前途多難⑥
「きっっっ、つ…!!」
晴れた日の穏やかな昼下がり。その空気に似つかわしくない形相で必死に走る悠は、ポケットのスマホを取り出して、ここ数日でかけ慣れてしまった番号を呼び出して発信する。ぜえはあと乱れる呼吸はそろそろ限界が近いけれど、電話の相手は着信を察知していたかのようにワンコールで出てくれた。
『霊山くん?もう近くまで帰ってきてる?』
「っは、はい…!」
『わかった。じゃあ表で待ってるから、そのまままっすぐ帰っておいで』
「はい、っす、」
通話を切ってスマホを握り締めた悠は、ラストスパートとばかりに少しスピードをあげる。その背後には無数の黒い靄と、それに絡みついた複数の浮遊霊が苦しそうにくたりと漂っていた。
――た、助け、て…
―――痛い…くるし…
「も、もう少しの、辛抱ですっ…!」
背後から聞こえる悲痛な声に息を振り絞って返事をする。悪意の塊である黒い靄に捕らえられた浮遊霊たちは助けを求め悠に手を伸ばすが、その手に触れることのできない悠はぐっと唇をかみしめる。治は、レンやスズキさんたち幽霊に意図も簡単に触れることができていたのに…。コツがいるんだよと苦笑していた治の顔を思い出し、苦しんでいる彼らの手すら握ってやれない自身を不甲斐無く思った。
「おー、今日も大量だね…」
「待ってました先輩…!!」
店の前に到着した悠を、待ち構えていた治が出迎える。黒い靄と浮遊霊たちの塊に目を止めてふうと息を吐いた治は、向かってくる悠とすれ違いざまに靄に手を伸ばしその中心部を捉えた。
「……はい、もう大丈夫ですよ」
倒れこんで息を整える悠の背後で、黒い靄を消し去った治は霊たちに手を差し伸べる。自身のどこにも異常はなく助かったと安堵する浮遊霊たちは、店から出てきたあの世の従業員に店内へ誘導されていく。彼らは現世を漂っていた迷子の浮遊霊で、これから住民登録などの手続きを済ませ正式にあの世の住人となる。
「霊山くんもお疲れ様」
「いや、俺はただ、走ってただけで…。そこにみんながどんどんくっ付いてきただけっていうか…」
「でも、おかげでここ最近の回収率はぐっと上がったよ」
まぁ、キミは苦労してるみたいだけど…。と苦笑して立ち上がる悠に手を貸す治は、服についた埃なんかを掃って、ぽんと労わるように肩を叩いた。
ここ数日、悠は霊と悪意に遭遇する頻度が格段に増えていた。それはミサを誘拐していた男の元から助け出したあの日からのことで、一人では何も対処できない悠は治に泣き付くばかりだった。
治曰く、もともと幽霊を見る能力を持っていた悠が店に来るまでそれを自覚しなかったのは、その力を誰かに制御されていたからだと言う。それは能力とともに、霊や悪意を引き寄せやすい体質を持った悠を守るためのもので、10年もの歳月をかけてその呪いを施したのは悠の祖母である。
悠の祖母が強い能力を持っていたと治が知ったのは、その呪いが切れた瞬間のことで、迫るスズキさんと黒い靄から悠とミサを守った光は、最後の力を使い果たしたとばかりに儚く消えてしまった。けれど、それは祖母の死後十数年にわたって悠を守っていたもので、消える間際にその気配を察知した治は、苦労しそうな体質の彼がここまで平穏に過ごせていたのは、この人のおかげであったのだと知った。
「呪い…。ばあちゃんにそんなことされた覚えないんですけど…」
「そんな大げさな儀式みたいなことするわけじゃないよ?呪いって言っても、ただ思いを込めてその人に触れるだけで良いんだから」
好意も悪意も、まっすぐ向けた思いは相手に影響を及ぼす。特に能力のある人物のものならば尚更であると語る治の言葉に、悠はいつも頭を優しくなでてくれた祖母の手を思い出した。
「あ、そうだ、最近苦労している霊山くんに朗報です」
「え、なんすか…?」
「キミ専用のお守り、強化バージョンが完成しましたー」
