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SONG OF MIRABELIA/宿り木の勇者  作者: 澁谷晴
第五章 真なる炎
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第七十一話 賛同者

 騎士たちの詰め所を越えて進むと森と、その向こうに聳え立つ城塞が見えた。あの城がどうやら迷宮らしい。


 木立ちの中は露天が立ち並んでおり、それらはここの外の市場とは大きく異なっていた――売り物は野菜や鮮魚、薬などではなく、例えば穴の開いた薬缶の数々であったり、一切目にしたことのない異様な文字で書かれた新聞であったり、汗臭い洗濯物の山であったり、一見どうにも役立たないものばかりだ。


 なぜそんなものばかりを売っているのかと、土が付いたままの、どこかで掘り起こしたような煉瓦を売っている男に尋ねると、どうやらこれらは、この迷宮で採取されたものらしかった。


 冒険者が迷宮で取得するのは、魔法具や、魔物を狩って手にした素材などと相場が決まっているが、どうやらこの場所では奇怪なガラクタばかりが湧き出るらしい。


 こんなものを買う人がいるのだろうか。値段はどれも、かなり安価ではある。薬缶は穴をふさげばよいし、新聞紙は焚き付けに使えるかも知れない。洗濯物も、古着を買ったと思って購入者が洗えばいいだけの話だろうか。


 その後も、巨大な蛇の抜け殻、酒が半分だけ入った瓶、人差し指のみが半ばで破けた手袋、どこのものとも知れぬ鍵束、各ページにインクがべったりと染み付き虫食いのようになった本、などが売られていた。こんな馬鹿げた迷宮に挑むのは、よほど行き場のない冒険者だけなのだろう。


 ガラクタ市じみた森を抜ける直前、妙な叫び声をドミニクは聞いた。甲高い歓喜の声だ。それは徐々に近づいてきた。


「おお、君って、ドミニク・フリードマンだろう? なあそうだよね、間違いない」


 その女性は騎士だった。武器を帯びていないことから、聖武具のみを頼みに戦うようだ。この間隙を守護していた門衛たちのような鎧は身に付けていない。もしや、ゲオルギーネと同じ黒騎士なのだろうかとドミニクは思った。


「何か御用でしょうか」


「いやね、私は君の思想にいたく感銘を受けて出奔した身なのよ。そんな相手に出会えるなんてなんという運命だろう。那由多の神々が我らを引き合わせたのだ。素晴らしい奇跡の邂逅だよ。君は実に先進的だ、真理を理解しているのだからね」


 やはりこの人物は、君主なき黒騎士なのだ。口ではドミニクを賛美してはいるが、あるいはこちらを利用しようと目論む不届き者かも知れない。ドミニクはそれを直截に口に出した。


「あなたと親交を深めたい気持ちはありますが、まだ素性がはっきりしないとあっては信頼できかねますね。前に僕で金儲けしようとした邪悪な詐欺師がいました。そうでなくとも、こちらを頼ってばかりの怠惰な人々もいましたし、ラース・ダンドリッジの生まれ変わりを自称してこちらに取り入ろうとした人とも会ったばかりです」


「なんだって? ならば私はレナード・ニンバスクラッドの生まれ変わりだ。ああ勇者よ。我が故郷で、教会の説教において君の思想が悪しき例として挙げられたのだ。それを聞いた瞬間、世界を真に理解した気分になったよ。労働が悪だなんて、そのような当然のことをどうして誰も口にしなかったのか。今では私は、時折安い冒険者の真似事をして路銀と日銭を得ている身さ。実に気楽だよ。君主などに仕える必要なんてなかったのだ」


「まずは名くらい名乗ったらどうです」


「これは失敬、ああ、そうだ当然の礼儀じゃあないか」


 黒騎士はドミニクに向き直り、厳かに名乗りを上げる。


「我が名はバルトロメア。〈半月島(ハーフムーン・アイル)〉のバルトロメアだ。偉大なる勇者ドミニク、しばしの同行を――あ、おい、どこへ行くんだ!?」


 ドミニクはフェイチェスターで出会った望ましからぬ二人を連想したがために、足早にその場を離れようとする。

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