第五十九話 迷妄なる騎士、クロロック
とはいえドミニクは彼の立場について言及せず、鵜呑みにしたように頷いて、
「分かりました、ひとまずあなたが吸血鬼や他の害悪な魔物やアンデッドを倒す腕利きで、聖竜の力を得た存在であるとしましょう。しかし、銃を使うというのは珍しいですね。悪魔狩りの人も使っていましたが」
騎士はその台詞に一瞬眉を顰めて、
「彼らと一緒にされたくはないが、理に適ってはいる。悪魔や吸血鬼は銃をナメてかかるからさ、それがドヴェルから卸した最新のライフルと、聖別された銀の銃弾であってもだ、奴らを油断させておくわけだよ。ところで君は危険な敵に挑むと言っていたが、この街の地下に恐るべき迷宮が広がっているという話は知っているかい?」
〈竜の仔〉の騎士の発言にドミニクは興味をひかれた。
「それは初耳です。どこから侵入できるのでしょうか?」
「もちろんその入り口は、この地の騎士団が厳重に管理している。たまに冒険者や騎士が入って行って、魔物を間引いているんだ。オレもそこに潜んでいる吸血鬼を退治するためにやって来たわけだ」
「ほう、ではレグ、あなたもその場所に赴き、悪鬼どもを駆除してください」
「かしこまりました、我が主」
従順なレグの態度を見て、騎士は貴族の子息と従者という関係を想像したようだった。もちろんその通りではあるのだが、吸血鬼や悪魔が銃士を侮るように、この男もまた自分の力を理解していないようだとドミニクはやや気分を害した。
そんな内面を知らず、騎士は追い打ちをかけるように言う。
「じゃあ少年、君はどこぞの安全な場所で待機しているべきだね」
「ああ、あなたは僕が誰かご存じではないのですね」
ドミニクはレグが自発的にこの偉大なる勇者について説明するものと思って視線を送ったが、ただ無言で突っ立っているだけなので促す。
「レグ、彼に僕が誰かを教えてあげてください」
「ああ、承知いたしました。いいか騎士よ、このお方こそ我が主にして太陽神ダグローラの加護を受けし〈宿り木の勇者〉。英雄の中の英雄。邪神を脅かす者。ドミニク・フリードマン様であるぞ」
「勇者?」騎士は一瞬、ぽかんとした表情を浮かべて、「おお、そういえば教会で君についての文書を見たぞ! 確かいろんな場所で食べ物や小遣いをたかるという少年だろう」
「違います。僕をそのような意地汚い真似をする下衆と同一視するなど、迷妄極まれりと言わざるを得ませんね。どうやら、勇者を自称するどこぞの別人と間違っているようだ。例えばダミアーノというこそ泥や、あのスコップを持った死体漁りなどと……」
「うーむ、ダミアーノっていうのは知らないけど、スコップを持った勇者って、アリア・ミルのことだろう。〈三本棘のヘザー〉が返り討ちにあったっていう」
例の〈屍の勇者〉はアリア・ミルという名らしい。ヘザーが名の知れた騎士らしいということにもドミニクは多少驚いた、あの奇矯なお騒がせ者が。だのに自分のことは偏見を持って見る、この騎士もまた、けしからぬ男だ。
「いいですか、はっきりと告げておきますが、僕はそれらの人々とは一線を画す強者であります。僕こそがダグローラ神が最も強力に祝福した特別な勇者であり、さらにそこな従者レグは、我が神器の力でもって天界より召喚した〈審判者〉。勇者といえどこの者なら鎧袖一触。我らはこの世界で最強と言っても過言ではありません」
その自賛を聞いた騎士は、困惑したような顔でドミニクを見つめて、
「あー、つまり君も地下迷宮についてくるってことかい? よしなよ、痛い目に合ってから後悔しても遅いんだ」
「痛い目になど合いません。これまでに合ったこともないので」
騎士がこれ見よがしに肩をすくめてため息を吐いたのでドミニクはいら立った。この男にこちらの超越的な力を見せつけなくては気が済まない。
「まあどうしてもというなら、その従者さんにしっかり守ってもらうことだ、ドミニク君。では騎士団の所へ向かうとしよう」
「ええ、しっかりと目を見開いていてください、我らの力を見逃さぬように」
〈竜の仔〉の騎士はクロロックと名乗った。改めて彼の顔を観察すると、吸血鬼退治どころか並みの冒険者として食っていくのも難しそうなのん気な人物に見えた。シーカーズベイで遭遇した札付き衆や、フェイチェスター貧民街のごろつきなどと顔を合わせたら、震えてとんずらしてしまいそうな、小市民の顔だ。もしかすると、即座に戦死するかもしれない。その場合、いかに迷妄なる者といえど、墓標の一つもこしらえてやろう。たとえそれが、暗く汚れた迷宮の中であっても。なにしろ自分は、慈悲深き勇者なのだから。




