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多重人格者は魔法学校に通う  作者: フレート
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魔物の親玉

(おい!フレート!さっさとこいつを止めやがれ!!!)


(そうですわ!このままだと莫大な被害が!)


(急かすなよ!これでも一生懸命やってるんだ!)


何とか魔王から肉体を取り戻そうとするが中々上手くいかない。彼の意思が強いが為に抗う力を持っているのだ。このままだと魔物側に加勢されてしまう。そして何も出来ないまま魔王は大人達が戦う街の前にあるフェイ草原という広い平原に辿り着いてしまった。


「怯むなー!!!」


「今はこちらが優勢だ!!!」


「指一本たりとも街には手を出させないぞ!!!」


魔物の軍勢との戦いは思っていたより酷かった。人間達は皆血塗れになりながら戦い、数え切れない程の魔物の死骸が至る所に落ちている。命を懸けて戦う人達はやはり物凄い気迫だ。


「………」


魔王が指をパチンと鳴らすといつの間にか俺の身体は黒いローブを着ていた。そのローブは胸の辺りに何かの紋章が描かれており、裾やフードには赤い文字で何かが書かれている。恐らく誰かバレてしまえば後々面倒な事になると考えて装備したのだろう。


「ん!?そこに居るのは誰だ!?」


一人の太った男がこちらに気付く。彼は避難させようとでも思ったのか走って近付いてくる。しかしいつの間にか追い抜いてしまっていた。いや、目にも止まらぬ速さで回り込まれていたのだ。男はその事に気が付いた瞬間、首元を手刀で叩かれ気絶してしまう。


その光景を見た他の大人達はこちらが敵なのを察する。そして半分は魔物、もう半分はこっちと分かれて攻撃を仕掛ける。


「……無駄だ」


捕まえて目的を聞き出す為だろうか、大人達は刀の峰や槍の柄の方で殴りかかってくる。しかしその攻撃はどれも外れてしまった。慌てて周りをキョロキョロ見渡すと、宙に魔王が浮いている事に気が付く。


「極風」


彼がボソッと静かに言うと地上にはこの世のものとは思えない程の狂風が巻き起こる。重い装備を着た大の大人達が風によって一斉に吹っ飛ばされる。幸いにも死者や致命傷を負った人は居ないようだったが、魔法を食らった人々は全員気絶してしまったようだ。


彼は魔物と戦う人々の方を見定めると、またもや静かに魔法を唱える。


「念力」


戦う人々の周りを赤い雲が覆う。その雲の中に居る生物は人魔物問わず皆戦いを辞めて頭を押さえている。その人達の顔は苦痛に歪み、涙がボロボロ零れる。


「あ、頭が……頭がぁ!!!」


「嫌だぁっ!壊れる壊れる壊れる壊れる壊れる壊れる壊れるぅっ!!!」


一人、また一人と次々に倒れ込む。そして最後の一人が倒れた時、雲が晴れる。その場には戦えるような奴は居なかった。こちらも死人は居ないが、大の大人が発狂するような苦痛を忘れる事は出来ないだろう。


(バルヴァル、お前こんな化け物倒したのかよ!?)


(そんな事より早く身体取り戻せ!今奴を止められるのはお前だけだ!)


(そうだった!)


急いで意識を俺の物にするのを続行する。駄目だ、魔王が何を企んでいるのかは分からないがこのままでは彼の思惑通りになってしまう。


彼がそのままの姿勢で着地すると、後ろから視線を感じた。魔王は後ろを振り向くとそこには灰髪の青年が落ち着き払った様子で立っていた。


「やぁ、僕はザラ・アルティヌ。君は誰かな?」


「………」


魔王は黙りながら彼をじーっと観察する。彼が今何を考えているのかは俺にも分からない。ザラも一体何故こんな所に来たのだろうか。その理由も分からないが早く逃げた方が良い。相手は最凶の魔王だ。


「背丈からして大人じゃ無いよね。僕はとても君について興味があるなぁ。一人で戦いを終わらせられる程の力を持つ君がね」


ザラが文を言い終わると同時に魔王は彼の背後にまわる。そして先程と同様に手刀を食らわせようとするが上手くいかなかった。何故ならザラの首元がやけにぶにぶにしていて弾き返されたのだ。明らかに普通では無い。


「大壺草って知ってるかな?彼は食獣植物なんだけど、名前通り大きな壺みたいな形をしてるんだ。うっかり彼の口の中に入ると彼の粘膜によって肉体は瞬時に柔らかくされて彼に捕食されてしまう。硬い骨や肉も食べて栄養にする為に柔らかくするという賢い草だね」


ザラはポケットから空の空き瓶を見せ付ける。彼は予め首元に持参してきた大壺草の粘膜をかけたのだろう。先程の男と同じように首元を狙われる事を察して。


「さぁ、君は僕の粘膜だらけの肩を素手で触っちゃったね。これで君も晴れてブヨブヨの仲間入りだ!」


魔王は慌てて自分の手を見る。確かに粘膜がくっついており、手が段々と柔らかくなるのを感じる。神経や骨等も柔らかくなって機能しなくなったせいで動かす事が出来ない。


「僕は大壺草用の薬を持ってるから助かるけど、君はどうだろうね?大丈夫、全身柔らかくなったら死なないように捕らえてから治してあげる」


ザラはポケットから別の瓶を取り出して蓋を開ける。そして上を向いて飲もうとするが一瞬にして瓶を魔王に取られてしまった。魔王は距離を取った為取り返す事は容易ではない。


