魔王始動
魔法学の授業は終わり、昼食の時間になる。生徒一同一階にあるカフェテリアへと向かい出す。ここで行かなかった場合アイスの料理を強制的に食べさせられるので当然俺も向かう。
(この学校の料理って美味しいのかな!?楽しみです!)
食べる担当はアルムだ。彼は食の為に生きていると言っても過言では無い程食べ物が好きなのでいつも食事の際はアルムに身体を引き渡す。普段から大人しくしているアルムにだけ許された特権だ。他人格達は不公平だとか何とかほざいているがあいつらの自業自得だ。
「うわぁ!どれも美味しそうですね…!」
カフェテリアに入ると目にも止まらぬ速さでアルムは皿を手に取り、食べ物が置いてあるテーブルまで移動する。ここの学食はバイキング方式なので自分で選んでご飯を取るのだ。
テーブルには大きくて色の濃い野菜、色とりどりの山菜、採れたての生肉、しっかりと油の乗った焼肉、ブドウに飲み物として牛乳かお茶かを選べる機械があった。どれも本当に美味しそうで、学食を適当に作る学校とは大違いなのが分かる。
ただ生肉だけはどうしても好きになれないな。皆んななんの味付けもされていない肉を食べるとその肉の生前の魔力を感じ取れて新たな魔法を使えるようになるとか言って食べてるがあまり味が好きじゃないんだよなー。まぁ食べるのはアルムだからどうでも良いが。
アルムはテーブルから全ての食材を取り、自分のお皿に山のように注ぐ。そしてカフェテリア内の適当な席へ座り早速ご飯を食べ始める。
「美味いっ!けどミレアさんのお菓子程の感動は無いなぁ。そういえばミレアさんってお菓子以外の料理も得意なのかな!?」
アルムは完全にミレアさんの料理中毒になっていた。体感三十分おきに「ミレアさんの料理〜」と唸っている。もし彼女が学校に戻って来ないとアルムは完全に狂ってしまう。頼むから早く戻って来て!
「キャー!」
「こっち向いてー!」
うん?何だかカフェテリアの入り口付近が騒がしいな。アルムも五月蝿くて食事に集中出来ない為入り口を見る。並んでいる生徒達が退くとそこから一人の背の高い男が現れた。
彼はサラサラの金髪で、燃えるような睨み付けるような鋭い眼光をしている。スタイルも良く顔も整っている絶世の美男子だ。周りの女子生徒達も目をハートにして彼に群がる。どの学校にもやたらとモテる奴居るよね。
アルムは無視して食事を続けようとするが彼がこちらに向かって来るのに気が付く。あんなイケメンに何かした覚えは無いけどなぁ。
「貴方。もしかしてフレートさん、ですか?」
やけにキラキラしたような気取ったような声で彼は話す。アルムは仕方が無しにフォークとナイフをテーブルに置いて彼の目を見る。
「はい。そうですけど、どちら様ですか?」
「失礼。ボクの名前はスレイリー・クロスワット。今日は貴方に言いたい事があって来ました」
クロスワット。どうやらアルムは知らないようだが俺はその名前を知っている。クロスワットはこの世で十本の指にも入る程の貴族で、彼らの先祖、ギルド・クロスワットはギルドという概念を作った歴史に置ける超有名人だ。それから彼の子孫達、つまりクロスワット家は全国のギルドを管理する大物になったのだ。そんな事は関係無しにアルムは面倒くさそうな顔を浮かばせている。
「言いたい事って?」
「単刀直入に言います。貴方の妹さんを僕に下さい!お兄様!」
また面倒な事になったぁぁぁぁあ!!!女装してるのがバレなければ良いと思っていたがまさかこんな罠もあるなんて。
「貴様にお兄様と呼ばれる筋合いは無い!とっとと帰れ!」
アルムは何処からか取り出した立派な口髭を付けてノリノリで答える。何だか楽しんでないか?
