02:ギロチン
深い森を抜けた辺境の地。
そこに生き残った魔族の村があった。
正直よく今まで隠し通したと思う。
女王に娘がいた事は周知されていたし。
根絶やしにしようと各国躍起になっていた。
「・・・・・・クロエ。よく今まで頑張ってくれました」
小さく呟く。
「ん、王子、今なんかいった?」
「いえ、何も・・・・・・」
高い丘から見下ろす。
細々と暮らす小さな村。
「まず、俺らが住人を皆殺しにすっからさ、王子は最後にその生き残りの王女とやらに止めをさしてよ」
「うちの王も中々狡いね。手柄を息子に全部取らせる気だ」
「まぁ、散々好き勝手させてもらえてるし、王子はうちらの時期スポンサーだしね。この位いいでしょう」
同行した勇者は全部で六人。
一人は非常時のために待機。
「お、あれじゃね。丁度真ん中にいる奴」
勇者の一人がそう言い。
僕も確認。
村の中央、開けた場所にその子はいた。
今の自分と同い年くらい。
白い髪、そして赤く輝くルビーアイ。
間違いない。
女王の面影も色濃く。
そして隣には。
長く艶やかな黒髪のクロエ。
心の中で詫びる。
託された想いは果たせなかった。
でも、今度は。
「じゃ、俺一番乗り~」
「あ、待てよっ!」
「たくっ! はしゃぎすぎだぞっ!」
勇者達が次々丘から飛び降りていく。
「王子、我々は勇者殿が事を終えるまで安全な場所へ・・・・・・」
勇者達とは別に護衛で付いてきた兵士が数名、僕の身を案じる。
「あぁ、僕は大丈夫です。それよりアレはどこにあります?」
以前丁度目に入ったアレを自分なりに改良してみた。
「あぁ、アレですか。アレは馬車に乗せてありますが・・・・・・」
「そうですか、なら・・・・・・」
始まる。
もう一人の自分の物語。
◇
蘇る遠いあの日の記憶。
「う、うおお、おおお」
全てを粉砕する巨大な斧。
だが、あまりにのろい。
勇者達には軽く交わされ。
その間数十本の槍が身体に突き刺さる。
巨木のような太い腕。
勇者の剣の前には簡単に切り落とされた。
「イ、イダイ、デ、デモ、オ、オデ、ジョ、ジョウサマ、マモルッ」
「ほらほら、どうしたトロールもどきっ!」
足に槍が突き刺さる。
「イ、イダイ、アダギア、イ、イダ」
残った片手で必死に斧を振るも。
「レジスト、物理完全防御」
「強化、全員の防御力極上」
後方の勇者達が補助魔法をかける。
それによりこちらの攻撃がまるで効かず。
「おらぁ、燃えろぉおおお」
炎が身体を包み込む。
「アアア、アアアア、イダアア、アズイ、アズイイイイイイイイ」
勇者と巨人、その力量差は圧倒的。
ただでさえ多勢に無勢。
なすがないまま巨体は膝を折る。
「ぎゃああはああああああああああ」
後ろから女王の悲鳴。
「アアッ、ジ、ジョオ、ウ!!」
「まだまだ死ねないぞ、お前はラスボスだろがぁああああ」
女王の身体が切り刻まれる。
「ヒギアアァイイ」
簡単には殺さない。
それが容易く出来るのに。
彼らはそうしなかった。
「ほら、デグ、見てみろ、お前の女王が絶叫してるぞ」
「助けなくていいの~?」
「ヤ、ヤメデ、ヤメデクデ・・・・・・」
巨人は自分の痛みなどどうでもいいように拙い言葉でただただ懇願する。
「おい、ちょっと待てよ。魔族の女王ってレアキャラだ、もう少し楽しもうぜ」
「ちょ、まじか。趣味悪っ!」
「でも女王ってだけあって、中々・・・・・・」
好奇の目が集まる。
「こ、殺しなさいっ!」
「うん、殺すけどね、まぁもう少し付き合えよ」
「ヤ、ヤベロ、ジョウオウ、ニ、モウ、ヒドイ、ゴド、ヤメデ」
「お前はうるせぇよ」
踏ん張っていた足を横薙ぎに切断される。
顔から崩れ落ちる巨体。
辛うじて首を上げて見えた光景は。
「ヤ、ヤベロ、ジ、ジョオオオウ、ザマ、オデ、オデ」
蹂躙されていく。
目の前で。
どんどん薄れる視界。
