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多重人格者は魔法学校に通う  作者: フレート
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誰かの趣味

「はぁぁぁぁぁぁ……」


空が綺麗で花や木の葉も爽やかな風に揺れている。そんな美しい屋上の庭園をそこに相応しくない大溜息が制す。こうなった元凶は俺に語り掛ける。


(何も落ち込む事ねぇだろ。別にいつもの事じゃねぇか)


「いつもの事なのが駄目なんだよ……俺の楽しい高校生活が……」


(ふーん。なら多重人格なのをバラしたらどうだ?そうしたら全部俺のせいに出来るじゃねぇか)


「今、学者達は多重人格を否定してるんだ。確か魔力と脳がどうのこうのって」


(ははっ!なら「そんな訳無いじゃん」で終わってより嫌われるな!)


「そうなんだよ………はぁ…」


溜め息をつきながらベンチに座る。そういえば弁当を貰った事を思い出し、弁当箱の蓋を開ける。


「見た目だけは良いんだけどなぁ…」


(なら捨てちまえよ。何でわざわざ無理して食うんだ?)


「折角俺の為に作ってくれたお弁当を捨てる訳にはいかないよ」


(どうせ食うならさっき食べるのを拒否していたのはなんだったんだよ)


「本人の前で苦痛に歪んだ顔をしながら食べたらまずいだろ」


一口、また一口とご飯を口に運ぶ。高校生になった記念で料理も美味くならないかなと期待していたがどうやらそんな事は無かったようだ。涙が目に染みる…


「そういえば他の奴らはどうしたんだ?今日は出てこないじゃないか」


(四人とも今日はそんな気分じゃないってよ)


その四人とは他人格達の事だ。ずっと引っ込んでいるのはこちらとしては嬉しい限りだが、何かあったのだろうか?いつもならここぞとばかりに出しゃばってくる筈なのに。


「そうか。それにしてもお前が伝説の勇者だなんて未だに信じられないな」


(あ?どういう意味だよ)


伝説の勇者。それは十年前に魔王を倒し世界を救った救世主の事だ。何百年とも続いた魔王との戦争を終わらせた偉人にも関わらずその素性は謎に包まれており、さぞかし立派な人なんだろうなと世間では思われているが…


「なんかあんまり勇者っぽく無いんだよ。ただのオラついてるヤンキーみたいだ」


(チッ、うるせぇな。大体誰が勇者は聖人、だなんて決めたんだ?勇者ってのは分かりやすく言うとただの「勇気ある人」だぞ)


「でも悪しき魔王を倒す為に立ち上がったんだろ?もっと良い人だと思ってたよ」


(その悪しき魔王が体内に居るってのによくそんな事言えるな)


「そうなんだよなぁ…」


俺は歴史を動かした超危険人物である魔王の人格も持っている。意外に大人しいからあまり彼による被害は無いが、いつ俺の身体を使って人類を滅ぼそうとするか分かったものじゃない。


「はぁ…何で多重人格なんかになっちゃったんだろ」


(理由なんか無いだろ。たまたまだ)


「たまたまで納得出来るか?六人中五人は既に死去した偉人で、しかも全員死ぬ前の記憶があるんだろ?そん

な奴らが俺の所に密集するのは明らかにおかしいだろ」


(あーもうごちゃごちゃうるせぇな。深く考えなければ良いんだよ)


そう言い終わるとずっと聞こえていた彼の声は聞こえなくなった。何となく感覚で一旦去ったんだなというのが分かる。それにしても俺が多重人格の理由をアイツは知ってて隠そうとしてるのか、それとも本当に知らないのか。


バルヴァル・クリステルド。詳しい事は不明だが大体十八歳ぐらいの男。単身で半年掛けて魔王城へと向かい、魔王を討ち滅ぼした。それも果たして単なる善意か、それとも他の目的があったのかは分からない。ずっと彼の人格を保持してきたが彼の素性は謎のままだ。


「アイツにも少し警戒しておいた方が良いのか…?」


カーン!