「助かった…!」
はいどうぞと差し出されたお守りは、以前のものとあまり変わらないように見えるけれど、治が強化バージョンと言うからにはそうなのだろう。両手でしっかりと受け取った悠は、安堵の息を吐いた直後、治の言葉で肩を強張らせた。
「ちなみに、効力の持続時間は以前のものより短いです」
「えっ」
「まぁ、今度からは僕が定期的にチェックするから、前みたいに街中で急にお守りが使えなくなることはないだろうけど…。万が一に備えて、霊山くんも訓練はじめようか…」
「訓練…とは、」
「一人で悪意や幽霊に対応できる訓練かな。まずはレンくんたちに触れるところが第一段階だね」
「りょ、了解っす…」
第一段階からなかなかにハードルが高くないだろうか…。けれどこれからこの店で働くためにも、自分の身を守るためにも必要なことだと思いなおし、悠は小さく拳を握って気合を入れた。
「あー!あった!あったよ!」
「やっと着いたー!」
「私もうこの地図アプリ使わない…!」
「先生!店長さん!やっほー!」
「えっ、ミサちゃん!?」
店に入ろうとした治と悠の背後から賑やかに声をかけたのは、ミサとその友人たちだった。あの日、通報した警察に保護されていったミサを見送って以来こうして対面するのは初めてで、驚いた悠は笑顔で手を振り駆け寄ってくるミサに、え!?となんで!?を繰り返すことしかできない。それを見てふっと笑みをこぼした治は、悠を落ち着けるついでに、せっかく来てくれたのだからとミサたちを店に案内した。
「みんな紅茶嫌いじゃない?ちょっと良いやつ貰ったから、どうかな?」
「「「「いただきまーす!」」」」
「あ、て、手伝います…!」
客間に大きめのちゃぶ台と座布団を用意して、ミサたちに各々座ってもらった。あの世の従業員たちは先ほど回収した浮遊霊たちの対応に追われているだろうし、しばらくここで休憩を挟んでも大丈夫だろうと判断した治は、社長が置いて行った高級茶葉の缶をあけた。華やかな香りのするカップをそれぞれの前に並べれば、ぱぁっと笑顔を見せたミサたちは一口それを味わってほっと息をつく。少し落ち着いた悠も同じようにカップに口をつけたが、猫舌にはまだ少し温度が高かったらしい。ちろりと舌を出して熱さをやり過ごす悠に代わって、治がミサに問いかけた。
「ミサちゃんは、もう出歩いて大丈夫なの?体調とか平気?」
「はい。母はまだ一人で出歩いちゃダメって言うんですけど、今日はみんなも一緒だから暗くなる前に帰れば良いって、」
「ミサママってば、もうころっと態度変わっちゃったよねぇ」
「私たちのこと、ミサのボディーガードとでも思ってんのかなー?」
「いや、それはないでしょー」
友人の冗談に笑みを浮かべながら返事をするミサと、けらけらと楽しそうにそれに笑い返す友人たち。
警察からの事情聴取を受けた悠と治は、連絡を受けて駆け付けたミサの両親に何度もお礼を言われた。警察には、配達先で行方不明だった知人の少女を発見したと説明したが、両親は事実を知っておくべきだろうとこっそりと経緯を説明した。自身が疑って食って掛かった少女たちが、愛娘の救出に大いに貢献したことを聞いて驚いていた母は、申し訳ないことをしたと猛省しお礼と謝罪の連絡を寄越したという。
「それでね、先生たちにも、ちゃんとお礼を言っておこうと思って、」
「ミサを助けてくれて、ありがとうございました」
ありがとうございました。とそっと頭をさげる少女たちに、治は、みんなが頑張ったから僕らも同じことをしただけだよ。と返してほほ笑む。顔をあげた少女たちと目が合ってふと、隣が静かだなと目を向けると、涙目で唇をかみしめる悠が居てぎょっとした。
「え、ちょっと、何で泣きそうなの…」
「わ、かんないですけど…!なんか安心したというかほっとしたというか…!」
