魔法テスト
一応この回は伏線だらけです。少し解釈が無理矢理だったり、没になる可能性もありますが興味があったら覚えておいて下さい
「それじゃあ魔法学の授業を始めるぞー」
その部屋、つまり魔法学室は机と本棚が至る所に置いてありまるで図書館のような雰囲気だった。しかし本棚に置いてある本はどれも魔法関連の物で、机には自由に使っても良いペンと白紙の本が置いてある。魔法とはまだまだ未知数な物で、生徒達が魔法を使う上で何か気付いたらそこに記入するよう言われている。
そしてこの部屋の奥には実技室と書かれた扉がある。そこは家具が何一つ無いただの殺風景な部屋なのだが、壁や床が魔力を打ち消す性質を持ったアルキバル鉱石という物で出来ている為いくら魔法を使っても大丈夫なのだ。
そして俺達は最初の部屋の机に座らされている。
「今日は深層テストをやるぞ。全員ペンは持ったかー?」
グル先生が生徒達に紙を配る。深層テストとは前にも言った魔法を使えるようになる条件の一つ、心を理解する事に関係のあるテストだ。その紙には様々な質問が書いてあり、それをこなす事で自分の心を理解し、新たな魔法が使えるようになる可能性があるという物だ。このテストをする際に大体生徒の三割程が新たな魔法を覚えるので効果がある事は証明されている。
(えーっと最初の問題は…『自分の心境を三角や星等といった形のみで表現しなさい』と)
これは中々難しい問題だ。とりあえず何となくで真ん中に俺……まぁ星形とかで良いか、を描く。そしてまたもや何となくのイメージで他の人格達の形を星の周りに描く。バルヴァルは何だかツンツンしてるから三角、アルムは優しい性格だから丸、アルニサは女性だからハート、アブディルは何となくスペード、そして魔王タジャは当然ドクロだ。後の一人は……輪っかとかにするか。
こういった具合に問題を埋めていくのがテストだ。頭を使わず感覚だけで答えて良いし、魔法も使えるようになるので結構人気はある。さて、次の問題だ。
(『貴方がなれるならどんな職業に就きたいですか。幼少期の夢も書きなさい』か。夢なぁ…)
特に夢は無いが、そういえば幼少期は勇者になりたがっていたなー。冒険ごっことかを知り合いのおじさんとやってた気がする。まぁ今は現実的に考えると…儲かる探検家とかかな?後は料理人なんかにもなりたいけど料理は苦手なんだよな。ミレアさんみたいに美味しい料理で人々を喜ばせたいんだけどね。
さてさて、次の問題だ。結構質問によっては長考する事もあるが今日は中々順調に進んでいるな。
(次は『この世にある色を一つ消すとして、その色の代わりに何色を選びますか?』か。訳の分からない質問だな)
この質問には回答欄が二つあるので消す色も選ばなきゃならないのか。強いて言うなら消すのは金色かな?特に深い理由は無いけど何だか見てて落ち着かないんだよな。バルヴァルのベッドとか金ピカだからよくあんな所で寝れるなと思う。代わりに付け足すとしたら静かな緑とかかなぁ。
さてさてさて、次が最後だ。
(『貴方が最も尊敬する人物と、最も軽蔑する人物を答えなさい』)
難しいなぁ。尊敬する人物も嫌いな人物もあまり居ないんだよなぁ。………尊敬する人物の欄にはアイスって書いておくか。彼女は俺とは違いとても努力家で、誰にでも優しくしっかりとした人間だ。どんな事にも決して負けずに頑張る強い子、それは俺とは正に正反対である種俺の憧れの人物かもしれない。
一番書くのが容易では無いのが軽蔑する人物。俺はどんな極悪人にもそうなった経緯とか理由とかがあると思うし、あまり軽蔑はしたくない質なんだよな。他人格とかは俺の人生を無茶苦茶にしてくるが彼らは自由に生きたいだけ、俺にはあいつら死人の気持ちが分からないから何とも言えない。
よくよく考えてみれば他の人には誰しも良い所悪い所がある。だが俺だけは違うな。何にも一人じゃ出来なくて、いつも他人に甘えてばっかりで、何一つ成し遂げていない。俺の身体は……もしかしたら他人格に譲った方が良いのかも…………いや、少しネガティブになり過ぎだ。
俺は空欄に『いない』と書くとそのテスト用紙をグル先生に手渡す。先生は面白そうに回答を見ると、俺の耳元に囁く。
「深層テストも終わった事だし実技室で魔法が使えるか試したらどうだ?さぞかし新たな発見もあっただろう?」
「…分かりました」
テストをする上で発見した事は何も無かったが物は試しに実技室へ向かう。どうやらテストは俺が一番乗りで終えたようで、中には誰も居ない。
「はあぁぁぁぁぁ…!!!」
殺風景な部屋に俺の声が響く。…駄目だ。やっぱり魔法なんて使えないし、ましてや体内の魔力の動きさえ読み取れない。俺には無理なのか?
