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第1章 No.01 プロローグ

このページにおいて、本作の概要や大体これさえ身につけておけばなんとかなる用語を纏めて解説しておりますので、もしも続きを読みたいという方は是非ご確認ください。

 ──遠くで列車が鉄橋を渡る音がする。

 少しドブ臭く、それでいてどこか心地いい匂いがあたりに漂う。太陽の光は優しく、だがどこか少しキツくこちらを照らしている。

 川が流れる音や、風の音、揺れる草木の音に紛れ、近くから声が聞こえてくる。


「くっそ!後ちょっとだったのに.....!」


「何があとちょっとか知らないけど、全然ちょっとじゃないわよ。まだまだ甘いわね。」


 近くで話しているのは姉弟だろうか。とにかく弟ははしゃぎ疲れているような声を出し、姉の方も落ち着きつつ、どこかで興奮が抑えられないような声を出している。

 とても楽しそうで、聞いているとこちらも楽しくなる。


「──何がだよ、あとちょっとだっただろ?ね、ソータ?」


 ──そんな二人のうち、弟の方に声を掛けられる。

 そうだ、今しがた、この子供と自分は、圧倒的な強さを持つ姉と戦いごっこをして、見事なまでに惨敗したのだ。


「──でも惜しかったよ。姉ちゃんが油断した時に足を取れていれば、ワンチャンあったかもしれないね。」


「そうだよなぁ、くっそぉ、鍛え直しだな.....」


 心の底から悔しそうな声を出す弟に、自分──ソータは苦笑いを返すしかなかった。

 なにせ、圧倒的なのだ。


「──ホント、どこにあるんだろうってくらい力が強いよね。僕ら二人を片手ずつに持ち上げて投げられたら、もうどうしようも無いんだよ.....」


「あはは、まあ、姉ちゃんが馬鹿力なのは認めるぞ。クラスメイトにも引かれるってよく言うし。」


「こら!余計なこと言うんじゃありません!でも、こんな風に二人と遊ぶ為には、これくらい力が無いとしんどくなっちゃうからね。」


 姉はその力の強さから、この戦いごっこ、いわゆる"サバイバルゲーム"で怪物役を任されている。ソータと弟で陣地を組み、攻城戦と呼ばれるゲームで力比べをしているが、今のところ人間側の勝率は0%である。


「相変わらず元気で賑やかね。私にはついていけない。」

 

 遊び疲れていると、タオルを持った女性が現れ、3人にそんな声をかける。


「ユウキお姉ちゃんも参加しようよ!」


「私は無理よ、体も強くないし、お姉ちゃんに簡単に倒されちゃうわ。それより、もうすぐ日が暮れるから帰るよ。三人とも汗拭いて。」


 ユウキに言われるがまま、三人はタオルを貰い汗を拭く。

 このサバイバルゲームをしていると、知らないうちにとてつもない量の汗をかく。

 それだけ没頭して楽しめる遊びなのだ。考案者の姉に感謝しなければならない。



「──じゃあ帰ろう!」


「うん.....」


 ──あれ?なんだこの違和感は。

 たった今、目の前には紛れもなく幸せな景色が広がっていて、自分はそんな日々を謳歌しているはずなのに。


「ソータくん.....?」


「おい、バテたんじゃねぇか?おんぶしてやるから、さっさと帰るぞ。」


「う、うん.....」


 だが、他の三人は気にもとめずに帰り支度を済ませていた。



 ──夜も遅くなり、ソータとさっきの三人、それに両親が食卓を囲み、それも終わって、今は風呂を待っていた。


 (──ユウキお姉ちゃん.....あれ?なんで──)


