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交流屋  作者: キミヤ
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事実は小説より不可思議



―――むかしむかしある山に、仲の良いカラスの一族が住んでいました。


彼らは村の外れの小さな山で、平和に穏やかに暮らしていましたが、ある日事件が起こります。


今までカラスたちが見たことのない、羽も目もくちばしも足も真っ白なカラスが生まれたのです。



なんだこいつは

なぜくろをもっていないのだ

こんないろははじめてだ


こいつは、われわれのなかまではない



一族の長にそう言われたカラスは、幼いころから仲間外れにされていました。

同じ木に住むカラスからも、同じ日に生まれた子カラスからも、自身のきょうだいからも、母からも迫害されたカラスは、自分の白色が大嫌いでした。叶うならば、みんなと同じになりたいと望んでいました。



幼いカラスは、みんなと同じになりたくてたくさん努力をしました。身体に墨を塗ったり、全身に土を浴びたり、目についた黒いものを食べてみたり……でも、どれも効果はありませんでした。

やがてカラスはひとりぼっちのまま、幼いあまりに上手に生きていけなくて、ひとりぼっちで朽ち果てました。


けれどその(たましい)は、まだみんなと同じになりたい、ひとりぼっちで居たくないと願いながら、この世を彷徨っていました。






そんなあるとき、ふいに見つけた黒い黒いもやがありました。

これを食べればみんなと同じ色になれるかもしれない、と飛び付いて平らげてみると、食べた瞬間だけは自分の身体が黒くなったように見えます。


もしかすると、食べ続けていれば黒色になれるかもしれない


それからカラスはずーっとそれを食べ続けて、でも、身体が黒く染まることはなくて、探して見つけて食べて、探して見つけて食べて、でも、やっぱり黒にはなれなくて、もう疲れ果ててしまった頃に、一人の子供に出会いました。




晴れた日の窓辺で、母の腕に抱かれて幸せそうに笑っている子供。

まるい頬をふくふくと膨らませて、もみじのような手をぺちぺちと叩いて、楽しそうに母と拙いおしゃべりを楽しんでいる子供。


自分には与えられなかったあたたかい場所にいるその子供が、羨ましくて羨ましくてたまらなくて、カラスは母が少しその場を離れた隙に子供に近付いてみました。急に目の前に現れた白い鳥にきょとんと首を傾げる小さな顔を覗き込むと、ぱちくりと真っ黒な目でカラスをじっと見つめる子供。


あぁ、羨ましい…羨ましい


その瞳が、その場所が、欲しくて欲しくてたまらなくて、カラスは啄んでやろうとカッと開いたくちばしを向けると、子供の丸くてふくふくとした手が、そっとカラスに触れました。


あぁ…なんて柔らかくて、あたたかくて、優しいのだろう


はじめてのそれに戸惑っていると、子供がきゃっきゃと楽しそうに笑うから、この子が自分を受け入れてくれたように思えて、カラスはそっと鋭いくちばしを引っ込めました。


キミと一緒に居れば、ボクもそのあたたかさをもらえるだろうか


羽をたたんだカラスは、子供にそっと額を押し付けてすり寄ります。その頭をさわさわとぎこちなく撫でて、ぬいぐるみと戯れるようにぎゅうと抱き締めた子供の手の中で、カラスは光のように姿を消しました。









母が用事を済ませて我が子の元へ戻ると、子供はすやすやと眠っていました。

その様子を愛おしそうに眺める母はふと、我が子の真っ黒な頭髪の一部に白いものを見つけます。

何かついているのかしら?と触れたその感触はあきらかに子供の髪のもので、ひゅっと息を飲んだ母が子供を慌てて抱き上げると、その拍子に子供が目を覚ましてしまいます。

ぐずりながらもゆっくりと開いた目を母親が覗き込むと、右の瞳が本来の色を失って真っ白に揺らいでいて、目を見開いた母は腰を抜かしてその場に座り込んでしまいました。








これは、ただ平凡な幸せを求めたカラスと、ただ平穏に暮らしていた優しい男の子が、出会った日のおはなしです。







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