多重人格者は学校に通う
文章力や表現力が不足していますが、よろしくお願いします
「はぁ……遂に来てしまった…」
目の前の巨大な真っ白の建物は魔法学校、セブンブルク学園だ。
周りに居る学生達は皆新しい生活に胸を膨らませていた。皆んなとても輝いた表情をしている。しかしそんな中唯一俺だけは正門の前で溜め息を零す。
別に学校がキライだとか勉強が出来ないだとかでは無い。ただ俺は人から白い目で見られるのがキライなんだ。そして俺はそうなる事を確信していた。
「果たしてここで普通の高校生活を送れるのだろうか……」
いっそ帰って大人しくしていた方が良いんじゃないだろうか。そう思った生粋のヘタレ野郎である俺は学校とは逆方向に歩き出す。すると突然足が動かなくなり、何者かに身体を支配されたかの様な感覚に陥る。
「おい待てよ。まさか逃げ出すつもりじゃあ無いだろうな?」
(うっ、お、お前は…)
そして足は俺の意志とは関係無く学校へと向かう。先程までのオドオドした俺とは違い、胸を張りながら堂々とした歩みで学校へと向かう俺の姿に周りの学生達は違和感を感じている様だ。
実は俺の中には俺の他に六人の人物が居る。何を言ってるか分からないと思うが………要するに多重人格だと言う事だ。
昔から俺は他の人格に身体を乗っ取られ好き放題されている。そのせいで暴力事件を起こしたり変態扱いされたり等が続き、著しいイメージダウンに繋がってしまっていた。俺はごく普通に生活し、ごく普通に人と接して、至って真面目に仕事をする生涯を送りたいのに人格達のせいで自由に生きられなかった。
だから学校に来たらまた軽蔑されて俺の幸せな人生からより一層離れるだろうから来たく無かったのに…
「お、ここが俺のクラスか。まず入ったら大声で自己アピールを…」
(俺の身体で何するつもりだよ!早く返せ!)
「うあっ!?」
何とか再び身体の自由が戻ってきた。今まではずっと身体を乗っ取られたらそいつが飽きるまで好きなように動けなかったが、この一年で何とか身体の所有権を無理やり取り戻す術を手に入れた。
他の人格が強い意志で身体を操作していたりすると中々身体を取り戻すのに苦労するが、時間さえ掛ければ良いので今までの人生と比べるとかなり楽になった。このまま行けばいつかは完全に他の人格を消滅させれる可能性がある。
そうだ、その為の魔法学校だ。もしかしたら魔法で解決出来るかもしれない。
俺は希望を抱きながらクラスルームの扉を開いた。
クラスには既に八割以上の生徒達が到着しており、仲良く話す人も居れば気まずく座っている人も居る。言うまでも無いかも知れないが全員普通の人族だ。
俺は授業が始まるまで自分の席に座ってようと思い空いた席を探すと、不幸にも一人の女子と目が合ってしまった。
「やぁ!おはよう、フレート君!今日も黒髪が素敵だね!」
「お、おはよう。アイス…」
彼女は幼なじみのアイス・フォント。雪のように真っ白で綺麗な長い髪と、可愛らしい顔立ちであり正直言ってかなりの美少女だ。真面目で礼儀正しく、非の打ちようのない完璧な優等生……と言いたい所だが彼女には一つ欠点があった。
「フレート君は両親が居ないから私が代わりにお弁当を作ってきたよ!」
そう言って彼女は机の上に置いてあった小鼓を俺に差し出す。周りの男子生徒はさぞ羨ましそうにこちらを見てくるが、出来る事ならこの役は誰かに変わって欲しい。
「あ、後でゆっくり食べるよ…」
「だーめ♡食べてる時の顔も見たいんだもん♡」
男子生徒達はあまりのイチャイチャっぷりに卒倒したり、呪いの言葉を込めて持参してきた藁人形を杭で打ったりする。だが彼らは知らなかった、彼女の作る料理はあまりにも酷い味だと言う事を…!女子にそんな事言うなんて酷いと思うかもしれないがこれでもかなりオブラートに言った方だ。
俺が先程言った欠点と言うのはこの事では無い。実は彼女は俺に対して異常な好意を抱いているのである。あまりにも俺の事を溺愛しているがあまり彼女の好意を断ろうとすると何をしでかすか分からないぐらい暴走する。
何故彼女が俺の事を好いているかと言うと、これも別人格のせいだ。七歳の時に彼女が虐められているのを俺(意識は俺の物では無かったが)が助けて、その時から異常とも言える程の愛情を俺に注ぎ始めたのだった。
別人格と仲良くなるのは構わないが、出来れば他所でやって欲しかった。
「…ねぇ?食べないのかな?」
先程までと変わらぬ笑顔だが何だか圧を感じる。もう詰んだと思った時、助け舟が現れた。
「おーい、お前ら席に着けー!」
教室の扉を開いて先生が現れる。アイスはやや不満げな顔をして自分の席に戻って行く。良かった、と言いかけたが何とか堪えることは成功したぞ。
先生は教卓に着くと教室内を見渡し、静かに息を吸う。