 だが、ソータは相変わらず心が曖昧になっていた。

 今目の前にある景色こそ今の生活だ。何も疑う余地はないというのに、どこか異質に感じてしまう。

 まるで、こんな生活は記憶にないとでも言うように。


「──さっきからどうしたんだ?ボーっとして。」


「え?あ.....」


 そんなことに悩んでいると、弟が声をかけてくる。

 ──これにもまた違和感がある。でも、紛れもなくソータは彼を知っている。その理由はなんだ。


「──いや、なんて言えばいいんだろ。まるで、なんて言うか──夢みたいだなって思って──」


「何言ってんだよ?おかしい奴だな──」


 そうは言ってみたものの、夢という実感も浮かばない。

 その思考がどこから来たのかも分からないのだ。


「──ううん。気の所為。今日も楽しかったし、昨日も、その前の日も、楽しいことしかなくて──夢みたいだなって、そう思っただけなんだ。」


「なーんだ、そんな事かよ。」


 弟はあっけらかんと笑ってみせる。


「楽しそうで何よりだわ。私も怪物役のやりがいがあるってものね。」


 姉もまたそんなことを言って笑う。

 ユウキもまた、そんなソータたちを見ている時は笑顔だ。



 ──まるで理想の世界だな。こんな日が──




ー‐ー‐ー


「──何ぼさっとしてんねん!」


 ふと目を開けると、目の前の空気を誰かの攻撃が横切り、その微弱な衝撃波だけが、誰かからの攻撃を受けていた事実を、身体に刻み込んでいた。

 直立二足歩行だが、全身の皮膚は真っ赤に染まり、手のひらと指が鎌のように変形している。紛れもなく怪物だ。


「らしくねぇぞ颯太!」


 ──その怪物は仲間が2人掛りで颯太から引き剥がした。

 声を掛けられた少年の名は高縄颯太(たかなわそうた)。2040年5月16日生まれの現在15歳である。

 声を掛けた背の高い男は、友人の吉野闘也(よしのとうや)。2032年11月21日生まれの22歳。もう一人の少女は穂見結愛(ほのみゆな)、2039年6月2日生まれの16歳である。


「──ああ、悪い。立て直そう。」


 ──3人がかりで挑んでいる相手。

 現在この日本にはこの手の人から化けた怪物が横行しており、治安部隊のような役割を果たすストライカーと呼ばれる人間たちが、特殊能力を使用して怪物を倒し、怪物の中の人を救助する。

 颯太たちはそのストライカーという訳だ。


「コアは見つけた?」


「左肩にある。間違えて首まで切らないように気をつけないとな。」


「──縁起でもない事言うんじゃねぇよ.....」


 闘也が笑えない冗談を言いながら、颯太にコアの位置を話す。

 別に普通に怪物と戦う分には攻撃を当てまくって倒すことも出来るのだが、怪物がある意味"寄生した"中の人へのダメージをなるべく最小限に留めるため、怪物と戦う時は、15cm四方の立方体である"コア"をなるべく狙って攻撃する。


 怪物と言っても内燃エネルギーではなく、このコアと呼ばれる部分が魔力を体に送り込み、全身の傷を治したり、さらには魔力を変換することで持久力、耐久力と言った基礎体力が実質無限に湧き出てくる。

