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多重人格者は魔法学校に通う  作者: フレート
8/30

女性

眩しい太陽に照らされながら生徒達は寮から学校へと向かう。その場に居る生徒達は大半が眠そうな顔をしていたが、全員が二日目の授業を楽しみにしていた。後々飽きるだろうが、とにかく今は新しい環境である高校生活が楽しいのだ。


そしてそんな生徒達の中に一人の人物が居た。その人は黒髪のショートカットで、淡いピンクの唇をしている。顔立ちは中性的だがほぼ全ての人はその人物を女性だと認識するだろう。女子制服に自分で付けたであろう大きなピンク色のリボンが良く似合う。


その場に居る殆どが彼女を見て見惚れていたりお互いに彼女について話したりする。


「なぁ、あの女子可愛くね?」


「何組の人だろう。昨日居なかった気がするけど…」


「綺麗〜、私もあんな風になりたいな〜」


「何だかフレートに似てる気がするけど兄妹かな?」


そして彼女は自信に満ちた表情をして自分のクラスへと向かった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


教室内は朝だと言うのにかなり賑わっている。学校中昨日の魔物襲撃の事で盛り上がっているのだ。ただの生徒である三人のお陰で学校は救われ、しかもその三人は全員一年生の同じクラスに居るのだ。


その内の二人は他のクラスメイトに囲まれて賞賛や質問攻め等を受けている。そんな中アイスは生徒達にもみくちゃにされながら思う、昨日の事できっとフレートの好感度は上がり、彼の望む理想の学園生活になる筈だと。


しかし何だか生徒達の様子が変だった。皆んなが「よく逃げ切れたね」だの「囮になるなんて凄い勇気だ!」と言う。何故か魔物を討伐した事については誰も触れてはくれない。しかしアイスにとってそんな事はどうでも良かった。


時々見せる普通じゃない一面のせいでアイス以外友達が居なかったフレートだがきっとこれから沢山友達が出来て楽しく暮らす。確かに彼女の予想通りそうなる筈だったが教室の扉が開いた瞬間、教室内は静まり返る。


(な、なんで今日に限って…)


そこにはフレートにとても良く似た女子生徒が立っていた。とても美人で雰囲気も良いが彼女がフレートの席に座ったせいでこの場にいる全員が彼女に対して首を傾げている。何故フレートそっくりな女性がフレートの席に座っているんだと。


授業が始まるまで残り五分、そんな中アイスはフレート似の女性の手を取り教室から出る。そして廊下に誰も居ない事を確認すると彼女の両肩に手を乗せて怒った雰囲気で喋る。


「何でまたその格好なの!?せっかく皆んなフレート君の事見直してたのに、これじゃ台無しだよ!?」


「大丈夫よ。他の方々には妹という事で通すから」


「前の学校ではいけてたかもしれないけど今度こそバレるって…!」


「知ってるでしょ?私は周りの人を軽い催眠状態にする魔法を持ってるの。よっぽどの事が無い限りバレないわよ」


どう見ても女性に見えるこの人物は紛れも無くフレート自身だ。だが例によってまたフレート自身の人格では無かった。


その人格の名前はアルニサ・ホワイト。魔王と最も活発に戦っていたバリグ国の王女であり、魔王討伐を成し遂げた勇者の許嫁でもあった、がバルヴァルとはあまり仲は良くないようだった。彼女は少し我儘で好奇心の強い女性で、超一流の魔法使いでもある。メイクがとても上手で今まで何回もフレートを女装させて学校生活を楽しんでいたのだった。


「さぁ、そろそろ授業が始まるわよ。教室へ戻りましょう。アイスちゃん」


「はぁ……これからは女装をもうちょっと控えてよ。フレート君」


「私の事はアルニサ、と呼んで欲しいわね」


「はいはい…」


教室に戻り席へ着く。直ぐにやって来たグル先生には兄の代わりに授業を受けに来た妹だと伝えた。彼女は納得した様子だったが少し笑っていたのがアルニサは気に食わなかった。