「えー、これからお前らに魔法学を教えていく事になる。担任のグル・ローラーだ。見ての通り美人でクールなお姉さんだ、これからよろしくな」
先生が挨拶を終えるとクラス内に拍手が起こる。誰が始めたのか分からないが一人が拍手すると全員しなければならない空気感がするから面倒なんだよな…
「まずは初日という事で自己紹介から始めるとするか。入学の時にプロフィールは大体見させて貰ったから冗談でウソをついても構わないぞ〜」
先生が謎に許可したせいで生徒達は少し混乱し始めていた。このウソには果たして意味があるのか、それとも先生なりの冗談なのか訳が分からず皆ざわついている。俺が思うにこの先生はただの変人っぽいので深い意味は無いと思う。
「それじゃあ手前に居るお前から始めろ〜」
「は、はい!アレクサンドル・ラッキーメンです!趣味は盆栽、特技は顔パスです!」
最初に自己紹介をする羽目になった男子生徒はかなり緊張でガチガチになっていた。余程気が小さいのか、目にうっすらと涙を浮かべながら池が出来そうな程冷や汗をかいている。そんな彼を見て何故か拍手をしなければならないような感覚に陥る。
「じゃあ次、アレクサンドルの隣の奴だ」
「はい!」
この調子のがしばらく続くのか。俺は最後列の窓際、恐らく順番的に最後だろう。それまで暇だなぁ。
……いや、この自己紹介はちゃんと聞いておいた方が良い。もし別人格のせいで好感度が下がった時、彼らの好きな物や趣味で何とか名誉挽回する事が出来るかもしれない。全員と友達になってリア充生活を送るつもりは無いが、知っておいて損は無い。
「次」
「はい。私の名前はアイス・フォントです」
お、次はアイスの番か。仲が悪い訳では無いが少し避けがちだったからあまり彼女について知らない。まさか特技は料理とか言い出すんじゃないだろうな…
「特技は剣技で、休日は紅茶を飲みながら本を読んだり、様々な分野の勉強をしています」
何だか自分を良く見せようとしている就活生のように聞こえるがこれは事実だ。彼女はいかにもお嬢様に見える、容姿端麗、博識、スポーツ万能、八方美人と完璧超人なのだ。
「是非皆さんと仲良くしたいです。これからよろしくお願いしますね」
彼女がお辞儀をして着席すると、今までで一番大きな拍手が起こる。アイスは昔から男女問わず好かれるヤツだったからなぁ。
「はーい!好きな人は居ますか!?」
男子生徒の一人が悪ふざけで(本気かもしれないが)アイスに質問する。殆どの男子生徒が彼に満面の笑みで親指を立てる光景は何だか笑えてくる。
「好きな人はフレート君です!」
空気が凍る。そしてそんな空気感の中全員俺の方を睨む。先程のアイスとの会話で俺の名前がフレートなのがバレてるからだ。男子生徒達はこそこそと呪いの藁人形製造工場を作る計画を練っている。
「…ははは。アイスは昔から冗談好きだからなー」
教室が再びざわめく。何とか場を和ます為の嘘だが果たして裏目に出るか、成功するか…?
「冗談じゃ…」
「時間も無いし次行くぞ〜」
アイスの言葉を先生が遮る。さっきといいずっとグッチョブ!先生!
「それじゃあ丁度話題に出てきた事だし順番無視して次はフレートな〜」
何!?順番飛ばすのとかあるのか!?急に振られたせいで中々言葉が出てこない。どうしたものかと悩んで居ると脳に声が響く。
(そんな悩んでるなら俺が代わりに自己紹介してやるよ)
(ちょっ!?馬鹿!止めろ!)
抵抗するが無事身体は別人格に乗っ取られてしまう。あぁ、自己紹介のタイミングでこれは終わった…さらば楽しい学園生活。
俺の肉体は机をバン!と叩きながら立ち上がり、俺の意志とは反して口が勝手に開く。
「俺の名前はバルヴァル・クリステルド!趣味特技共に暴力だ!力自慢のヤツが居たら後で俺の所に来い!」
「くくっ…ハッハッハ!」
しばらく教室が沈黙に包まれたが、生徒達が反応に困ってる中で先生だけが大声で笑い出す。それを見て俺の身体は怪訝な顔をしていた。
「嘘をついても良いとは言ったがまさかあの伝説の勇者の名を名乗るとはな。面白いヤツだ」
「待て、俺は…」
「しかもそんなキャラでいくんだな。少しツボだ……くくくっ!」
生徒達は先生に合わせるかのように一斉に笑い出す。俺の身体は苛立った様子で歯ぎしりをしながら机を強く叩く。そして叫ぶ。
「てめぇら何笑ってやがる!?誰がこの世界を救ってやったと思ってるんだ!!!」
「あ!フレート君!?」
荷物をまとめて教室から立ち去る。俺が立ち去った後、クラス内の全員が気まずそうに俺が出て行った扉を見つめていた。
登場人物1
フレート(15)
特徴のない平凡な少年。自分を含め七つの人格を持つ。
身体能力以外は全体的に他人には劣っており、その事は本人も気付いている。少し忘れっぽく、多重人格者になった経緯を覚えていない。
好きな物は黄色い羽