 怪物をなるべく早く倒すためにも、魔力の供給源から潰して"怪物としての生命維持"を不可能にさせ、即座に"中の人"を救出する必要があると言うわけだ。


 ──だが、当然そう一筋縄でいく戦いではない。


「──っ!!くっそ.....!!」


 タゲが闘也に移り、闘也との肉弾戦に持ち込む怪物。闘也の戦い方も肉弾戦をメインとした近接戦闘が主体であり、さらには空手教室を自ら開くなど、その腕もかなりのもの。

 だが、体格でも有利なはずの闘也を、怪物はいとも容易く持ち上げて投げ飛ばす。


 ──元の人間がどんなに弱くても、肉体の限界値を超えるほどのパワーを持つのが怪物だ。

 寄生する宿主によっては、4歳くらいの少女の体で相撲の力士を屋上まで運搬し投げ捨てる、そんな怪力の所業も可能なのだ。非常に恐ろしい。


「──ったく、厄介なことこの上ねぇな.....!!」


 闘也はそのまま素早くカウンターで突撃するが、怪物はそれを見越してさらにカウンターを返そうとする。

 その為、無警戒となっていた横腹を颯太が傘で切りつける。


 ──使っているのは傘なのに、簡単にその皮膚を切り飛ばし、見事にその肉体を抉る。


「──っ!!」


 傷を受け、分が悪いと判断したのか、怪物はそのまま一時退避し、三人の様子を伺う。


「こいつは武器持ち速攻型の俺に任せてくれ、二人はバックアップを頼む。」


「おうよ!」

「任しとき!」


 颯太が再び傘を持ち、退避し様子を伺う怪物を目掛けて一気に突撃した。怪物はそれを待っていたかのように、同じく突撃して一気に距離を詰める。

 怪物の身体能力は人間を超えるため、下手に近付くのは危険だが、颯太は慣れた手つきで傘を操り、連撃で繰り出される拳という拳を切り付けて、防御と同時に少しずつダメージを与えていく。

 流石に厄介と判断した怪物は、一度引く姿勢を見せてブラフを仕掛け、颯太の攻撃モーションの隙に合わせてタックルを仕掛ける。颯太は読んでいたのか傘でしっかりと防ぐが、流石にパワーの差が圧倒的で、颯太が踏み留まろうとするのを、その土ごと抉り一気に推していく。


 (──っ、マズイか──)


 ──颯太が撤退し別の戦略を試そうとした時──


「──おらああぁっ.....!!」


 颯太の背後から全力疾走でのタックルを仕掛けてくるのは、バックアップの為に駆けつけた結愛だ。

 彼女の武器は縦1メートルの大きな木材、重さは12キロ。その武器を突き立てて颯太からタゲを無理矢理引き剥がすと、今度は結愛が一気に怪物を押していく。


 ──これが彼女の強み、圧倒的な怪力だ。

 本人もいつ取得したかは分からないと話す圧倒的怪力は、男子中学生の全力をいとも容易く超える怪物を、逆に押し返すほどの圧倒的パワー。なんなら身体能力に魔力による多重バフを掛けたそのパワーをも圧倒的に凌駕する。


「──流石は怪力っ娘、頼りになるな.....!!」

「ええ加減その呼び方やめぇや.....!!」


 そう言うと結愛は、相手の重心を木材で突き、体ごと持ち上げて一気に吹き飛ばす。流石は圧倒的パワー、他の軟弱な男子2名では到底真似出来ない。

 ──ちなみに颯太は、とある理由で結愛を名前で呼ばない。


 いいとこ無しで吹っ飛ばされた怪物も、黙っていないとばかりに魔力を大量に消費し、決め技を用意する。

 とんでもない脚力と瞬発力で上空遥か高くに飛び上がり、結愛を狙って異次元のボディプレスを仕掛けてきた。


 ──だが、結愛はその程度では挫けない。


「体重一桁増やしてから、出直してこいやぁっ.....!!」


 何と、そのボディプレスを正面から受け止め、武器である木材で胸を突き飛ばしてまた上空に吹き飛ばした。

 ここまでされれば、最早怪物は打つ手無しである。


「一気に決める.....!」


 颯太の動きを見て、結愛はもう一度受け止めていた怪物を木材で上に投げ飛ばす。

 いくら怪物といえども、空気を蹴れるような超能力は持ち合わせていないのが現状だ。つまりは結愛にここまでされた時点で完全に詰みである。


 (──完璧な体勢、決め技は一発で十分.....!!)