それ同じ意味だよ…。と言った治が部屋の隅に置いてあったティッシュ箱を差し出してくれるので、悠は今更ながら少々情けない顔を隠す。こぼれそうだった涙がとりあえずティッシュペーパーに吸い込まれてくれたので顔をあげると、なんだかいたずらな笑みを浮かべたミサと目が合った。
「先生、これ言ったらもっと泣いちゃうかな」
「えっ、何?勘弁して…?」
「私ね、お母さんに、教師になりたいってちゃんと言えたよ」
「……待って涙腺がオーバーワーク…!!」
再び顔を隠した悠にそれぞれから笑い声がこぼれる。監禁されている間にいろいろと考えたというミサは、まず母親に自分の意見をはっきりと主張できなかったことを悔いた。言われるがままに家庭教師をつけられ勉強して母の望む大学を目指したけれど、行きたくもない大学を目標にしたってモチベーションなんて保てない。そのうえ友人との時間も削られ始め、親身になってくれていた大好きな先生は急にクビにされた。こんなの何も楽しくない。自分は何をやっているのだろうとひどく落ち込んだ。だから、誘拐され死も覚悟した瞬間に自分の意志はきちんと主張しなければと思ったし、助け出されたおかげでそのチャンスもやってきた。自宅に帰ってきたミサを涙ながらに迎えた母の目をじっと見据えて、ミサは初めて将来の目標を告げたのだった。
「言ってみたらね、お母さんも応援するって言ってくれて、あぁ、なんだ思ったより簡単なことだったのに、って思って。…もっと早く伝えれば良かったなって、」
「そっか…。でも、今なら全然遅くないし、ミサちゃんならきっとなれるよ。俺も応援してるね」
「…ありがと、先生」
満足そうににっこり笑ったミサに目尻を下げた悠は、少し赤くなった鼻をすんとすすった。
この子がまた笑ってくれて良かった。悠の心中を察知したようにその横顔を見て口角をあげた治は、誉めるように丸い頭をわしゃわしゃと撫でた。
「もう良い?これもう私しゃべっても良い?」
「まりっぺ…」
「もうちょっと余韻というか…」
「あはは、まぁ大丈夫だと思うけど…」
悠の涙も鼻水も収まったころ、一人の少女が隣の少女にこそりと耳打ちした。それを聞いたミサたちは乾いた笑いをしながらも返事を返すと、きらりと瞳を輝かせたまりっぺと呼ばれた少女は、言うよ!言っちゃうよ!?と意気込んで治に手を差し出した。
「店長さん!好きです!私と付き合ってください!」
「えーと…ごめんなさい」
「撃沈」
「早っ」
「だと思った」
「ほら、当たって砕けたら満足なんでしょ?」
「泣いてスッキリして次の恋行こうぜ!」
困ったように頬をかきながらあっさりと返された断りの返事に、少女はちゃぶ台の上にうつ伏せた。その背をぽんぽんと叩きながらも言わんこっちゃないと遠い目をする友人たちは、なんだかすみません…と視線で伝えてくる。苦笑を返すばかりの治は、ぐすぐすと鼻をすすり始めた少女にそっと自身のハンカチを差し出した。
「ほら、かわいい顔が台無しだから涙拭いて?あ、でも赤くなっちゃうから強くこすっちゃダメだよ」
「っ、ぐぅ…!」
「「「そうゆうとこだぞイケメン…!」」」
「えっ」
「それ、素でやってんなら恐ろしいっす」
「え…?」
―――――――
「店長暇なら言ってくださいよ遠慮なく此方の仕事持って来ますんで」
「いや、ご、ごめんねレンくん…」
静かになった客間で6つのティーカップを片付ける治は、腕を組んで仁王立ちするレンを見上げて冷や汗をかいた。ミサたちを見送って来た悠も部屋に入るなりレンの威圧感に背筋を正す。
休養も睡眠も欲しない自分たち幽霊と違い、生者である治たちは偶に休息が必要であることはわかっているけれど、膨大な仕事を捌いてさあ次の仕事を片付けると意気込んで店に戻れば賑やかに談笑している姿を見て、イラっとしないと言えば嘘になる。きゃっきゃとはしゃぐミサたちを微笑まし気に見ている治と悠の視界にかっと目を見開いて現れたレンは、し・ご・と・は?と口パクで告げた。その表情に口元をひきつらせた治と悠は、ミサたちにそろそろ仕事に戻らなきゃ…と告げて解散したのだった。
