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多重人格者は魔法学校に通う  作者: フレート
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「はぁ…もし俺が女装野郎だと思われたらどうするんだよ」


(私だって外の世界を自由に過ごしたいですわ。それに私とて男と思われるのは不愉快。決してバレないように心掛けておりますわ)


「そういう問題じゃなくてな…」


グチグチと小言を言いながら俺は自分の部屋で男子生徒の制服に着替える。昔もあった事だけどやっぱり気が付かない内に女装させられ好き勝手されると思うと冷や汗が止まらない。もう普通に寝る事が出来ないな。


(………そうだ。貴方に言わなければならない事があるんですの)


「どうしたんだよ?急に深刻そうな声で」


(先程何者かがこの部屋に侵入して来ました。何かを調べてる様子でしたわ。きっと貴方が多重人格者なのを悟ったんですわ)


「まさか…多分バレるような事はしてないし、部屋に来たのも俺の代わりにお前が出席したからじゃ無いか?俺を呼びに来たとか」


(それならわざわざ部屋を物色したりはしませんわ。明らかにこちらを探るつもりでしたわ)


「んー…あまりそうだとは信じたく無いけどな」


(しかもほのかにこの部屋の内部に魔力を感じますわ。恐らく……残留する魔力からして昨日の夜にこの部屋で何らかの魔法を使われましたの)


「なに…?」


魔力というのは生物の体内に存在している目には見えない物質で、魔法を使用する為のエネルギーとして使われる。魔力は消費する物だがご飯を食べたり寝たりすると徐々に回復する。そして殆どの人は分からないが、一部の天才魔術師は魔法を使用した後の魔力の動きを感じ取れるのだ。


(フレートさんも気を付けた方が良いかも知れませんわ。明らかに誰かが貴方を監視していますからね)


「考え過ぎだって。きっとなにかの勘違いだよ」


(貴方の楽観主義にはうんざりですわ。そのせいで私までとばっちりを受けるのはごめんですわ)


怒った様子でアルニサは脳内から去る。一体何をそこまで怯えているのだろうか。昨日少しバルヴァルやアルムの力を使ったからって監視される程の事でも無いのに。


「まぁ良いか。教室へ向かおう」


今までロクに授業を受けれて無かったからな、授業が楽しみだ。次の授業は確か魔法学の筈だな。実は俺は自分一人の力では魔法を一つも使えない、超落ちこぼれだがだからこそ魔法学の授業を最も楽しみにしていた。


魔法というのは大体生まれつき使えたり、簡単な魔法だったら他人に伝授して貰ったり、自分の心や内なる魔力を理解する事で使えるようになる。殆どの人は八歳までには何かしらの魔法を使えるので俺のような奴は実にレアケースだ。他人格のせいで自分の心を理解出来なかったのだと何とか他人格のせいにしようとするが虚しい言いがかりなので止めた。


とりあえず卒業までの目標は二つ。他人格を完全に抑え込むor消滅させる事と、自力で魔法を使えるようになる事だ。その両方の目標は魔法学によって達成出来るかもしれない。まだ授業開始まで時間があるが、楽しみだ。


軽い足取りで寮を出て校舎に向かう。道なりに歩いていると校庭の庭園に置いてあるベンチに座るアイスを見つけた。


「おはよう、アイス」


「…っ!良かったぁ、女装止めたんだね!」


アイスは心底安心したような仕草を見せる。まぁ好きな人が女装して他の人の前に出たら気が気じゃないよな。


…それにしても好きな人か。もし俺が彼女を助けた人格を消す事が出来たら、アイスは悲しむだろうか?彼女が本当に惚れているのは俺では無いのだから当然悲しむだろう。ただ誰が何と言おうともこれは俺の身体だ。人格は俺一人であるべき………筈。