 結愛のファインプレーのアシストに、後は攻撃を叩き込むだけとなった盤面、颯太はより確実に仕留めるため、決め技で一気にダメージを削りにかかった。


 地面を抉るように蹴り飛ばすと、その勢いのまま颯太は飛び上がり、体を横回転で回し、右手に持っていた傘に遠心力をかけて威力を増幅させる。

 その勢いで怪物のコアを真上から捉え、袈裟懸けのような斬撃で一気にコアの耐久値を削り取る。

 本当は二連撃だが、このように一連撃にも応用できる"旋風斬"、名前の通り"旋風(つむじかぜ)"を応用した技だ。


 特殊な力により凶器と化した傘により、見事な一撃が与えられ、怪物のコアは見事に全て削り切り、外殻が全て削れると、中から白い光が漏れ出し、光だけの爆発が起こる。

 そして怪物は、中の人間を解放し、その場を去った。



 ──AO(武器)を下ろし、倒れた人間の元へと急ぐ。

 怪物に取り憑かれていたはずなのに、戦っていた時についていた傷は全てコアによる魔力で治されている。颯太は最後にコアのみを攻撃した為に、最後に傷は付いていなかった。

 そして、怪物に乗っ取られていた為か、意識を失ったまま倒れている。


「──2、30代くらいの男か。何があったんだろうな。」


「さあ、こうなるのもホント突然みたいだし、悪魔に魂を売ったとか、そういう訳でもなさそうに見えるがな。」


 怪物と言っても大きく変形している訳では無く、ある程度は人間時代の外見を保っているように見える。


「──んで、コイツはどうする。運ぶのか?」


「勿論、指示通りにな。今後の為の研究材料(サンプル)集めも、私たちにとって重要なことやで。」


 そう言いながら、まるで肩掛けカバンを掛けるかの如く軽々と男の身柄を担ぎあげ、50メートルほど離れた位置にあったバスの中へと放り込んだ。


「──なんていうか、相変わらずだな.....」


 普通なら男子でも到底出来っこないことを、まるで朝飯前と言う風にやってのける結愛に、颯太は渾身の呆れ顔。

 一方の結愛は、(とぼ)ける訳でも無く、"え?何か顔に付いてる?"と言いそうな顔をしてくる。

 それが余計に住んでいる次元の差を感じさせるのだった。


 ー‐ー‐ー


「ただいま帰りました。」


 怪物討伐の任務を終え、颯太たちは自拠点へと戻った。

 かつて泉大津フェ○ックスと名乗っていたその場所は、かつて屋外でバンドミュージシャンたちがライブを開いていた人気会場だった。

 だが、整備の不十分さや衛生面を理由に場所を変えることとなり、2035年冬に使用を取りやめ、かつての輝きを失った不死鳥は死んだ。


「お疲れ様。3人での初実戦はいかがだったかしら?」


「まあ、そこそこって感じですかね。」


 そんな風に話している女性こそ、この施設のいわば館長。

 穂波侑紀(ほなみゆうき)、2028年5月18日生まれ、現在27歳にして、ある機関からここ泉大津の管理を任されている。

 その中身は国公立大学の薬学部をストレートで主席卒業し、薬学部で取得可能な資格をはじめ、麻薬管理や毒物・劇物、放射線取扱資格などの各種国家資格も保有している、いわば薬学のプロである。

 この泉大津にあるストライカーグループの運営の他、薬剤師として薬局で働いており、給与の一部も運営費の足しにしている。


「結愛ちゃんの復帰も勿論、新人二人の加入も大助かりなんだから。今は主力グループで回せているけど、今後はそうもいかないと思うから、なるべく弱いのを討伐して経験値を稼いでおいてね。」


 そういう彼女は非戦闘員だ。

 ストライカーグループは、穂波のように機関による報酬金や補助金、または管理者の労働による維持費等で賄うグループもあれば、管理者自ら戦地に赴き、報酬金のみで生活する、いわばRPGゲームにおけるギルドのようなものも存在する。穂波は薬剤師の仕事もあるので前者の方式を採る。


「それもそうですけど、リザーブのメンバーが3人だけって、本当に大丈夫なんですかね.....」


「──まあ、その辺のことは追々ね。なにせ"あいつら"の存在が増えて、戦いが日常化していても尚、ついこの間まで平和ボケしていた日本人はほとんど戦闘員になってくれないのよ。」