「じゃ、さっさと報告済ませますよ」
「うん。よろしく」
それぞれが席に着いた客間で、何やら資料を取り出したレンにノートパソコンに向き合った治が答える。おどおどしながらも着席して聞く体制になった悠を見て口を開いたレンは、あの世へ送還されたスズキさんに下された処分と、今回の経緯について報告する。
言い渡された処分は、現世への無期限通行禁止と1年間の禁錮刑だったが、反省の姿勢がみられるため執行猶予がつけられたという。
あの日、死後数年経ったため自身の心の整理をしたいと現世へ出かけたスズキケイタは、この町に住んでいた恋人との思い出が残る商店街を訪れた。元気にしているだろうかと通りに佇んで感慨に耽っていれば、ふと恋人と同じミサという名前が聞こえた。思わずそちらへ足を向ければ、ミサと呼ばれる少女と隣に腰かける男がいる。どうやら男はミサが伝えた思いを受け取らない判断をしたようだと認識すれば、何やら腹の底にもやりと違和感が現れた。自分が幸せにしてやれなかった、大事な大事な人。隣にいるのは自分であったはずなのに、二人で幸せになると思っていたのに。隣の男に恨めしい気持ちが湧いてきて、けれどすでに死んでいる自分がこんな感情を持ったって意味がない。気持ちが大きくなる前にここを離れようと踵を返すと、自分以上に恨みがましい目で二人を見つめる男がいた。俺のことをフッておいてあの女…!あんな男のどこが良いんだ、そもそもあの男がいなければミサはもっと簡単に俺のものに…!男の嫉妬心と執着心と歪な好意と悪意がごちゃ混ぜになったような感情がぐわりとなだれ込んできて、スズキは意識が遠のくのを感じた。
そこからは、あの部屋で治に抑えつけられるまではっきりとした記憶がないが、ミサを自身のものにするのだという思いだけはずっと頭の中にこびりついていた。あの世に戻り意識がはっきりしてくると、ミサの腕を掴んだ感触も抵抗されて打たれた痛みもはっきりと自分の体に残っていて、あぁ、自分は恋人でも何でもないあの子を傷つけてしまったのだと、深く自己嫌悪に陥った。
「おそらく、ミサさんに対する感情の波長が一致したのか、そこで魂の一部が結合して悪意が肥大化、暴走したようです。スズキさんも、逮捕された男の方も、自身の起こした行動をはっきりとは思い出せないと言っていましたし、暴走した悪意で自制も効かず、心の奥底の衝動のままに行動してしまったんでしょう」
「そんなことって、起こり得るんですか…?」
「まぁ、魂が結合するまでの一致は相当なレアケースだけど、複数人の悪意が結合して強力になる事例はいくつかあるよ。しかも、波長や感情の種類が一致するほど肥大化率は格段に上がる」
例えば、よくある心霊スポットや曰く付きの建物。本当に幽霊が集まっていることはあまりなく、ほとんどがこの場で何か起こればいい、誰かここで怖い思いをすればいいという悪意や、怯え、恐怖の感情が混ざり合っている場合が多い。そこで肥大した悪意や負の感情が、幽霊たちや、一部の感受性の高い生きている人間に害をなすこともあるという。
「心霊スポットで体調を崩す人のほとんどは、無意識に悪意を感知して触れてしまう感受性の高い人だよ。テレビとかそうゆう特集偶に見るけど、酷い人は悪意に全身包まれてるときあるもん」
全身をあの黒い靄に包まれる様を想像した悠は、思わずふるりと身震いする。俺、絶対心霊スポット行かない。そんな心中を察したのか、治は心霊スポットだけ避けてても意味ないよと告げる。
「そうゆうところに集まりやすいってだけで、人のいるところには少なからず悪意も負の感情も存在するんだよ。しかも、霊山くんはそうゆうの引き寄せやすい体質だから、無人島にでも行かない限りすべてを避けることは無理なんじゃないかなぁ」