「どうしたのフレート君?そんな悲しそうな顔して………何も女装が悪い事って言ってる訳じゃないよ?他の人の前でするのはちょっと危ないかなって思っただけで…」


俺の表情が固くなってたのか彼女は必死に弁護をする。アイスは自分が女装止めたんだねと喜んだせいで俺が悲しんでると思ったみたいだ。


「ごめん、少し考え事をしてた。お前の言った事で傷付いた訳じゃないよ」


「そ、そうなの?」


まぁ今は人格を消したらどうなるかを考えていても仕方が無い。とりあえず真面目に授業を受ける!それだけだ。


「そういえばフレート君ミレアちゃんの事見た?学校中何処にも居なくて」


「あー、昨日の夜用事があるとか言ってたからもしかしたらその用事が長引いてるのかもな」


「そっか。用事って何だろうね?」


二人で軽く雑談をする。そして暫くすると遠くから見覚えのある五等身がこちらへ向かってくるのが見えた。相変わらずの銀髪無表情であり、今この状況は非常にまずい。


「じ、じゃあなアイス。俺はそろそろ行くよ」


「? どうしたのそんなに慌てて」


「これには訳が…」


「探しましたよご主人様!」


普通に人前で言っちゃったよこの子。いつもの無表情とは正反対の眩しい笑顔が辛い。そしてその言葉を聞いたアイスはマラクとは打って変わって憎悪に満ちた満面の笑みで俺の耳元で囁く。


「フ レ ー ト 君 さ ぁ。こ ん な ち っ ち ゃ な 子 に ご 主 人 様 っ て 呼 ば せ て ど う い う つ も り か な?」


「ち、違っ!その…なんて説明したら良いんだ……?」


「ご主人様。その方は?」


「マラク、ご主人様って呼ぶのは止めろ!」


「プルート、貴方の命令は聞きません。貴方はただ悪魔様を保持しているだけの一般人。あくまでも私は悪魔、ヒド・ヒィーラ様の従者です」


「???」


アイスは訳が分からなそうにボーッとしている。昨日のあのくだりを見てないと何が何だか分からないよな。後でアイスにはちゃんと説明しないと…


「私は悪魔様のお側に居たい。その為に一日中貴方様の事を探していました」


「これから授業が始まるし、また後でな」


「ならば私も付いていきます。従者なので」


「「!?」」


この子の事は両親を失って悪魔に縋らざるを得なくなった可哀想な子だと認識していたが思ったよりヤバい奴だった。三年前、不審者(アイス)にストーキング行為等をされた事があったが堂々と付いてくるのはもっと質が悪い。


「そ、そんな事をしてたら退学や留年する事になるよ?」


「大丈夫です。退学になった場合別人になって入学すれば良いだけですし、留年した場合いつかはご主人様と同じクラスになれます」


この学校には拷問ルームなる物が地下にあるからそれだけでは済まないにせよ、そこまでの覚悟を持って俺に付き纏うのは異常だ。悪魔のフリなんてするべきじゃなかったかなぁ…


「さぁ、一緒に行きましょうか」


「え、えーっと……」


「おーい!マラク!授業が始まるぞー!」


困っていると二メートル越えの身長をした筋肉隆々の男がやってくる。制服を着ているので恐らくマラクと同じクラスの人だろう。


「私はヒド様と…」


「何言ってんだ、行くぞ」


男はマラクを片手で担ぐと校舎へと戻って行く。マラクは出来る限りの抵抗をしているが圧倒的筋肉の前には無力であった。ありがとう、名も知らぬ筋肉さん。


「そ、それじゃあ俺達も行こうか」


「そ、それもそうだね」


俺は道中アイスにちゃんと事情を説明して魔法学室へと向かうのだった。

世界観2

この世界には六つの国がある。人間達が住まうバリク国、同じく人間達の住まうアリーナ国、各種族のはみだし者が住むババリバ国、魔物達が住まうシルバー国、石の民が住まうタタラ国、そして人間の先祖に当たる生物が暮らすアイト国。

この物語の主な舞台はバリク国である。

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