プロローグ
「キサァマァアアア!!!!」
とある火山地帯である魔族がボロボロで立っていた。その魔族はボロボロになりながらも怒っていた。その怒りの視線の先にいるのはシャツにジーンズの普通の格好をした少年だった。
「あー鬱陶しい。さっさと死ねよ」
その少年の言葉に魔族はさらに怒る。
「クッ!!俺の最強の魔法で消し飛ばしてくれルゥゥウウ!!」
魔族は魔力を高め術式を編んでいく。が......
「おそ」
少年が手を振り上げたと同時に魔族が跡形もなく吹き飛ぶ。
「No.12もこの程度か」
そして少年は欠伸をしながら火山を下っていった。
◇◇◇◇
魔王城のシンボルとも言える玉座がある広いホールみたいな一室。その玉座には少女が座っていた。その少女は退屈そうに誰かを待っているようだった。少女がぼけーっとしていると少女の目の前に黒い魔法陣が現れる。と、待ちくたびれたと言わんばかりに少女が身を乗り出す。そして魔法陣の中から出てきたのは先程の少年だった。
「待ちくたびれたぞ、リウ。遅かったな」
「すまん、見つけるのに手間取った」
少年もといリウはシャツをはたきながら言う。
「裏切り者は駆除しましたよ、魔王様」
「ああ、ご苦労。流石は最強の暗殺部隊の隊長だな。」
リウが長を務める魔王軍最強の暗殺部隊。主に表立って出来ないことをする、魔王直属の部隊である。
「それと魔王様はやめろ。そんな仲じゃないだろ、ロズと呼べ。ロズと」
少女もとい魔王ロズはそう言うが、リウからしたら上司を呼び捨てにしろと言っているようなものだ。
「いや、遠慮しとくわ。それに立場は俺の方が下だしな」
なら敬語はどうなんだ、と言いたいロズだったが細かいことを言い始めると埒が明かないのであえて言わないでおいた。
「何を言っている、お前の方が実力は上だろう」
その言葉にリウは何も返さない。これ以上言っても無駄だろうと思ったロズは本題に入る。
「そんなことより、次に頼みたいことがある」
ロズの言葉にリウはまたか、とこぼす。
「嫌か?」
「いや、そんなことは無いがな」
人遣いが荒いとはさすがに言えないリウは言葉を濁す。そんなリウを見て首を傾げるロズだったがとりあえずその疑問は置いておくことにした。
「次は勇者の監視をして欲しい」
「勇者ってあの勇者か?」
今度はリウが首を傾げる番だった。
「ああ、勇者の居場所を特定した。動向を知っておきたい。定期的に私に直接、報告して欲しい」
リウは頷く。
「場所は人類最高峰の学園。天城ヶ崎学園」
「学園?なんで今更そんなとこに」
「それも含めて調査して欲しいのだ」
学園というのは人間の大陸にしかない。試験自体は誰でも受けれるがとても厳しく、魔力全盛期と呼ばれる10~20代にかけての年齢層が多い。
「そうだ。ちょうど一週間後が勇者が受ける学園の試験日だろう。まあ、お前なら実技も筆記も大丈夫だろうがな」
だいたいの学園が試験は実技と筆記にわかれている。なぜなら筆記は魔法や魔術のことに関するものがほとんどで魔法や魔術に関する知識の理解度が威力や速度に直結するからだ。
「長くなりそうだな。」
「とりあえず、お前の部下にも挨拶しておけよ。」
「ああ、もとよりそのつもりだ」
行ってくる、とだけ言い残しリウは魔法陣に飲み込まれていった。
◇◇◇
リウが魔法陣を出ると暗いオシャレなバーみたいな雰囲気の部屋に着く。そこには三人の魔族がいた。リウを見るとそれぞれ挨拶をしてくる。
「あっ、隊長おつかれっス〜」
「隊長殿!!お帰りなさい!!」
「お疲れ様です。隊長」
とりあえずリウは近況を聞く。
「大丈夫だったか」
するといかにもチャラそうな魔族がソファから顔だけをこちらに向ける。
「いやー、大変だったっスよー。ヘルちゃんが魔術を使っちゃうんだもの」
