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多重人格者は魔法学校に通う  作者: フレート
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ザラの暇つぶし

「…………ん」


ザラは強風で目を覚ます。ここはタジャとの戦いに敗れたフェイ草原だ。時間が経ったせいか大壺草の粘液が掛かった右腕は治っている。周りを見てみると相変わらず大人達は皆んな気絶しているが、同じく気絶していた筈の魔物達は影も形も無かった。街の様子もいつも通り、つまり魔物達は起き上がり街を襲わず帰ったという事だ。しかしザラの興味を引いたのはそこでは無かった。


「あのローブの男は何者何だろうな。あの身のこなしは間違い無く只者では無い」


彼は気絶する寸前の事を思い出す。剣が当たらず気絶させられた時、相手はローブを他の人に着せていた為彼の格好は一瞬見る事が出来た。顔は良く見えなかったが男子生徒の制服を着ていた。


(それも騙す為のフェイクかもしれないけど、流石に倒れてた人とすり変わるだけじゃなくセブンブルク学園の制服に着替えるのは難しい。それにサイズもピッタリだったから多分うちの学校の生徒で間違い無いだろう)


しかし誰が何の目的でそんな事をするのかは分からない。しかし彼は少し怪しい人物に見当が付いていた。


そう、フレートだ。ウッドウィザードを一撃で粉砕した技、部屋に隠してあった謎の破られた写真、彼の性格とは反する初日の教室を怒鳴りながら出ていった行動、自分は学校には来ずに妹に来させたが後々ちゃんと授業に出ていた事、マラクとの謎の関係。彼には分からない事が多すぎた。確定では無いにせよ彼目線怪しいのは当然だった。


(フレート君は会ったばかりでも友人だし、正体を暴いてギルドに引き渡そうとかは思わないにせよ気になるな)


ザラは気絶している大人達を放って学校へと帰る。大人達の介護もするかどうか悩んだがそれ以前にやるべき事があったからだ。


(恐らく僕が気絶していたのは一時間程。その間に見かけなかった生徒や大部分を一人で過ごしていた生徒が居たらその人達はかなり怪しい)


彼は好奇心から聞き込みをして犯人を絞るつもりでいた。そして校内で暫くその一時間内の事を調べていたらある事が分かった。


やはりフレートは三十分程姿を表さなかったようだ。他にも十八名誰にも見られてない生徒は居たが、フレートという最も怪しい人物が居なかった時点でザラはフレートが犯人なのをほぼほぼ確信していた。


「でも流石に『やぁ、フレート君。さっきはどうして大人達と戦ったの?』とは聞けないなぁ」


お気に入りの場所である庭園のベンチに座り唸りながら腕を組む。彼はもう一度フレートの部屋に侵入するべきかどうかを検討していた。前回は探索が不十分だった為写真しか見れなかったが、授業も終わった今なら好きなだけ彼の情報を探す事が出来る。


「よし、犯罪だけど好奇心には勝てない。不法侵入するぞー!」


最低な事を意気込みながら彼はベンチから立ち上がる。そして手を地面に翳して魔法を唱えると青い魔法陣が浮かび上がり、そこから羽が色とりどりの宝石で出来た蝶々型の魔獣が出て来る。


「ごめんね黒ちゃん、転移魔法で呼び出しちゃって。君の力を借りたいんだ」


蝶々型の魔獣は羽を三回パタパタと振る。これは了承の合図だという事をザラは知っていた。彼は魔獣に手を翳すと別の魔法を唱える。するとザラの左目は金色の光を発し始め、魔獣の左目は紫色に輝き始める。ザラが使った魔法は視界共有の魔法だった。


「それじゃあ頼むよ。男子寮の一番右端の部屋の中を外から覗いてくれ。侵入する前に誰か居ないか確認したいんだ」


魔獣は羽を止まって見えるような速さで羽ばたかせ宙に浮かび上がる。そして男子寮へと向かう途中に魔獣の輪郭しか見えなくなった。あの魔獣はカメレオンのように保護色で天敵にバレないように移動する性質があるのだ。


お陰で誰にもバレずに男子寮に到着した魔獣はザラに言われた通り一番端の部屋を覗く。部屋の中にはフレートが居り、内容は分からないが独り言を言っているようだ。ベッドが五つもあるのにわざわざ床のカーペットの上に寝転んでいるのははっきり言って普通ではなかった。


