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断章 在りし日
刈り揃えられた芝生を歩く。いや、芝生ではなかったかもしれない。
宵闇にあって青く光を返す草木がただの芝生ではないことはわかっていたが、それが何かを知る方法はなかった。
いくつもの家が建てれそうなほど広い中庭には自分の他にもたくさんの子供がいた。年の頃に数歳のずれはあるがみんなが子供と括れてしまう程度。みんなが同じ絹の寝間着を着て歩きまわっている。きっと中庭以外にも歩きまわっていることだろう。
月を背負った屋敷が黒く輝き、こっちを睨んでいるが怖くはなかった。
今晩、ご主人様はいない。
怖い人はいない。
屋敷を囲む塀を越えることは出来ないが、枷の重みを感じずにする呼吸の爽やかさを久しぶりに噛みしめる。
かえりたいなぁ。
手を繋いでいた女の子が呟いた。
まったくおんなじ気持ちだったが、声を出したら泣いてしまいそうなので自分よりも幼い手の平を握り返すことしかできなかった。
でも、
ここがどこなのか誰も知らない。
ここを出てどこへ帰ればいいのか誰もわからない。