「──そんな言い方します.....?」


「そういや、帝塚山の消えた怪物の件って、進展あったんですか?」


「──えっとね、報告書見るわね──」


 言い方に違和感を感じた颯太たが、結愛がさらに別の話題を出したことで有耶無耶にされた。


「──話長なるかもしれへんから、先戻っといて。後でちょっと今後について喋ろ。」


「.....ああ、うん。分かった──」


 露骨に話題を逸らされた気がしたが、どうせまだまだこの界隈のことを良く知らない(にわか)の為、これ以上話を聞いても混乱するだけだと判断し、二人は仮拠点に戻った。



 泉大津フェ○ックス跡地に建てられた対怪物の為の研究施設は、研究施設と病棟を合わせた"本棟"が6年前に建てられ、その横に穂波の自宅を増設したかのような作りとなっている。

 正式には自宅ではなく穂波の自室扱いだが、2階建て35平米、6LDKに風呂付きと、どんな高級ホテルのスイートルームと言っても無理がある、一軒家のような作りだ。

 近くには泉大津の主力グループの専用宿泊棟が作られているが、現時点で颯太、結愛、闘也の3人しかいないサブグループは、今のところ穂波の家、もとい超巨大な自室に居候のような格好となっている。


「──にしても、お前はいつの間にストライカーになってたんだよ、闘也。」


 ここに所属してから新しく買った一人掛けの小型ソファーに腰を下ろし、闘也に第一声でそんなことを聞く。


「意外かもしれんが俺は去年の年末にはなってた。逆に俺にしてみちゃ、いつお前がこの界隈に入ってきたかが疑問だったんだがなぁ。」


「──まあ、いろいろあったんだよ.....」


 颯太は返事を濁すが、特に闘也は不信感を持っていない。

 というのも、この二人はかつてからの友人。闘也は空手の道場を自分で経営していたが、別に空手が接点と言う訳ではなく、単純に昔からの顔馴染みだったというだけだ。


「──そもそも、俺だって傘だバールだを刀として扱えるなんて、耳を疑ったからな──」


 ──これがストライカーたる所以、神心武装である。

 ストライカーは三つのタイプがあり、まずは大きく二つに別れ、武器を用いるか用いないかの二択に別れる。

 後者は"闘"と呼ばれ、己の肉体を駆使して怪物と戦う、ある意味最も勇気のいるストライカーである。肉体の強度、身体能力や攻撃に大きくバフがかかる為、一時的に怪物と同じレベルの身体能力、攻撃力が手に入る。

 一方、武器を使うのが"打"と"斬"。速さとダメージが反比例する関係で、基本"打"が重い一撃を、"斬"が素早い連撃を行う方向で特化しているが、当然逆なこともある。

 なお、一部にはこの枠に当てはまらない"特殊タイプ"が存在しているが、ストライカー人口の10万分の1程度という希少さの為、解説は登場時に持ち越す。


 このパーティーでは、颯太が速攻型の"斬"、結愛が防御・火力特化の"打"、闘也が"闘"であり、基本的な3種類でバランスが取れている。基本颯太と闘也が速攻で仕掛け、結愛はディフェンス、そして決定的な一打の場面で活きる。


「──まあ、"神心武装"を最初に聞いたやつは、大体みんなどこぞの御伽噺だと疑うもんだ。」


「──そりゃな──俺も最初は嘲笑してたくらいだ。」


 実際、現実世界でなら有り得ない話だ。

 だが、今ここにいる颯太たち3人の他にも、泉大津では40人以上のストライカーが戦闘員として治安維持を担っている。全国ではその規模は6万人を数える。

 現状怪物の数は確認できていないが、2055年5月の一ヶ月間で、泉大津では28体の怪物を討伐し、現在もまだまだ増加中と言われている。


「.....あんなものが何十、何百といるんだもんな。とんでもない世の中になったもんだよ.....」


 ──現に、泉大津含め各ストライカーグループに寄せられる通報は、それこそ警察ほどの回数ではないが、少なくとも時間外労働が時間内労働を超えるほどに多い。

 しかもその怪物たちは人間に寄生した上で我を失い、周りの人間や建造物に恐るべきパワーで危害を加える。ものによっては何人もの人間を殺害したり、海外では根本の柱を破壊し高層ビルを崩落させた個体もいたと聞く。