「どうしたの?飲まないの?」


「…これは毒薬だ。私がまんまと騙されて飲むとでも思ったか?」


「そう簡単にはいかないか」


ザラは敵ながら天晴とでも言いそうな程関心した顔をする。そして溜息をつくと魔王を睨む。


「本当は薬なんて持ってないし、それも毒薬だった。だから正面から戦うしか無いけど如何せん肩がブヨブヨしてて動きづらいんだ」


「命乞いでもするつもりか?」


「そうじゃなくってね、ハンデとして両手は使わないで欲しいんだ」


ザラはニヤリと笑う。すると魔王は手に持った瓶を地面に落としてしまった。なんと瓶を持った方の手も柔らかくなったのだ。ザラも先程瓶を持っていた手が柔らかくなっている事から瓶に粘膜が塗られていたのが伺える。


「僕は右肩と右手が動かせない。君は両手を動かせない。圧倒的に僕が有利だね?」


魔王とザラの睨み合いは暫く続く。そして沈黙を破り魔王が口を開く。


「…私はお前の事をとても面白く感じているぞ。ザラ・アルティヌ」


「僕は結構貴方の事を恐れてるけどね」


ザラは片手が使えないのに対して向こうは両手が使えない。ザラの方が有利な筈なのだが彼は相手には何か隠し玉があると思い警戒していた。


「私が毒薬と分かってて何故貴様から取り上げたと思う?」


「…手に取ってから気が付いたんじゃないの?」


「違うな。貴様が毒薬を飲まないようにだ」


魔王は訳の分からない事を言い出した。相手が毒を飲む程こちらにとって有利な事は無い筈だがどういう意味だろうか。


「この薬は死に直結するような強い毒や重い病気以外は治すと言われているスマスリクの葉をその葉では治せない毒と混ぜた物だ。逆に言えば消毒さえ出来ればこれは最高の薬だ」


「消毒なんてどうやってすると思う?」


「貴様、既に口の中に解毒剤も仕込んでいるな?貴様の口からほのかに魔力の動きを感じるぞ。恐らく魔法で解毒剤を固定しているのだろう」


「……凄いね。何から何まで大当たりだ」


ザラはお手上げと言ったようなジェスチャーをとる。確かに自分だけが使える薬を持ち込まないと自分に粘膜をかける等といった自己犠牲の作戦は出来ないだろう。


「けど問題はそこじゃないな。問題は君がどうやって僕に勝つかだ」


「そして毒瓶を取り上げた二つ目の理由だ。貴様は私に興味を持っているんだな?」


「そうだけど?」


「なら答えは簡単だ」


魔王は足で地面に落ちた瓶を宙に蹴りあげる。そして念力で蓋を開けると口を大きく開けて落ちてくる液体を飲み込む。


「!?」


「ぐ……」


魔王は毒によって地面に倒れる。ザラは倒れた相手に向かうべきかどうか悩んでいた。彼の目的はローブの男、つまり魔王を生け捕りにする事、つまり毒を飲んでしまった時の処置として解毒剤をもう一つ持っている筈だ。しかしその事を知った上で相手は毒を飲んだのだ。何も策が無い筈が無い。


「随分緊張させてくれるね。このまま放っておいて殺す事も出来るんだよ?」


ザラは倒れた魔王をじっと見る。そして諦めたように溜息をつくと薬を持って彼に近付く。


「大人しく罠に引っかかるよ。君の手の内が全く読めないし」


一歩、また一歩と警戒しながらザラは歩く。この動き全てが計算され尽くしていると考えると彼は気が気ではなかった。そしてじっくりと魔王を見ていると、ある事に気が付く。


「今ここに倒れているのはずっと戦ってきたローブの男じゃない。別の誰かがローブを着せられて居るんだ!」


一瞬にして背後をとるような素早さ、気付かぬ内にすり替える事も可能だ。彼はその事に気が付くと薬を放り出して腰に掛けた剣を抜く。そしてそのまま背後を切る。


しかし剣は空を切った。あともう少しザラが踏み込んでいれば剣先は魔王に当たっていたと言うのに。そして魔王はザラの顔を蹴りあげる。その威力に耐えきれず彼は気絶してしまった。


「楽しかったぞ。ザラ・アルティヌ」


魔王は薬を飲むと指紋のついた空き瓶やローブを回収し、学校へと戻るのだった。

サライ街

セブンブルク学園がある街の名前。学園は街の六分の一を占めるほど巨大だが、決して街が小さい訳では無い。

街は外壁によって囲まれているが、強度もあまり無く高さもそこそこなので安全かと言われるとそうでもない。

町長は存在するが、町長が誰なのか知っている者はいない。

超長鳥は早朝に蝶々町長と順調に長考した直後に焼酎をちょいと頂戴した、という意味不明な早口言葉を思いついたよ

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