地雷にかかった人物だって、焼けてはいるがまだ人の形は保っていた。


 しかし、この死に様は……人の尊厳すら、踏みにじっていると思えた。


「っ……おい、大丈夫か」


 まだ地面に刺さったままだったナイフを抜き、アイテムボックスで購入したもので応急処置をしながら、昇はレイナに話しかけた。

 しかし、レイナの応答はない……それも当然だろうが。


 先ほどの攻防。陸也は、数少ない手掛かりからレイナの【ギフト】を見抜いたが……それは、昇も同じことだった。

 むしろ、触れた動物を殺せる、という事前情報があった分、より正確な推理を立てることができた。


 レイナはおそらく、この【ギフト】で人を殺した。男への恐怖心から、殺したのは男。レイナの性格上、殺してしまった、というほうが正しいかもしれない。

 いずれにしろ、触れた人間を殺せる力。これがあれば、どれだけ強大な相手であろうと殺すことができる。


「おい」


「うぅ……また、人を……」


 昇はレイナの前まで移動する。うなだれている彼女は、たとえ自分を殺そうとした相手でもその死に心を痛めていた。

 レイナは、陸也に動きを封じられていた。それを脱したのは……昇の撃った銃弾が、きっかけとなった。


 昇が陸也に向けて撃った銃弾は、狙いを大きく外し……レイナの手を刺していた、ナイフに当たった。その瞬間、ナイフは砕け、片方の手が自由になり……死にたくないという気持ちから、痛い気持ちも我慢して、もう一方のナイフを、引き抜いた。



『ぷっ、ははは! んな素人が、簡単に狙いをつけられるはずないだろ!』



 陸也は自分への銃弾がそれたことに笑っていたが……狙ったのは、陸也ではない。ナイフだ。いや、正確には、狙ったことになった、というべきか。

 陸也の言うように、素人に狙いなどつけられない。まして人体より小さな、ナイフに。しかも、ナイフに当たったところで、それが砕けるなどと。


 陸也を狙ったはずの銃弾が、たまたまナイフに当たり、ナイフが砕けた……それは、どれほどの確率であろうか。

 そんな、狙ってもできるわけがない、バカなと思う、計算もなにもない事態……これも、昇の【ギフト】『幸運(ラキ)』の力であろうか。


 正直、【ギフト】頼りに行動を起こしたわけではない。起こした行動の結果が今で……昇とレイナは、生きているということだ。


「……悪いな、嫌な役割を押し付けて」


 今という結果の過程には、レイナが明確に人を殺したという事実が存在する。それは、レイナにとっては耐え難い現実であろう。

 それでも、死にたくないから……無我夢中で、やれることをやるしかなかった。


 謝りはしたが、昇とレイナは事前に作戦を立てていたわけではない。立てられるはずもない。

 それぞれが、最善の道と信じて動いて……今を、呼び寄せた。


「……私も、死にたく、なかったから……」


「……そうか」


 それ以上、言葉はいらなかった……いや、出てこなかった。

 ただ、この後どうするべきかを考えて……昇は、レイナに手を差し出した。


 差し出された手を見て、レイナはぽかんと、口を開ける。


「これまで、悪かったな……疑ったりして」


「……え?」


 今いったい、なにを言われたのだろうか……レイナには、よくわからなかった。

 でも、先ほどまでは自分を警戒していた男が、無防備に手を差し出している……これだけは、確かなことだった。


 この手は、死を呼ぶ手だと……レイナに触れれば、死んでしまう。それは、つい先程、昇もその目で見たはずだ。

 触れられた陸也の体が、惨たらしく捻じれて死んでいくのを。


「な、んで……あなたも、殺すかも、しれないよ……」


「なんで、だろうな……さっきまで疑ってたことへの、お詫びと思ってくれ」


 なんだそれは、まったく理由になっていない……その手を握り、死んじゃえと願えば、死ぬというのに。

 うつむくレイナは、小さく笑い……昇の手を取ることなく、立ち上がる。


「っつ……」


「おい、無理すんなよ。ほら、医療道具あるから」


 先ほどは、死にたくないという気持ちからアドレナリンがドバドバで、痛みを感じていなかった……しかし、安心した途端に、痛みが走る。

 本当なら、ちゃんとした治療が必要だ。しかし、目の前の脅威は去っても、デスゲームはまだ終わっていないのだ。


 いつ、他の参加者が襲ってくるかわからない。だから、レイナも昇と同様、包帯を巻くのみに留めた。


「い、たた……」


「! 誰か近づいてきてる!」


 包帯を巻いたのみでは、痛みは取れない……しかし、状況は二人に有利に動いてはくれない。

 逐一マップを確認していた昇だが、この場所に他の参加者が近づいてきているのがわかった。それも、一人や二人ではない。


 複数の参加者が、一様にこの場所に、集まりつつある。


「逃げるぞ!」


「でも……大丈夫なの? 地雷とか、残ってるんじゃない」


 早くこの場から逃げなければならない。しかし、そこに不安を感じるのはレイナだ。

 先ほど、陸也が仕掛けた地雷……それにより命を落とした参加者がいる。地雷が、あの一つだけとは限らない。


 他にも、地雷が仕掛けられている……その可能性は、捨てきれない。だが……


「ここでじっとしてても、状況は変わらない! それに、他に仕掛けるような時間は、ないと思う」


 確信はない。しかし、地雷一つを仕掛けるのも大変なはずだ……それを、複数も仕掛ける時間敵余裕があるとは思えない。

 どのみち、この怪我で、他の参加者に囲まれては命が危ない……一か八か、昇とレイナはその場を、突っ切って離れていく。

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