その言葉に、ヘルと呼ばれた少女は反論する。
「あの場ではあれが最善だったもん!!それにティオンだって危うく正体バレかけてたじゃん」
「それはヘルちゃんが魔術を使おうとするからでしょー」
二人の言い合いはヒートアップしていく。それを見かねたリウは声をかける。少し魔力を込めて。
「落ち着けよ。な?」
リウの言葉に二人は額から汗を流す。はあ、とため息をついたリウにもう一人の魔族が声をかける。
「そういえば隊長。No.12はどうでしたか」
「ああ、あれはダメだ。準備運動にもならない。多分、リラでも瞬殺できるだろうな」
「いや、それは隊長が強すぎるだけですよ......」
リラと呼ばれた少女はリウの言葉に呆れる。
「ってか、隊長、次の任務はなんっスか?もう、アジトへ潜入とか飽きたんっスけど〜」
ティオンがつまらなさそうに聞いてくる。
「ああ、その件だが俺は勇者の監視の任務を魔王様より授かった」
この言葉に三者三様の反応を示すが、皆驚いた様子だった。
「ということで俺はしばらくここを離れる。そこでだ。リラ」
リウに突然呼ばれたリラは戸惑いながらも応じる
「は、はい!!」
リウはリラに近づいていき、ぽん、と肩に左手を置くとサムズアップをし、軽い感じで言う
「お前が今から隊長だ」
「「「え、えぇええーーーー!!」」」
部屋には三人の絶叫が響いていた。
◇◇◇
リウが魔法陣で部屋を出て、残った三人は困惑していた。
「どうすんっスかー?」
「どうもこうも、隊長殿の言うことは絶対だもん!!」
「隊長は昔からあんな感じですしね」
「まったくっス。隊長ったら普段は真面目そうな癖に面倒くさくなると適当にするんッスよね.......」
リウの悪口大会みたいなのが始まりそうな雰囲気だったが、それが始まる前にリラが気合いを入れ始める。
「でも、言われたからには全力でやります!!」
気合十分、と言った感じでリラは早速、仕事をしようとし、転移魔法陣を展開し始めるが、魔法陣への魔力供給の量が合わず失敗により爆発してしまう。
「けふっ.......」
ボロボロとなったリラはもう一度、とまた魔法陣を展開するが.......
「キャッ!!」
またも、同じことを繰り返す。何度か繰り返すが出来ず、結局奥の隠し扉から部屋を出た。
(戦闘になると頼りになるんっスけどね)
(真面目なんだけどね.......)
リラが隊長(仮)に昇格したことになんともいえない不安感を拭いきれない二人であった。
◇◇◇
部屋を出た後、リウは久しぶりに自室を訪れていた。部屋は簡素でベッドに机、それと服をしまうクローゼットがあるだけだった。
「おい、いないのか」
リウが声をかけると
「はいはーい、呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン!!」
とクローゼットの中から勢いよく、人が飛び出してくる。いや、正しくは妖精が飛び出してくる。
「またクローゼットに隠れてたのかリーテシャル」
リーテシャルまたの名を月の妖精。昔、リウがまだ魔王城に務めていなかった頃、成り行きで契約した妖精である。
「私はクローゼットが好きですよー、スリスリー」
とクローゼットに頬擦りしているリーテシャルにとりあえず事情を説明する。
「.......ということだ。しばらくはクローゼットともお別れだな」
「ガーン……」
固まるリーテシャル。
「大丈夫だ、向こうにもクローゼットはある」
「ほんと?」
(こいつはクローゼットの妖精か?)
不安そうな顔をするリーテシャルにリウは軽くデコピンをする。
「あうぅ……」
「ほら、早く行くぞ。クローゼットは後で持って行ってやるから」
「ありがとう!!」
こうしてリウはリーテシャルと共に学園へと向かっていった。