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SONG OF MIRABELIA/宿り木の勇者  作者: 澁谷晴
第四章 曙光差すとき
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第五十四話 黄金の果実

 騎士団の詰め所へ行き、アルヴィンにかけられていた賞金をもらうことにした。ドミニクが話しかけた騎士は狼の獣人で、冷淡な顔をした女だった。


「アルヴィン? ああ、あのお尋ね者の徒党の頭か? それで奴はどこに捕らえているんだ?」


「街から少し離れた廃聖堂にいます。僕の力で草に変えました」


「それは戻すことはできるのか?」


「できます」


「なら、今から草むしりをしてこっちに運んでから戻してもらおう」


「その方がいいでしょう。それと、僕のありがたい話を聞いて啓蒙して欲しいという人がいたら、格安で請け負いますが」


 騎士はしばし沈黙し、その聖堂の場所を教えてくれ、とだけ言った。


   ■


 ドミニクと二人の騎士が聖堂へ赴き、荷車に草を積んで街へ戻った。騎士たちはどうにも暇そうにしている。街でひっきりなしに起こるトラブルにも、やたらゆっくりと対処する感じだ。この領邦はどうやらろくでもないな、とドミニクは改めて思った。


 牢獄に草を入れ、ドミニクが元に戻すとアルヴィンは人間の姿をとったが、何も言わず身動きもしない。どうやら、草が少しばかり足りていないようだった。だが元々「生死を問わず」の賞金首だったので、ドミニクは全額もらうことができた。


 詰め所を出たところで、目の前に突如聖女ナナが出現した。彼女はドミニクに、しばらくの間顕現することができるだろうと言った。


 ドミニクが邪神のしもべと戦う(緩やかな)決意をしたところ、急遽大きな力が流れ込んできたのだという。恐らく、太陽神ダグローラはドミニクにまったく期待しておらず、それゆえにごくわずかな前進でも莫大な評価を与えたのだろうとナナは考えていた。


 ドミニクはそれはナナの世迷言で、太陽神は自分に大いに期待しているのだと解釈していた。とにかく、ナナが何をできるのか知らないが、これで夢の生活が一歩近づいたことは間違いない。


「ナナさん、僕は自分の力で賞金首を倒し、お金を稼ぎました。一方あなたは何をしてくれるのですか? あなたによって僕は真の力を手にすることができるという話でしたが、よもや出まかせではありませんよね」


 ナナは無言で、ドミニクの手を握った。暖かく、陽光に包まれている感覚。ドミニクの目の前で、一本の木が芽吹き見る見るうちに腰の高さほどに成長した。


「まさに君の力は、『お金のなる樹』なんだよ、ドミニク君」


 その小さな樹には今や果実が実り、光り輝くそれは黄金でできていた。


   ■


 ナナはドミニクがその果実を収穫している間にどこかへ消えたが、呼べばまたすぐに現れた。邪神のしもべはまだ覚醒していないが、西方に根付き、力を蓄えているという。もちろんドミニクはそいつの所へ赴くつもりなどなかった。しかしナナは、向こうは勇者をすべて屠るのが目的なので、おのずと出会うことになるだろうと断言した。


 ましな宿に泊まるようになったドミニクは、ある日隣室から出てくる悪魔狩りを見た。不機嫌そうな顔の男で、ドミニクが話しかけると一層不快さを露わにした。


「なんだ貴様は? 俺に話しかけるな」


「悪魔を殺しに来たのですか、この付近で」


「俺がいるということはそうに決まっているだろう」


「殺すところを見たいのですが」


「なんだと?」


「そして殺したあと、あなたがそれを食するところも拝見したく存じます」


「存じるな。馬鹿なガキが、お前どこの――いや、お前の顔に見覚えがあるぞ。そうだ、ドミニク・フリードマン……勇者と言えど、俺たちは特別扱いなどしないぞ」


 そう言いつつもちゃんと会話に応じてくれているではないか。ギデオンといいこの男といい、悪魔狩りたちは異様な、浮世離れした存在というイメージと裏腹に、親切な人々なのではないかとドミニクは思い始めていた。


 悪魔狩りの男がどこかへ行ってしまったので、ドミニクはいつもの酒場にやって来て、高めのランチを注文した。そのうち付近の席にキールや賞金稼ぎたちがやって来る。


「ドミニク、お前さんあの札付きどもの頭をやっつけたって本当か?」


「はい。勇者である僕には造作もないことです。それより、この街に悪魔狩りが来ていたのですが、どこへ行ったのかご存じの方はいませんか」


 一同は顔を見合わせて、肩をすくめた。


「ドミニク、お前は本当に馬鹿なことにばっかり首を突っ込むんだな。グリミルの〈狩人〉どもを追っかけまわすなら、最悪な死が訪れると相場が決まってんだよ」


 キールがそう言ったが、これもまた偏見に塗れた意見だ。彼らグリミル人たちは職務に忠実なだけなのだ。それに勇者は不滅の存在、死など訪れるはずがない。


 ドミニクは、何の情報も期待できそうにない労働者たちに向かって、すばらしい知恵を授けてやろうと語り掛ける。


「あなた方に勇者として、生きるということへの深淵なる哲学を教授したく思います。つまりあなた方は、僕の生徒となるのです」


 そして値段を提示すると、人々は一笑に付し、たかるだけの小僧に何を教わるってんだ、と取り合わぬ始末、ドミニクはこの愚昧な有象無象どもを片っ端からアルヴィンと同じく草に変えてしまおうかと思ったが、そのとき新たな客が店に入って来る。


 その人物はどちらかと言えば地味で、ブライドワース人にありがちな金髪碧眼をした優男だった。しかし、賞金稼ぎたちは一瞬にして緊張し、顔をこわばらせて彼を見つめた。〈人斬りロイク〉――誰かが侵入者の名を呼んだ。ロイクは一直線に、ドミニクの所へ向かってくるようだ。

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