第一節:束の間の安住 3
ぐるりとキャンプを回るように移動している。
幸いにも魔獣との接敵は今のところはなく、来る前に言われた群体の痕跡も発見していなかった。
(まだ油断はできないけど、今日は大丈夫そうかな )
もちろんまだ私が発見していなかったり見落としてしまっているだけの可能性もあるけど、眼前に迫るような危険がない事にひとまず安心しながら偵察を続けた。
1時間ほど歩き続け、私はいつも任務の途中で休憩スポットにしている廃ビルがある都市部へとやって来た。
この廃ビルは何かの会社なのか、壊れた自動ドアから中に入ると受付らしいカウンターが最初に目に入り、その後ろに2階へと続くエスカレーターがある。
カウンターの前までやってきた私は荷物を背中から下ろし、そのまま中には入らず背もたれにしながら座り込んだ。
ここに来ると改めて世界が崩壊してしまった事を実感する。
この巨大な建造物にはただ一人、気持ち悪いくらい物音一つしない静けさが私を包み込んでいて、なんだか取り残されてしまったような孤独感を錯覚する。
静けさの中、ちびちびとボトルの水を啜りながら廃都市の風景...いや、惨状を何も考えずに眺めて休息をとる。
ガタン
そろそろ立ちあがろうかと考え始めた時だった。
エスカレーターを登った2階から何かの物音、高めの場所から物が落下したような音が聞こえた。
私がこの廃ビルに立ち入るようになってから初めて聞く物音、もちろん瓦礫や残された何かが落下しただけの可能性が遥かに高く、断続的に音が聞こえるわけでもない。
けれども、私の直感が確かめに行くべきだと警鐘を鳴らしてやまない。
立ち上がって荷物を背負い、腰に携えた“武器”をいつでも取り出せるように手を添えながらエスカレーターを登って音の出どころを探す。
2階は食堂や社外の人向けに開放されている部屋が大半らしく開放的な部屋が多く、こちらもガラス張りだったらしいけど大破していて外からでも中の様子が見えた。
一室一室慎重に確かめていると、休憩室のとある場所に目が止まった。
(あの自販機、中の商品が漁られてる...?)
自販機が壊れていること自体違和感はない、だけど中のスナック菓子や飲料が散乱するのでなく漁られたかのようにすっぽりとなくなっている箇所があった。
更に見れば地面には開封されたらしい袋のゴミや空のペットボトルが転がっていて、ここに生存者がいる事を示していた。
「誰かいますか?」
下手に音を鳴らすのは危険かもしれない。
けど、魔獣のテリトリー外かつ生存者がいるのならばすぐに助けてあげるべきだと思い意を決して声を出した。
私の声かけに返事はなく、ただただ静けさだけが続く。
もし生存者の人がいたとしても、既にこのビル外に移動してしまっていたら私一人では流石に探し出すのは困難だ。
返事がない事を確認し、一刻も早くこの事を報告するために偵察任務を切り上げて帰還しようかと思った時だった。
ガタン
私のがいる位置からすぐ横...休憩室の一画に設けられた喫煙室の中からさっき聞いた物音がした。
すりガラスになっているのと照明がなく薄暗いのが相まって見えにくかったけど、よく見ると人影のようなものがうっすらとあるような気もする。
ガラス越しにノックしてみても反応は無く、もしかしたら寝てしまっていて物音は寝返り打った時のかもしれない。
とりあえず早くこの人を保護して帰還すべきだと判断した私は懐中電灯を取り出し、そのまま喫煙室の扉を開けて声をかけようと影まで近寄った。
室内にこびりついたタバコ特有の香りですぐには分からなかったけど、中は少し生臭いような腐臭が漂っていた。
衛生的には悪そうだけど、確かに魔獣に怯えこの喫煙室に隠れ住んでいたのならその辺りの管理はおざなりになってしまうと思う。
そのまま中を見渡すように照らしてみると、壁に寄りかかりながら熟睡している男の人を見つけた。
「すみません、起きてください。助けに来ま...え?」
座り込んで肩をゆさって声をかけながら起こそうとすると、まるで力が無いに等しいくらい首が揺れるとそのまま床にうつ伏せになるよう倒れ込んだ。
隠れていたワイシャツの背中側にはべったりと血が滲んでおり、この出血量では生きているはずがない。
(この人適合したのに...いや、それよりも早く戻らないと )
頭を切り替え直ぐに明かりで地面を照らしてみると、血痕は部屋の中にしかなく扉の前には無い。
それはこの人がここで魔獣に襲われた事を意味する。
嫌な予感がする。
急いで立ち上がり扉に手をかけた瞬間、背中から巨大に弾き飛ばされる感覚に襲われ、そのまま吹き飛ばされた私は開いた扉から勢いよく弾き出される。
「痛っ...こいつ、最初から潜んでたのね 」
私に体当たりをして突き飛ばした正体、犬型の魔獣がこちらに牙を剥きながら姿を現した。
ぶつかった衝撃で体の節々が痛むのを堪えながら急いで立ち上がり、今にも襲ってきそうな魔獣を迎撃をする為に武器を取り出して構える。
「起動パス ヒサネ。魔導書起動!」
腰につけていた武器...魔導書と呼称するそれを起動すると私の手から離れ周りを浮遊し始める。
実戦はもう何度も積んだし、犬型程度に勝てないほど自分が弱いつもりはない。
魔獣は私を警戒しているのか先に動く気配はなくようすを伺っているみたいだった。
だったらと、先制攻撃を仕掛けるために私は口を開いた。