屋上で一人黄昏ていると授業終了の合図であるベルが鳴る。結局最初の授業には参加出来なかった。初日でこれとは大分やばいな。


急いで教室に戻ろう。バルヴァルの話によれば今日は誰も出てこない筈だ。何にも邪魔されず、好感度を取り戻して見せる!


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「って何だこの状況は!?」


「よくぞ来た。地下修練所、通称拷問ルームに!」


いつの間にか俺は暗い地下で椅子に縛られていた。目の前の赤髪の女はそんな俺を見てニヤニヤしている。本当にどうしてこうなった…


確か教室の扉を開けようとした瞬間後頭部に衝撃が走って……ってもしかして殴られた!?この学校治安悪すぎないか!?


「何が何だか分からないって顔をしているな。良いだろう!教えてやる!」


「お願いします」


「ここは校則違反をした者が訪れる場所だ。厳しく罰して二度と悪さをしないように調教するのだ!」


やべぇなこの学校。地下にわざわざそんな場所を作り、後頭部を殴って無理矢理拉致し、監禁する。とても正気の沙汰とは思えない。


「それじゃあ早速罰を受けてもらう!」


罰……一体何だろう?ムチで叩かれたり、大人数にボコられたりするのだろうか。拷問ルームを作るようなイカレ野郎の考える罰だ、それぐらいでは済まされないかもしれない。


「一分後にここは毒ガスで充満する!五分間耐えきる事が出来たなら合格だ!」


「………耐えきれなかったら?」


「命を失う!」


は?命を失う?


イカレ野郎は俺の想像を簡単に超えてきた。まさか生死に関わるような罰を科すとは。最早恐ろしさで笑けてくる。


「それでは私はおいとまさせてもらう!さらばだ!」


「おい!?待て!流石に冗談だよな!?」


少しだけ冗談なのを期待したが女はこちらに哀れみの目を向けながら鉄で出来た扉から外に出る。カチャリと鍵が掛かる音が聞こえると同時に、紫色の煙が床から噴射する。


今まで好感度云々の話をしてきたが、まさか死ぬ事になるとは。今まで短い人生だったが楽しかったなぁ……なんて考えている場合じゃない!


「おい!誰か!誰でも良いから返事をしてくれ!」


(……んー?)


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「ご苦労だった、ムクライ」


男は椅子に座りながら部屋に入ってきた女子生徒に目を向ける。女子生徒は男に礼をしたまま跪く。


「風紀委員として当然の事をしたまでです。……それはそうとわざわざ監視カメラまで設置して、そんなに拷問ルームを見るのが好きなんですか?」


「はっはっは!尊い命が消えていくのを見るのは面白いものだよ」


「…そうですか」


あからさまに女子生徒は引いていた。先程フレートを見た時哀れみの目を向けたのはこの男の命令が気に入らないからではあるが、彼は名のある貴族なので逆らう事は出来ない。


「それにしてもまさか初日の一限目から校則を破る奴が居るとはな。正直驚いたぞ」


「彼も自業自得とは言え災難でしたね。まだあの状況を切り抜ける魔法を教わっていないのに」


「そうだな…………む!?カメラが!?」


「三台とも同時に破壊されている!?直ぐに予備のカメラを起動します!」


「これは………馬鹿な、扉が壊されている!」


「しかも彼の姿もありません!逃げられました!」


「むむむ……中々面白い奴じゃないか」

登場人物2

バルヴァル・クリステルド(18)

十年前に魔王を倒した伝説の勇者。彼の生い立ちは謎に包まれている。魔王討伐の旅の途中、一人の仲間と出会い共に魔王城へと向かった。

彼はとても怒りっぽく、全てを力でねじ伏せようとする性格。近接戦闘はとても得意だが遠距離戦は苦手だ。

好きな物は戦闘

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