「──そんな相手を民間人から護るんが私たちストライカーや。なんの武器も持ってへん、せやけど"神心武装"がある。普通の人間では手も足も出えへんような相手を倒すためにな。」


 そんなことを言いつつ、5分弱遅れて結愛も戻ってくる。長くなると言っていた割にはそこそこ早いお帰りだ。


「んで、今後の話ってのは?」


「まあ、色々とな。」


 そういいつつ、結愛は小脇に抱えていたタブレット端末を机に置き、資料を準備した。


「.....それは?」


「まあ、泉大津配属のあれこれやな。一応新人さんやし、軽く説明するな。」


 ──そう言いつつ、結愛は2、3枚分のスライドを素早く飛ばした。


「──あの、一応聞くけど、今のは説明を端折ったってことでいいのか?」


「うん、私はどうでもええとこは飛ばす主義やからな。」


 何か違和感を感じる颯太だが、どうでもいいやとそれで納得した。

 いちいち気にしていても仕方ないし、何より闘也がまったく気にしていなさそうに見えたため、あまり時間を使いすぎるのも申し訳ないと思ったのだろう。


「闘也さんはともかく、颯太くんはどうせ全費用こっち持ちになるんやし報酬金の話はどうでもいいな。取り敢えず他のグループとかメンバーとの話に支障が出るから、専門用語の呼び名の統一だけはお願いな。」


「やっぱそういうのもあるんだな。」


 そう言いつつ、結愛がスライドを出して解説を始めた。


「まず、特殊訓練を受けて、身の回りのモノを武器として使える"神心武装"は流石に知ってるよな?」


「ああ。」


 補足しておくと、ある団体により特殊な訓練を受けて使えるようになるのが"神心武装"、これを使えて初めて、ストライカーとして戦うことができる。


「で、ストライカーとして──なんちゅうの?武器に魂を宿す?──みたいなんを、取り敢えずアーミングって呼ぶから覚えといてな。」


 まあ要するに、一般人からストライカーへとモードを切り替える時のことをアーミングと呼ぶのだが、如何せん殆どのストライカーが感覚で覚えていることであり、その意味を説明するのは至難の業である。


「そんで、その武器がアーミングオブジェクト、略称でAOって呼ばれている。」


「俺の傘、そんでお前の建築材って訳か。」


 無論、これは"斬"と"打"にのみ当てはまる。強いて言うなら、"鬪"にとってのAOは自分自身と言うべきか。

 なお、黙読時にもAOと発音するのは面倒だと思うので、この作品を読んでいる間、AOの二文字は"武器"と脳内変換してもらって構わない。


「そんで、颯太くんは決め技って呼んでたやつやけど、ストライカーは通例で"秘奥技"って呼んでる。決め技って呼び方やと通じひんから、そこは注意してな。」


「──あんまり口馴染みの無い言葉だな.....」


 そもそも秘奥技、もとい秘奥義など、余程で無い限り使うことも無いものだ。秘奥義の一つ前には奥義が必ず存在するが、ストライカーたちはそれをすっ飛ばして同音の言葉を使用し続けている。

 なお、秘奥"義"では無く秘奥"技"であるが、これはあくまでこの作品内での呼称なので、現実世界で書き間違いの無いようにご注意を。当方では責任は一切取らない。


「──取り敢えずそんなもんかな。後はこれか。」


 結愛はタブレット端末を操作し、また別のページを開いて颯太にタッチペンを渡す。


「一応タイキプロへの登録は済んでるって聞いたから、闘也さんには泉大津への所属契約の方をお願いします。初実戦だったさっきの分も、登録が終わり次第お支払いしますね。」