「まぁたまたま床に寝転びたい気分だったんだろうね。僕だってテーブルの下とかに入り込むのが好きだったりするし、その類の事かな」


その感性はあまり普通ではないがザラは納得する。そして観察しているとフレートは立ち上がり、シャワールームに入る。用を足したいのか、それとも水浴びをしたいのかは分からないが少なくとも時間は稼げる。


ザラは転移魔法でフレートの部屋に侵入する。前回は一番豪華な所を調べたので次は別の所をと思い彼は適当に最も邪悪で怖い雰囲気の所を調べる事にした。全ての角に化け物の像が付いたベッドと、引き出し付きの作業机がある。とりあえずザラは机の方を調べてみる事にした。


机の上には大きな黒い羽が付いたペンと描きかけの絵本が置いてある。本に書いてある文字は全く読めず、ページの殆どには人間と魔物の絵が書いてある。フレートは一体何を思ってこの言語で書いたのだろう、とザラは不審に思う。


机に付いた三個の引き出しの一番上を開いてみるとそこにはボロボロになった見た事も無い魔物の人形がぽつんと寝かせてあった。


その人形は人型の鴉のような見た目をしており、何だかやけに豪華な服を着ている。黒いタキシードに金の装飾品が肩に一つづつと胸のポケットから身体に巻き付くように三本のチェーンが腰まで伸びている。左から金、銀、緑だ。服の至る所に赤い文字で先程の本と同じ言語で何かが書かれている。その人形の目を象ったボタンは両方取れてしまっている。


(手作りみたいだね。しかしこんな魔物は見た事が無いし、何故わざわざ魔物の人形を作るんだろう)


ザラは魔物や魔獣を好いており、彼らの人形を作る事に対しては何も思わない。だが世間的には魔物と魔獣は悪であり、中々魔物好きな人は居ない。もし居たとしてもそんなぽんぽん至る所に居る訳では無く、先程の戦いで魔物側の肩を持った人物とフレートは同一人物の可能性が高い。


「そこに誰か居るのか?」


「!?」


シャワールームの扉が開く。ザラは急いで引き出しを閉めて窓から飛び出す。二階から飛び降りるのは少し危なかったが蝶々の魔獣が空中で受け止めてくれたので怪我をせずに済んだ。そしてそのままバレないように蝶に乗って学校の敷地内から飛び立つ。


(危なかった…………あっ!窓が空きっぱなしだ!)


焦っていたとは言えこれは恥じるべき失態だ。先程まで閉まっていた筈の窓が開いていたら当然彼は誰かに侵入された事を理解するだろう。そしたら彼は次回から侵入者を警戒し始める可能性が高い。


しかし今戻ったとしてもどうする事も出来ない。ザラは諦めて今日はもう家に帰ることにした。彼は寮には泊まらず毎日家に帰っているのだ。


帰る道中フェイ草原に寄って気絶していた人達が全員無事に帰った事を確認すると、街から少し離れた場所にある小さな山に向かう。その山の名前はジャナ山。探検家や冒険者にとって特に危険な場所だと認知されている為誰も近付かない静かな山だ。


ザラは山の七合目辺りで蝶の魔獣に降りるよう指示をする。魔獣はゆっくりと下降し、地面に触れると羽は動きを止める。ザラは魔獣にお礼を言い、背中から降りる。


「ただいま」


沢山の木々や野花に囲まれた木造のボロ屋に彼は入る。その家の中にはテーブルと椅子とベッドしかなく、床にある隠し扉の先を彼は収納として使っているので実質一部屋しかない。


(魔物と人間、か)


目の前で黒い影が動く。自然と身体が動きそれに触れようとするが、空を撫でるだけだった。その時ザラはやっとその影が幻覚だった事に気が付く。


彼はベッドにダイブし、羊毛で出来た布団に包まる。少し気分が悪くなった為彼は、もう寝ることにした。

ザラ・アルティヌ2

彼は七歳の時からジャナ山に住み始めた。彼が今寝泊まりしている小屋も引っ越した勅語に作り始め、四ヶ月かけて完成させたものだ。

ジャナ山には元々住んでいた魔獣や、ザラが手懐けてきた魔獣が皆んなで仲良く暮らしている。数は二百匹以上だ。実はジャナ山が危険な場所として知られるようになったのは彼が外から魔獣を連れ込むからである。

ザラは魔獣作る蜂蜜や羊毛等魔獣本人達が許す限りの物を取り、それを売って暮らしている。

ザラの座右の銘は『のんびり魔獣と暮らしてゆく』だ。

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