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01:王子に生まれました。

 覚醒した意識の中。

 

 聞こえるのは見知らぬ声。


「ついにお生まれになられましたわっ」


 あ、あで。


 おで、は。


「で、でかしたっ! 我がミロラス国にもついに世継ぎがっ」


 ど、どいうごど、だ。


 お、おでは、あのどき。


 断片的な記憶が。


 蘇る。


 それは血と涙の。


 

      ◇


 木々が生い茂、耳を澄ませば水の音。


 葉の隙間から光が差し込む、神秘的で美しい場所だった。


 それが今は炎に包まれている。


「そっちだっ! 逃がすなっ!」


 巨体を揺らし必死に走る。


「きゃっ」


 前を走る女性が足を滑らせる。


「女王っ!」


 その隣、小さな小さな赤子を抱きかかえる女もそう叫び足を止める。


「ク、クロエ。もう私は駄目です、これ以上は足手まとい。どうか、この子だけでも連れて逃げてください」


「なりませんっ!」


「クロエ、お願い、このままでは私達は皆殺されます。せめて、その子だけでも守ってあげて・・・・・・」


「っ! ですがっ!」


「クロエ、お願いよ・・・・・・」


 嘆願するその瞳にはすでに覚悟が宿っていた。


「・・・・・・アストっ! 私は王女を、テストリア様を連れて逃げるっ! お前はここで女王を死守、可能な限り・・・・・・足止めしろっ!」


「ア、ア、ア、オ、オデ、ワ、ワガダ」


 三メートルは優に超えようかという大男。


 自慢はその見た目に反しない怪力。


 だが、それ以外で誇れるものは無かった。


「クロエ、クロエ、どうか、どうか、その子の未来を・・・・・・」


「かしこまりました。このクロエ、命にかえてもテストリア様をお守りすると誓いますっ!」

 

 二人はしっかり顔を見合わせ。


 そして涙を流した。


 どちらも理解していたから。


 これが最後に交わす言葉だと。


 クロエと呼ばれた女は赤子を抱いてこの場から一目散に離脱する。


 残されたのは女王。


 そして力以外は何の取り柄もない巨人。


 程なく。


「ようやく見つけたぞ」


「鬼ごっこは終わりだね」


 囲まれていた。


 人数にして数十人。


「・・・・・・勇者どもがっ!」


 毅然な態度で睨み付ける女王。


「オ、オデ、ジョ、ジョウオウ、サ、マ、マモル」


 それを隠すように前に出る巨体。


「あぁ? なんだこの木偶の坊は」


 勇者達が剣や槍、弓を向け。


「いいじゃん、どうせならこいつの前で殺してやろう」


「あはは、自分の無力さを思い知れっ! この化け物がっ!」


 女王は醜く同種からも馬鹿にされていた自分にとても優しくしてくれた。


 そんな心が安らぐ幾つもの場面がアストの脳に過ぎる。


「オ、オデ、ジョオウサ、マ、ゼッタイ、マモル」


 巨体に相応しい斧を振り上げ。


 そして・・・・・・。



      ◇


 泣き叫ぶ。


 それは赤子の自分には当然の事であったが。


 その意味は別にあった。


「おーおー、元気な子だ。これは将来が楽しみだな」


「本当です、かの勇者様達によってこの世は安泰、これからの世は安寧に満ちることでしょう」


 オデ、バカ、デ。


 オデ、ノロマ、デ。


 ダガラ、ナニモ、デギナガッタ。


 泣き叫ぶ。


 それは赤子の自分には当然の事であったが。


 その意味は別にあったのだ。



    ◇


 首を刈り取るのが仕事だった。


 毎日、何も考えず斧を振るった。


 どの世界にも狡猾で他者を陥れようとする輩はいる。


 法にも似たものは存在していて。


 それに基づき刑を執行。


 本人は深い意味は理解できず。


 ただただ斧を振り。


 首を落としていった。


 それでついた名が。


 

 [処刑人アスト]


 力だけが自慢のこの唐変木にできる仕事などこれ位しか無かった。


 何も思わず。


 何も感じず。


 処刑人アストは。


 今日も斧を罪人の首に振り下ろす。



    ◇


 産声を上げたあの日から。


 十数年の時が経ち。


「ミスラも今日で一二歳か、時とは早く過ぎるものよの」


 この国の王である父がそう語ったのは昼食の時だった。


「ええ、お陰様でこうして元気にこの日を迎えられました」


 王族、そして後継者として自分に求められたのは。


 確かな教養、そして作法。


 ここまで何不自由なく暮らして。


 それでも一日も忘れた事は無かった。


 こうして華麗な衣服を纏っても。


 一日も忘れた事は無かった。


 前世の名残りか。


 髪は表面こそ一族と同じ淡い水色であったが。


 隠れるように中は黒髪が混じっていた。


 言葉も上手く口に出来なかった自分が。


 石の数え方も知らなかった自分が。


 今は、こうして悠長に話し、世の理を知った。


 

 それは奇しくも自分の誕生日と重なった。


「ほ、報告っ!」


 衛兵の一人が慌ててこの場に現れて。


「なんだ、騒々しいっ!」


「も、申し訳ございませんっ! ですが早急にお伝えたい事がっ!」


 なんとなく予感はした。


 教えてくれたのは、きっと。


「ついに魔族の残党、その隠れ里が見つかりましたっ!」


「おう、なんとっ! それは誠かっ!?」


 待ち焦がれていた瞬間だった。


「すぐに勇者殿を招集せよっ! 他の国に遅れをとるではないぞっ!」


 来るこの日のために準備は整えていた。


 

 十数年前。 


 突如この世界に39人の勇者達が召喚された。


 皆見慣れない同じ衣服を身に纏い。


 自分達は別の世界で、学生? とかいうものであったと。


 特異する点は皆例外なく・・・・・・。


 規格外の強さを持っていた事。  


「すぐに勇者達を含む討伐隊を派遣せよっ!」


 それが父でもある王の指示。

 


 この大陸の国はここアケミトスを含め6つ。


 以前中央にあった広大な魔族の国レメゲトン。


 六つの国はそれを囲むように存在していた。


 国はこぞって勇者達を我が国へと迎え入れ。


 そして魔族領へと進行を開始した。


 現在この国が保有する勇者は7人。


 勇者達は歳を取らない、否、時間が我々よりゆっくり流れているだけか。


 だからこそ、今でもあの光景が鮮明に思い出せる。

 

「父上。お願いがございます」


 勇者達はいまや国家間の争いを防ぐ抑止力。


 全員とは行かないまでも。


 そこに僕が同行すると言えば・・・・・・。


 歓喜。


 血が。


 肉が。


 湧き躍る。



 


 

 頑張ります。応援お願いします。

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