「そうは行きません!お義父様!」
「お義父様とも呼ばれる筋合いは無い!」
「ボクは真剣なんです。彼女の容姿、仕草、表情。どれを取ってもこんなに素晴らしい人は居ません!必ずアルニサさんを幸せにします!」
ごめん、それ俺なんだ。というか何でどいつもこいつも俺の身体で恋をしたがるんだ。自分の事じゃ無いのに告白される事程惨めになるものは無いぞ。それに上手くいって付き合う事になったとしても地獄だ。お互いに好きじゃないのに無理して付き合わなければならない。
「まぁそれはアルニサさん次第だからねぇ。儂に言われても困るよ、君」
アルムはすっかりアルニサの親父になりきっている。生前アルニサは姫という立場に居た為アルニサさん呼びが抜けてないのは減点だな。
「そ、それじゃあお義父様は認めてくれると?」
「うむ。アルニサさえ了承すれば後は好きにしろ」
「ありがとうございます!お義父様!」
彼はまだご飯も食べていないのにスキップしながらカフェテリアを後にする。それにしても流石アルムだ。アルニサが万に一つでも付き合うのを了承しないのを見越してああ言ったのか。
そしてアルムは気を取り直して食事を再開しようとするとまたもやこちらへ何者かが歩いてくる。それはアイスだった。
「話は全部聞いていたよ。まさかクロスワット家の人だなんてね」
「そうですねー」
アルムは何となく彼が良い家柄の人なんだなというのを察していた。
「彼はアルニサちゃんが好きなんだってね」
「そうですねー」
アイスは適当に相槌を打ちながらご飯をバクバク食べる。先程スレイリーに食事の邪魔をされたので腹が減って仕方が無いのだろう。
「つまりさ、フレート君を好きな私とは恋のライバルって事だよね?」
…うん?
「確かに彼はカッコ良くてお金持ちだけど私も負けないからね!絶対にフレート君を見返してあげる!」
いやいやいやいや!男と女が恋のライバルって聞いた事が無いぞ!?それに決して同性愛を否定している訳では無いが、俺は男性と付き合うのはお断りだ。
「私明日彼にデュエルを申し込んでみるよ。一体一で殺し合うやつ」
「勝手にしてください」
「よぉーーし!!!早速特訓だぁ!!!」
アルムが適当に返事をすると彼女はダッシュでカフェテリアを後にする。全く忙しい奴だ。明日決闘を申し込まれるスレイリーに少し同情する。
「ご馳走様」
アルムは手を合わせ空になった皿に深々とお辞儀をする。そしてお皿を厨房の人に預けると自分のクラスへと歩き出す。ふと窓から外を見てみると学校中の大人達が武装して正門から外へ出ていた。
「今日も魔物が来たんですかね」
(多分な。昨日もそうだったし、最近多いなぁ)
今日も授業はここまでと理解し歩く方向を変える。今日はさっさと寮に帰ろう。何だか眠い。アルムにその事を伝えると快く了承してくれた。
(ってどうしたんだ?寮はそっちじゃないぞ?)
(ち、違うんです。身体が乗っ取られました!)
何だと?一体誰がそんな事を…
(バルヴァル、アルニサ、アブディル。お前らか?)
(ちげぇよ)
(私は何もしていませんわ)
(ちがーう)
残った候補者は二人。だが片方は滅多に出てこないし、もう片方は魔物達の味方。自ずと誰の仕業か分かってしまった。
(魔王、タジャ・ラヴィン…!?)
とうとう最も危険な人格、魔王は動き出してしまった。
登場人物8
スレイリー・クロスワット(16)
サラサラの金髪をした貴族だ。自信家でプライドの高い所があるが典型的な嫌な奴ではない。
その調った容姿と家柄が理由で彼の周りには常に女装が群がっているが、アルニサに一目惚れしてしまう。相手は姫なので女装を見る目はあったのだが、それが届かぬ恋なのはまだ彼は知らない。
好きな物はキラキラと輝く物、もしくは真っ暗な場所