小さくなっていく声。
最後の記憶。
◇
「ク、クロエっ!」
「だ、大丈夫ですっ! テストリア様は私が絶対護りますから・・・・・・」
気丈に振る舞ってはいるがその瞳が絶望に染まっていた。
目の前にかつて自分達魔族を絶滅寸前まで追い詰めた勇者が六人。
一人一人が規格外の強さ。
クロエがテストリアを包み込むように全身で庇う。
「おいおい、それじゃ王女も一緒に殺しちゃうじゃん」
「まぁいいんじゃね。別に後から王子がやりましたって事にすれば」
「それもそうだな。じゃあ・・・・・・」
勇者達の得物がクロエ達に向けられ。
そして。
首が飛ぶ。
二つ。
それは。
地面を引きずる巨大な刃。
元々それはギロチンだったもの。
大勢の首を一度に切断するため刃はとても長い。
改良されたそれは血塗られた巨刀へと姿を変え。
今、それを両手に二本、握りながら近づく。
「・・・・・・まず二つ」
油断してたのか簡単に首は地面に落ちた。
怪力はこの小さな身体になっても健在で。
この吹けば折れるような細腕でもとても軽い。
「え?」「は?」
振り向いた勇者達は、まず落ちた頭を見て。
そしてこちらに顔を向けた。
「い、今の、え、王子?」
「い、いや、いや、どういう事?」
混乱している。
無理もない。
あっちには小さな子供がその身の丈の何倍もある刃を手にしているのだから。
いや、見知った僕による凶行によるものか。
どちらかもしれないし。
どちらでもいい事。
「ミスラ王子、これは一体っ!?」
勇者が叫ぶ。
「違います」
即座に否定。
「・・・・・・ア、アスト?」
答えは別の者、クロエが。
正解、よく分かったと正直驚いた。
「僕はアスト」
二本の巨刀を持ち上げる。
「処刑人アストです」
挟み込むように両腕を交差する。
前方勇者二人。
それを各々の武器で防ぐも。
バキボキと小気味良い音。
腕の骨がその威力に耐えきれず粉砕される。
「レ、レジスト、物理完全防御っ!」
それを見て他の勇者が慌てて強化魔法を唱えるが。
「知ってる、知ってるぞぉおおおおおおおおおおおお、キミヒサぁあああああああああああ」
振り下ろした巨刀は空を斬る。
そこから生まれる斬撃。
即座に切り替えていた。
ギロチン刀に魔法付与。
それは強力な風の魔法に酷似していた。
「う、あ」
短い断末魔。
キミヒサという名の勇者は綺麗に真っ二つ。
血と臓物を晒しながら、左右に倒れる。
「ぐっ! 身体能力強化、素早さ極上げっ!」
なるほど、受けられない、防げないなら避けるしかない。
だが。
「知ってる、それも知ってるぞ、トモチカぁあああああああああああああああああああ」
あの時攻撃力だけはあった巨大な斧の一撃。
しかし遅すぎて全部躱されていた。
今はどうだ。
身体が軽い。
羽根のよう。
身体を回転するように両手のギロチン刀を振るう。
完璧に捉えた。
まずトモチカの上半身と下半身が別れた。
さらに間髪入れず太股から両足が離れる。
先ほど防御で腕が使い物にならなくなっていた二人。
残りはこいつらのみ。
「ほら、ほら、ほらぁあああああああああああああああ」
ギロチン刃を二人に向かって振り落とす。
何度も何度も振り落とす。
二人は必死に己の武器で防ぐが。
「がああは」「ひぎゃああ」
堪えきれない。
その都度、身体が壊れていく。
骨は折れ曲がり。
自然と鼻から口から血が流れ出る。
「まだだ、まだ、まだ殺さないっ、まだ、まだっ!」
この二人は女王を最後まで蹂躙した勇者達。
特に苦しませて殺してあげなければ。
「右腕ぇえ!」
言葉通り。
「左足ぃいい」
その部位を。
「右腕ぇええ」
斬り飛ばしていく。
最後の最後。
「首ぃいいいいいいいいいいいいいいいいいい」
構える。
二本の刃を重ねるように両腕で左から右へ。
「はい、死んで下さい」
振り切った。
よろしくお願いいたします。