「おお、助かるぜ。しかし、颯太の分はいいのか?」


「──えっと、颯太くんは特殊な事情があるから、今はまだ登録しないことにしてるって穂波さんが言ってました。」


「そうか。それなら問題ないな。」


 特に内容も読まずに闘也は言われた通りにフルネームをサインした。別に結愛のことだ、変な壺を買わされたりとかそんなのは無いだろうが、流石に不用心では無いのだろうか。

 そう言えばストライカーを大々的に支援しているどこかの機関が報酬金やグループ運営の補助金を出していることを思い出し、一応公的な登録をしておかなければ不味いのだろうか。


「──さて、私からはこんなもんかな。後、マネージャーって訳じゃないんやけど、施設側のサポーターで末崎沙梨って人が入んねんけど、ちょっと忙しいみたいで顔見せは後になりそうやわ。」


 沙梨は主にメンバーや怪物の身柄のバス輸送に長けている。電車運転用の甲種電気車運転免許を除くあらゆる運転免許を保持、保持している運転免許はクルーズ船等の船舶、いわゆる"セスナ"と呼ばれる小型飛行機、工事現場の重機など、基本的に何でも運転できる。

 ちなみに主力グループは機関から配属されたバスと運転手の、いわばレンドリースで賄っている。そもそも沙梨が運転できるバスは、後部席を大型トランクに改造した影響で定員が33人で、主力勢40人超は一度に運べなかった。


「──あとは、さっきも言ったメンバー増員のことか。」


「その件なら、後で知り合いのツテで2人は呼べそうだ。どっちも実力者だから、俺たちにとっちゃ即戦力だぜ。」


「なら、メンバーの件は闘也さんにお任せしときます。そろそろ遅なってきたし、寝支度でもしましょう。」


 ──2055年6月25日、既に時計は21時過ぎを指していた。

 初任務を終え、長かった1日を終えた。明日からはまたリザーブらしく、当面暇が続くだろう。

 そんな楽観的な思考で、颯太は寝支度を始めるのだった。


 ー‐ー‐ー


 『──いつもいつも、貴方の考えには驚かされてばかりですよ.....』


「誉め言葉として受け取っておくわ。」


 電話越しに若い少年の声が聞こえてくる。通話中なのは穂波だ。


 『しかし、いいんですか?貴方のことだ、どうせ彼に何も教えていないんでしょう?』


「必要のないことをベラベラ話すのは労力の無駄よ。だから何も話していないだけ。」


 『──そうですか.....』


 ──合理的というか、効率史上主義というか。

 ある意味"いつも通り"な穂波の言葉に、電話越しにため息が漏れる。


 『──後々面倒なことになっても知りませんからね。』


「.....誰も永遠に話さないとは言ってないわよ。他人の心配してる暇があるなら、早くそっちの仕事片づけて帰ってきなさい。報告書が今か今かと手をこまねいているわ。」


 『──帰りたくなくなるのでそういう冗談はやめてください。』


 それだけ言い残して電話は切れた。


「──全く、面倒見が良いのか、ただのお節介なのか──」


「大変そうですね.....」


 そんな通話の一部始終を見ていた人物が、穂波に恐る恐る声を掛けていた。


「──人の電話の盗み聞きなんて、どこでそんな悪い趣味が出来たのかしら、沙梨。」


「──い、いえ!そういう訳では無くて、大阪代表、梅田の管理者(オーナー)から、大阪府内におけるとある情報を泉大津にも伝達しておきたいとのことで──」


 梅田にあるストライカーグループは、大阪府では最大勢力であり、総勢125名のストライカーが所属する、日本でも有数の一大グループである。

 なのでその分調査隊も敏腕であり、総勢8名にも及ぶ調査・偵察部隊が大阪府全体の調査も担っている。無論、各グループにも情報部は存在しているが、泉大津のみ予備部隊がその役目を担っており、事実上の情報部は存在しない。


「梅田のオーナーって──ああ、中津さんか。なんの情報かしら──」


 ──その内容が記されたメールを見た瞬間、穂波の目の色が変わった。

申し訳ないですが、この作品は書き溜めておりますので、今後の内容の面白さは保証できないこと、そして場合によっては改変のために連載が一度ストップしてしまう可能性がございます。ご了承ください。

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