(いや、諦めてどうする。アイスやバルヴァルなら決して諦めないだろう。俺は魔法を使えるようになって、幸せな人生を歩むんだ!)
目を瞑り何度も何度も魔法を使おうとする。無駄だとか無理だとか何度も考えてしまうが挫けずに体内にある魔力の動きを見ようと試みる。
(…!?)
何だか一瞬体内で暖かい物が動いているのを感じた。まさかこれが魔力か?もしそうなら魔力を使いこなせるようになるのはそう遠くない!
「ファイア!アイス!プラズマ!」
何とか魔力の動きを追いながら誰でも使えるような簡単な魔法を唱えようとするが上手くいかない。ずっと神経を集中させていたからか、少し疲れてしまった。
俺は部屋の隅に座って次々とこの部屋に入ってくる生徒達を眺める。大半は手から光を放ったりとてつもない風圧の竜巻を出したりして喜んでいる。あのテストで新たに覚えた魔法なのだろう。皆んなが先へ先へと進んでいる間、俺は簡単な魔法すら使えない。他の人の嬉しそうな顔を見る度に劣等感が募って行く。
虚ろな目で皆んなを眺めていると一人の男子生徒と目が合う。彼はいつもの笑顔でこちらへ歩いてくる。あの魔獣を連れてた彼だ。
「やぁ、プルート君。何やら元気が無いようだけど?」
「……そのさ、何だか嫌になったんだよ。皆んなは先へ進んでいるのに俺だけは止まっててさ。醜い嫉妬ってやつだけどね」
「別に止まってても良いんじゃないかな?」
「…え?」
「そりゃあ生まれてからずっと止まってたら問題だけどさ、最低限動いたら後は止まっても良いと思うな。周りの事ばっかり見てるから進まなきゃって思うんだよ」
「でも明らかに俺は今のままじゃ駄目なんだ。もっと人間として強くならないと…」
「たまには一息つきなよ。そんなに進もう進もう考えていたら進めるものも進めなくなっちゃう。少し休憩して自分の幸せを手に入れられる分進む、そして必要に応じてちょっとづつ更に進んで行く。それが理想の人生だと思うけどなぁ」
「俺だけじゃ駄目なんだ。周りに居る人達も幸せにしないと。その為に俺は成長しなきゃ…」
「無理に成長しなくたって君の周りに居るような人達はそのままの君自身を好いているから近くに居るんだよ。ゆっくりじっくり焦らずに成長していけば良いさ」
「随分楽観的だな」
「そういうもんだよ」
彼は相変わらずの笑顔で俺の横に腰を下ろす。彼の考え方に賛同出来る訳では無いが、その思考は嫌いでは無い。それに彼は彼なりに俺を励まそうとしてくれたんだ。クヨクヨしてちゃ駄目だよな。
「そういえばお前…」
「僕はザラだよ」
「…ザラは深層テストで何か掴めたか?たまに何故問うのか理解出来るような質問はあるんだけど、今日は全く理解出来なくて」
「結構テキトウに書いちゃったからなぁ。あまり何も掴めてないよ」
「第一問、心を形で描きなさいって奴はどうしたよ?」
「丸と三角と四角でキリンさん描いちゃったからねぇ、暇だったし」
「……それはお前の心境とは?」
「全く関係無いよ」
まじかコイツ。一応は真面目にやらなきゃならない深層テストを適当に埋めやがった。他の問題はちゃんとやったのか…?
「第二問、どんな職業になりたいかってのは?」
「魔獣」
「第三問、色を消して代わりの色を付けろってやつは?」
「赤の代わりに朱色」
「尊敬する人物は?」
「三足以上ある人」
やべぇなコイツ!?適当を通り越して最早ふざけてるよな!?赤と朱色はほぼ同じだし二問目と四問目は両方魔獣の事言ってるし。よく先生はこれを許可したな。魔獣を従えて俺の事を助けた時は凄くかっこよく見えたけど何だか急に彼が物凄い問題児に見えてきたな。
「あ、そうだ聞いてなかった。最後に軽蔑する人はなんて答えたんだよ?」
「虫だねぇ…」
「虫?でもお前この間蜂の魔獣連れてなかったか?」
「そうだね。なんなら僕の飼ってる魔獣の八割は虫だよ」
「嫌いなら何で飼うんだよ」
「嫌い嫌い言ってたら可哀想でしょ?好きじゃないものほど寄り添わなきゃ」
うーん……いまいちよく分からない人だな。
世界観3
この世界では我らの世界と同じく二十歳で成人する。しかし学校のシステムは少し歪で低校、高校、能力者用義務訓練施設がある。
低校は八歳から十四歳まで通う必要のある小学校のような場所。高校は十五歳から二十歳まで通うその名の通り高校のような場所。能力者用義務訓練施設は高校で分野に関わらず秀でた成績を残した生徒が国の命令によって強制的に通わされる大学のような場所だ。
作者のネーミングセンスやガバガバな設定を憐れむ事を推奨する。