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SONG OF MIRABELIA/宿り木の勇者  作者: 澁谷晴
第五章 真なる炎
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最終話 ミラベリアの勇者

 ブライドワースより離れた帝都といえど、混乱からは無縁ではいられなかった。ドミニクは早々にその地を立ち去ったので詳細は知らない。時折拾った新聞や、酒場の客などから得た情報によると、〈船〉は異なる断片――異世界からの来訪者ということだった。


 その乗員は身の丈が常人の五倍はあるという巨人だとか、悪魔の軍団だとか、恐るべき話ばかりが聞こえてくる。


 彼らはミラベリアに対し、他の断片との同盟締結を求めているようだった。邪神という共通の敵に対し、ともに立ち向かおうということらしい。恐らく、この世界よりもはるかに進んだ技術を有しているのだろう。ことによると、ミラベリアは無数の断片の中の、一辺境地に過ぎないのかもしれない。本当にその力を当てにしているというわけではないのだろう。


 将軍府は彼らに対し、ただ恐れおののくばかりのようだった。早晩、同盟は締結されるだろう。しかし、騎士たちの中には、余所者になど指図されたくはないという恐れ知らずが数多く混じっているようだった。


 自分たちがこの世界を維持してきたという自負の表れだろうが、あまりにも無謀と言えた。


   ■


 それからというもの、にわかに撃攘派の動きは活発になっていった。外世界の勢力に屈した将軍府への反発は強まり、皇帝の統治の元、このミラベリアの独立を確かなものとすべく、破壊・暗殺が各地で繰り返された。


 これを好機と見たからか、邪神の手先が急激にその数を増した。徒党を組んだ勇者たちがこれの討伐に当たったが、いくつもの村や町、ときには領邦そのものが滅ぼされた。


 世界は混沌に包まれつつある。そんな折、ドミニクはどこへ向かったのか。


 行く先は判然としなかった。最後に帝都に滞在し、黒騎士ガラシャとともに周辺を旅しているのを目撃されたのを最後に、消息を絶った。


 彼は西の地へ、邪神との決着を付けに向かったという説もある。あるいは、エルフの地ブランガルドを目指したとか、故郷ブライドワースの危機を救いに馳せ参じたともされている。もしくは、黒い船の来訪者と組み、他の断片へ脱したいう説もある。


   ■


 ミラベリアは結局、滅ばなかった。ある時期に、邪神の手先と瘴気は急激に勢いを失った――どこかの英雄が決着をつけたのか、神々の救いか、あるいは邪神が何らかの理由で自滅したのか。答えは誰にも知れない。


 それと同時に勇者たちもまた、一人ひとり姿を消していった。


 将軍府は皇帝とキャスリングへ政権を返上したが、一部の騎士たちと黒犬組の残党はこれを終ぞ認められずに、北東へと遁走した。やがては北の最果て、ドヴェルの地ギョールにて旧将軍府軍は、すべて鎮圧された。


 それは騎士による武力社会が、終わりを告げたことを意味した。瘴気と魔物が弱体化したこともあり、彼らはその地位を急激に失いつつあった。


 船によって外なる世界の技術が持ち込まれ、それはミラベリアの強国への発展を期待させるものだった。


 古い時代を人々は、早くも忘れかけている。


 だが、各地からこんな伝説が消えることは無かった――身の振り方を弁えなければ、無礼な少年の姿をした〈たかり鬼〉が食いものと寝床を求めてやって来る。そいつは感謝もしなければ、遠慮もしない。


 そして今日も酔っ払った冒険者がくだをまく、どこかの酒場にその人物がやって来る。


「もちろんあなたはその料理を僕にくれることでしょうが、僕は慎み深いので半分で結構です。礼は要りません、僕は勇者なので当然です」



   SONG OF MIRABELIA/宿り木の勇者   終

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