03:地下室
城の地下には独房があった。
そこの一室。
今は二人きり。
僕と。
そして。
女の勇者。
椅子の上で安らかに眠る少女。
彼女はまだ知らない。
これから何が起こるかを。
小さな淡い光。
それだけが周囲を照らしていた。
◇
時は僕が初めて刃を振るった時に戻る。
周囲には勇者達の肉片。
「アスト、あなた、アストなのっ!?」
クロエが僕の名を呼ぶ。
あの時とは風貌がまるで違う。
だが、クロエには僕だと分かったという。
「はい。お久しぶりです、クロエ」
正直、胸が痛い。
僕はクロエとの約束、女王を守れなかった。
顔を下げ塞ぎがちだった僕の元に。
「良かった、本当にっ!」
クロエが飛び込んできた。
とはいえ今の僕らの身長差は大きく逆転していて。
丁度クロエの胸が僕の顔に押しつけられていた。
「く、苦しい、です。クロエ」
「あぁ、ごめんなさいっ」
慌てて離れるクロエ。
「でも、よく・・・・・・よく無事だったわね、アスト」
「・・・・・・はい、色々ありましたが、僕はこうして健在です。ですが・・・・・・女王は・・・・・・僕守れませんでした」
「・・・・・・そう。女王はやはり・・・・・・」
クロエの目から一筋の雫。
でもすぐに指で拭った。
大きく息を吸っては吐いて心を落ち着かせた後。
「紹介するわ。このお方が、テストリア様よ」
目線を自分の横に。
そこにはクロエに隠れるようにこちらを除く小さな身体。
黒髪、小さな角、そしてルビーアイ。
「は、始めまして。テストリアで、す。よ、よろしく、お、お願いします」
まだこちらを警戒しているのか声がとても小さい。
僕はそんなテストリア様の前に跪く。
「テストリア様、よくぞ、いままでご無事で。このアスト、今後例えこの身が滅びようともテストリア様を最後までお守りすると誓います」
次は。
次こそは。
この子を。
必ず守ってみせる。
そう心に刻んだ僕だった。
それはそうと・・・・・・。
「・・・・・・あの、どうでもいいですが、クロエ、なぜ先ほどから僕の頭を撫でてるのでしょうか」
「え、あ、ごめんなさい、つい、今の姿が、とても私好み・・・・・・じゃない可愛いものだから」
そう言い終えた後もクロエの手が僕の頭から離れる事はなかった。
◇
勇者6人、そして同行した兵士、全員が死んだ。
ただ一人で戻った僕。
その状況に王である僕の父の慌てぶりはとても滑稽であった。
「・・・・・・勇者、殿、が全員・・・・・・やられた、だと・・・・・・」
あまりのショックで王は玉座より滑り落ちそうになる。
「み、見た事も聞いた事もないような魔獣がいきなり現れて勇者達を瞬殺しました。ぼ、僕は恐ろしくて、無我夢中で逃げ出したのですが・・・・・・」
「あ、あぁ、いや、お前が無事で何よりだが、しかし、勇者達が全員死ぬとは・・・・・・」
王が狼狽えるのも無理はない。
いまや勇者は国家間での争いの抑止力になっている。
実際戦時になれば勇者同士の戦いは起こりえない。
圧倒的力を持つ勇者も、同じ勇者同士なら死ぬ可能性はあるからね。
だけど、国に勇者が一人もいないとなれば話は別、人間の兵士なぞ紙切れ同然で斬り伏せられる。
「あぁ、あああ、この事がもし他国に知られもすれば・・・・・・あぁあああ」
まぁ、真っ先に狙われるだろうね。
魔族の国が狙われたのは中央に資源が集中していたからだ。
それを得た人間共は無尽蔵に取り合っている。
いづれ資源は枯渇するだろう。
その前に起こるのは国家同士の利権争い。
水を啜る人数は少ないにこしたことはないのだ。
「父上、その事でこのミスラ考えがございます」
子供の戯れ言と思う事なかれ。
自分でいうのもなんだが、今までも僕の意見で事がうまくいったなんて事例も少なくはなかった。
「お、おお、なんだ、ミスラ、なにか良い案でもっ!?」
藁にも縋る思いで僕にそう尋ねてくる一国の王。
「ええ、父上、耳をこちらに・・・・・・」
そっと耳打ちする。
「簡単な事です。この事が外に漏れる前に、他の国の勇者達、全員・・・・・・」
微笑みながら。
「殺してしまえばいいのです」
僕はそう進言したのであった。
よろしくお願いいたします。