「それじゃあフレートの妹の事は置いておいて授業を始めるぞー。と、言いたい所だがその前にお前らに言わなければならない事がある。昨日の魔物騒ぎについてだ」


その話題が出た途端に教室内がシンとする。学校中で話題になっている事だ、全員興味があるのだろう。


「えー、我々大人の注意不足で街に魔物の侵入を許してしまった。それについては謝って済む問題では無いが、本当に済まない。これからはもっと気を付けるが、かといってもう二度と魔物が来ないようにするとも保証出来ない。なので今週は魔生物学を重心的に教える」


この学校では魔法学、魔生物学、経済学、戦闘学、自然学、歴史学の六つが教えられる。フレートは魔獣であるアルムに色々教えて貰ったので魔生物学は得意だが、それ以外の科目は全般苦手だ。他の人格の学力も合わせたら全て満点取れるのだが、他人の力を借りるのはずるいからと言ってフレートは他人格を利用する事は滅多に無い。


「それでは問題にもなったウッドウィザードの事から始めよう。お前らも知ってるとは思うがウッドウィザードは魔物か魔獣かで言うと魔物に振り分けられる」


先生が前置きを話すと一番前の席に座った金髪の男子生徒が震える手を恐る恐る上げる。彼は主席番号一番のアレクサンドルという生徒だ。


「ま、魔物と魔獣の違いはなんでしたっけ…?」


「おいおい、お前よくそれでこの学校受かったな。良いか?魔物は魔王や魔獣が作り出した生物、もしくは無機物の事で、魔獣は魔王の血を浴びて突然変異した生物の事だ。分かったな?」


「はい。ありがとうございました」


アレクサンドルは安心したように手を下ろす。あまり勉強の出来ない子なのだろうか。そしてグル先生はウッドウィザードについての話を続ける。そんな中アルニサはつまらなそうに欠伸をしていた。


(あれもこれも子供の頃に習った事ばかり。庶民の習い事はかなり遅れてるのね)


先生は次々と危険な生物についての説明を語る。今まで全く興味を示さなかったアルニサだが、ある生物の事になった途端彼女は目を見開いて硬直する。


「サンライトブルー、こいつは絶滅危惧種で中々遭遇はしないがとても危険な化け物だ。魔獣に分類される。サンライトブルーは亀の姿をした魔獣で赤、青、黄の甲羅が特徴的だ。そいつは亀だからといって海で暮らす訳でも鈍足な訳でも無い。足が哺乳類のように発達しており馬並の速さで追いかけてくるぞ。大きな口からの噛みつきも十分殺傷能力が高いが、一番の武器は魔法だ。目から光線を発射したり触らずとも物を動かしたりするが何処までの魔法を使えるのかは分かっていない」


「…………サンちゃん」


アルニサは巨大な亀が次々に国の人間を殺害する光景を思い出す。それは彼女にとってとても嫌な記憶であり、思い出したくない記憶でもあった。自分では気が付かなかったようだが彼女の頬を涙が伝う。


「それでは一限目はここら辺で終了とする。次の科目は戦闘学だから着替えて校庭に出とけよ〜」


それを聞いて生徒達は背伸びをしたり鞄の中を確認したりする。そしてアイスはアルニサの元へやってくる。


「結構興味深い授業だったねー!ってアルニサちゃん?」


「…なんでもありませんわ。それより私は他人と一緒の空間で運動着に着替えるのがイヤなので寮へと帰りますわ」


「あはは…」


そりゃあ男なのがバレるからね、とアイスは思う。しかしそれよりも彼女が泣いていた事の方が驚きだった。フレートの時もあまり泣かないが、アルニサの時のフレートが泣いている所を初めて見た。きっとサンライトブルーに関係があるのだと察したが、その理由は謎に包まれたままだった。

登場人物6

アルニサ・ホワイト(16)

この小説の舞台であるバリク国の姫。四人兄弟で二番目に産まれた長女である。少し我儘だが姫なだけあってきちんと教育されており、礼儀や戦闘学、知識の多さは完璧だ。

彼女はとても秀でた魔法使いであるが、歴史上では彼女の魔法については語られていない。

フレートの人格の中ではアルムの次に常識人であるが、彼女はとても疑り深い性格だ。

好きな物はもう無い

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