ショックを受けて固まる悠に、レンがドンマイとおざなりに声をかける。その様子を見て苦笑した治は、でもね、怖がってばかりはいられないよ。と呼びかけ悠の顔をあげさせる。
「その悪意たちから幽霊を守るのも、僕らの仕事なんだよ」
浮遊霊回収の仕事は、無防備な状態で悪意に触れる幽霊を少しでも減らすため。一度店の保護下に入ってもらえば、悪意から守る方法はいくらでもある。もちろん、悪意が生きている人間に害を及ぼそうものなら、それも捨て置くことはできない。
「霊山くんはまだ守られるべき立場だけど、これから対応できるようになってくれたらうれしいな、なんて」
もちろん、一人前になれるまでは、僕がちゃんと守るよ。そう言い切った治の目を見て、悠は頑張ります…!と少し震えた拳を握り締めた。
「店長が生きてるうちに一人前になれたらいいね」
「ちょ、レンくん!?さすがに俺だってそこまでポンコツじゃない!…はず!」
「自分でも自信ないんじゃん」
「で、でもまだまだこれから訓練するし…。レンくんも手伝ってくれるでしょ?」
「えーどうしよっかなー」
お願いするならそれなりの態度ってものが…と悠を見下ろすようにしてにまりと口角をあげるレンに、悠は態度!?え!?土下座でもすればいい!?と慌てる。レンは本気で何かを要求するつもりはないが、慌てふためく悠を見て笑いをこらえるように顔を背ける。どうやら揶揄い甲斐のある悠はすっかりレンのターゲットとなったらしい。
「俺めっちゃ頑張るから!いつか霊剣さんみたいにあの靄をぶわって消せるようになるから!」
「無理だね」
「酷い!」
「いや、それは本当に無理だよ…」
レンに即座に否定された目標を、まさか治にも重ねて否定されると思わなかった。何故!?と振り返って見た治は困ったように頬をかいていて、自分はそんなにも期待されていないのかと沈んだ悠は、治にちょっと待ってそんなに落ち込まないでなんか誤解してる!と言われても顔をあげる元気が出てこない。
「違うんだよ、霊山くんじゃ無理って意味じゃなくて、あれを消せるのは僕だけって意味で、」
「………へ?」
半ばいじけ始めていた悠は、治の言葉にすっと顔をあげた。いつも、その手で触れるだけであの靄を消し去っていた治。それは、誰にでもできることではないのか…?
「あの靄だって元は人の感情だよ。それがそう簡単に消えるわけないでしょ」
「あ、ハイ…」
「本来あの靄を消そうと思ったら、元になった感情を発した人がその思いを忘れるか、ほかの感情で上書きするくらいしか消す方法はないんだよ。だから、霊山くんが身に着けるべきは悪意を退ける方法、かな」
僕の作ったお守りと効果としては一緒だよ。と続ける治に、それならばまだ無理な目標ではない…?いやそもそもまだ幽霊に触れないんだし壁が高いことに変わりはない…。とぐるぐる考える悠は、ふと浮かんだ疑問を口にした。
「感情が簡単に消せないなら、霊剣さんはどうやってあの靄を消してるんすか?」
「うーん…わかりやすく言うと…」
「言うと…?」
「……喰ってる…?」
「は!!?」
なん、え!?どうゆう意味!?混乱する悠に説明する間もなく、壁掛けの時計が一時間に一度の音を奏でた。終業時刻を知らせるその音を聞いて、レンはお疲れ様でしたーとするりとあの世に帰っていく。それを見送ってパソコンを閉じた治も、店の玄関を閉めるべく席を立つ。
「まぁ、訓練が進んだらちゃんと説明するからさ、今は何となくそう認識してくれてたら良いかな」
そう言って部屋を出た治を見送った悠は、暫し放心した後にキッチンへ駆けて行った。
今日、俺夕飯当番だった…!
前途多難 了
嵜本悠入社編終了致しました。
第二部や小話もぽつぽつ追加予定です。のんびりお待ちください。