第六十八話 疑惑
「便宜上、あなたの発言が真実という前提で話を進めますが、いくつか聞きたいことがあります」
コンフリーの席に戻ってドミニクは問いかける。彼はただ頷く。
「あなたの目的は何です」
「乃公は肴が欲しいだけだ。前からそうだった。かつては強者が数多、ひしめいていた。例えば、三傑と名高きレナード・ニンバスクラッド、あの風生まれの〈小僧〉カーン・ラグド、そしてあの狡猾な男、ライナス・ペンブライド。
マドック・ヴィンスロット――レナードを謀殺した返り忠――に、あの〈蛇〉、乃公が手にかけた〈剣豪将軍〉……
一番魅せられたのはやはりレナード、あの大うつけであった。だが、乃公にはやれんかった。マドックは実によく成し遂げたものだ、奴を入れて四傑としても良いのではないかという程に」
「彼らの死にざまを肴にし、一杯やるのがあなたの生きがい、夢であったのですね」
コンフリーは答えずに、ドミニクを見た。
「僕の死にざまも見たいというわけですか、そのために最も近くで仕えたいと。生憎ですが、勇者は不滅の存在、あなたが今世長命なエルフであっても、先に死ぬこととなりましょう」
「ならばまた転生すれば良いだけの話よ」
「それでもあなたの魂魄が滅ぶ方が先だ。第一、僕はあなたを従者にするとは言っていませんよ。金銭的にも余裕はないようですし、こちらには柔軟性に欠けるにせよ、定命がどうあがいても勝てはしない手ごまが既にいるのです」
「その者と乃公で一勝負するというのはどうだ、ドミニクよ」
これにはさすがに、ドミニクは露骨にあきれ顔を浮かべる。
「相手は人族ではなく、勇者を断罪するための〈審判者〉ですよ。その剣で斬られれば勇者だろうと朽ちるのです、ましてやあなたなど、ひとたまりもない」
「乃公は金を稼げるぞ、ドミニク」静かに、しかし自信ありげにコンフリーが言った。「聞いただろう、乃公がラースであった頃、どのようにして成り上がったかを」
「治癒の奇跡とやらですか」
「幸いこの街はけが人には事欠かない」
コンフリーは黒犬と反逆者の抗争について言及したのだろうが、ドミニクは周囲を見渡し皮肉な口調で言う、
「それにしてはここにいる方々は傷一つない、いいえ、手傷どころか戦闘経験すらろくになさそうだ」
「ああ、この地で冒険者が魔物と戦う機会はまずない。ここは結界の間隙すら相当に限定されているからな、冒険者とはつまり使い走り、雑用係に過ぎぬということだ」
フェイチェスターの怠惰な人々以下だということか。
「ドミニク、その従者は金をどれだけ貴公のために集められるのだ?」
「……では試しに、三日以内に可能な限りの額を集めてきていただきたい。こちらも我が従者に一稼ぎしてもらいます」
「心得た。では三日後にまたこの場所へ戻って来るとしよう」
■
ギルドを出て、ドミニクは人ならざる従者レギンレイヴを呼び出し、放置するはずだった吸血鬼退治に当たらせるためショパンの宿に向かわせた。
そこで突然、あのコンフリーという男は嘘吐きだったのではないかという疑惑が高まってきた。
彼は恐らく普段から、あの店に来た余所者や新人に対し、自分はラース・ダンドリッジ――もしくは日によっては別の武将の名を上げ――の生まれ変わりだなどと嘯き、騙される様子を酒の肴にする、悪質な人物なのだ。今回は奇しくも本物であったが、いつもはきっと「君は勇者だ、まだ自覚がないだけで素晴らしい力がもうじき目覚める」などと誉めそやして良い気分にさせているのだろう。
周囲の冒険者たちもとっくにそれをご存じで、だから彼と会話している間、何も口を挟まなかったのだ。きっと今頃「あの少年は戻って来るかどうか」と賭けに興じているに違いない。
ドミニクはあの冒険者ギルドのことを忘却することにした。
思うがままに歩き続け、昇降機に乗って遥か下の階層へ下る。
がらんとしただだっ広い通りが続いており、車列と人波で騒がしい上の階層に比べるとのどかな雰囲気だ。どこからか鳥のさえずりだけが響き、静寂を揺らしている。
しばらく行くと、道のど真ん中に堂々とテントを張り、食事の用意をしている一団に出会った。
彼らは旅人らしかった。多数の種族が混在しているが、風生まれの割合が最多のようだった。騎獣や荷車が近くに止めてある。どうやらだいぶ遠くから来たようだ。既に酒が入っている者もいるらしく、陽気な笑い声が響く。楽器を演奏する者、歌う者、黙って料理をする者、それらに関係なくボーっとしている者など、実に気楽で、それでいて調和が取れている。こういった集団にはこれまで、ドミニクはなかなか出くわすことが無かった。
少し離れたところからドミニクがその様子を見ていると、褐色の肌の男が話しかけてきた――いかにも風来坊といった雰囲気だ。
「兄さん、あんたも余所者だね……飯でもどうよ、俺ら〈旅人ギルド〉とな」




